隠しフォルダの中身(脚本)
〇男の子の一人部屋
智也はベッドに座りながら小さな写真立てを眺めている。
『ぴろりん♪』
『そろそろ始まるぞ? なにしてんだよ』とメッセージが届いた。
智也「行けるわけねえだろ・・・」
智也はスマートフォンと写真立てを放り投げる。
写真立てには2人の少年が肩を組みながら、笑顔とピースサインをカメラに向けている写真が入っている。
〇葬儀場
義行「智也くるって?」
浩二「一応連絡したけど」
義行「まあ、そうだよな・・・結局光雄にいくら渡したんだっけ?」
浩二「たしか500万とか言ってたな。それで彼女と別れたとか」
義行「マジかよ。なんで智也も金出したんだ」
浩二「さあな。お前はあいつにいくら貸したんだ?」
義行「いや、おれは1円も渡してねえよ」
浩二「じつは俺もなんだ。あいつ昔から借りたものは返さないってことで有名だったしな」
義行「あ、そういえば小学生のときに借りパクされたソフト、今日返してもらいに行こうかな」
浩二「ああ!俺も貸しっぱなしになってるのあるな・・・返してもらいに行くか」
智也「俺も行くよ」
義行「うわっ!智也じゃねえか」
浩二「来ないのかと思ったよ・・・」
智也「お前が呼んだんだろ?」
浩二「そうだけど、お前あいつに金を」
智也「ああ・・・まあな。それよりも葬式終わったらあいつの家行こうぜ」
義行「いや、でもな・・・」
智也「さっき言ってただろ?貸してたものを返しにもらいにだよ」
浩二「俺らのはまだいいけど、お前はちょっとまずいだろ・・・」
智也「おいおい・・・なに勘違いしてるんだよ」
智也「あいつの家族に金を払ってもらおうなんて思ってないから安心しろよ」
浩二「じゃあ、なんの目的が合って・・・」
智也「約束を守るためだよ」
智也「じゃあ、後で家に行くって光雄の親に挨拶がてら声かけてくるわ」
去っていく智也。
浩二「なんだろ約束って・・・」
義行「さあ・・・?」
顔を見合わせる義行と浩二。
〇ファミリーレストランの店内
休日の昼過ぎ。
ランチタイムが終わり少し空いている店内。
義行「おばさん元気そうで良かったな」
浩二「そうだな。それよりお前いいのかよ。そんな物もらって・・・」
智也の前にはノートパソコンが置かれている。
智也「いいんだよ。光雄の遺言で俺にパソコン渡すように書かれてたみたいだし、 おばさんからも是非って言われたしな」
浩二「ほんとかよ・・・」
義行「でも、なんで光雄はお前にパソコンを渡したかったんだよ」
智也「ああ。どっちかが先に死んだら『隠しフォルダ』を見るって約束しててさ」
義行「隠しフォルダ!? お前それって宝の地図的なやつじゃないのか!?」
智也「そんなんじゃねえよ。ただ設定変更しないとフォルダが見えなくなるだけ」
義行「そんな機能あるのか!」
浩二「でも、わざわざ隠しフォルダに入れた物ってなんなんだろ?」
智也「さあ・・・? まあ、見てみるよ」
智也はパソコンを操作して、隠しフォルダを表示するように設定変更した。
『智也へ』と書かれた隠しフォルダが出てきた。
智也「ふーん」
一通り読み終わった智也。
義行「おい!中身なんだったんだよ!」
義行「俺にも見せてくれよ!そんなにすごいものは入ってたのか!? 宝の地図か?それとも、もっとすごい・・・」
智也「そんなんじゃねえよ、ただのテキストファイルだった」
智也、立ち上がる。
智也「じゃ、俺帰るわ」
義行「お、おい!ちょっと・・・!!」
浩二「中身なんだったんだろうな」
考え込む義行と浩二。
〇男の子の一人部屋
パソコンの画面を食い入るように見ている智也。
〇男の子の一人部屋
光雄「なあ智也。俺たちが仲良くなったきっかけ覚えてるか?」
智也「さあ?覚えてないな・・・」
光雄「寂しいこと言うなよ・・・ 俺はバッチリおぼえてるぜ!小学生のときに発表した将来の夢が同じだったことだぞ」
智也「へーそうだっけ」
光雄「リアクション薄いな! その分だと将来の夢なんて言ったか覚えてないだろ?」
智也「まあな」
光雄「社長だよ!社長!」
智也「当時は現実が見えてなかったんだな・・・」
光雄「そうかもしれないがいまは違うぜ! じつは俺、起業するんだよ!」
智也「そうか・・・おめでとう」
光雄「な、それだけかよ」
智也「わかった。じゃあ俺にも協力させてくれ ・・・500万投資する」
光雄「な!お前何いってんだよ! それは彼女と結婚するための資金だって・・・」
『プルルルルルル・・・プルルルルルル・・・』
光雄「あ、すまん。 電話がかかってきた。ちょっと外出てくるから冷静になって考えろよ! 俺はそんなのを求めてないからな!」
部屋から出ていく光雄。
智也「忘れるわけないだろ・・・」
机の中から古いノートを取り出す。
表紙に『社長ノートと書かれている』
中には、
『絶対に二人共社長になる!もしどっちかがなったら片方は全力で応援すること!』
と書かれている。
〇川に架かる橋
光雄「おい智也!お前彼女と別れたって聞いたぞ」
智也「ああ、まあな」
光雄「それってやっぱりお前が勝手に俺の事業に投資したから」
智也「別にそんなんじゃねえよ」
光雄「・・・返すよ500万」
智也「いいよ。元々返ってくると思ってないし、事業上手く行ってないんだろ?」
光雄「うるせえ!とにかく返す!24時間365日働いてでも返すからな!覚えてろ!」
智也「昔貸してた本とかゲームも返してこないくせによく言うよ・・・」
光雄「お前の幸せを奪ってまで、恵んでもらうほど落ちぶれちゃいねえからな!」
智也「はいはい・・・」
〇男の子の一人部屋
隠しフォルダのテキストには、光雄が起業したときに失敗したことや成功のコツが記されている。
最後に、『もし、許されるのであれば智也が俺の夢を継いでくれ。最後まで迷惑かけてごめん』
と書かれている。
智也「次は俺の番だ」
立ち上がる智也。
金の切れ目は縁の切れ目と言いますが、この二人には関係のない言葉なんでしょう。
他界した後もこうして繋がりができて、夢を繋いでいくのはなんだか羨ましさを感じます。
親友と言える友達が居るっていいな。その親友の為、500万円も。しかし、智也がそれで幸せならば何も言うことありません。智也には是非、社長さんになって欲しい。
こうゆう固い絆の友情っていいなと純粋に感動しながら読みました。同じ夢をもって共に戦う仲間だったってことですね。今は離れてくらす親友に会いたくなりました。