一期一会(脚本)
〇黒
〇男の子の一人部屋
ファン「やっほー」
ファン「いつも応援してるよ~」
うれしい!ありがとう
ファン「昨日のライブで──」
あらら
〇勉強机のある部屋
ファン「会いに来たよ~」
あー!
待ってたよ~
ファン「あのね──」
うんうん
えっ、終わり?
〇コンサートの控室
「もう!!」
ミカ「いつもいつも」
ミカ「ちっとも話なんかできやしない!」
原マネージャー「どうしたの?」
ミカ「原さん、私ミーグリ嫌い」
ミカ「だって、ちっとも会話にならないんだもん」
原マネージャー「仕方ないのよ 今は対面の握手会ができないから」
原マネージャー「オンライントーク会であるミーグリは、今やファンサービスの主流よ」
ミカ「それにしたって、時間が短いわよ」
ミカ「1人10秒弱じゃ話なんかできないよ」
ミカ「早く握手会に戻してほしいわ」
原マネージャー「でも、ミーグリは遠方のファンも参加できるしメリットも多いのよ」
ミカ「それはそうだけど・・・」
原マネージャー「ほらほら、休憩はおしまい」
原マネージャー「次の人、待ってるわよ」
ミカ「は~い」
〇田舎の病院の病室
洋介「こ、こんにちは」
あっ
洋介さん!いつもありがとう
洋介「は、はい、えと・・・ぁ」
ありゃ、洋介さーん
〇コンサートの控室
ミカ「私、もうちょっと休憩する」
原マネージャー「今度はどうしたの?」
ミカ「洋介さんて言う、毎回来てくれるファンの方がいるんだけど」
原マネージャー「今の人?」
ミカ「そう」
ミカ「いつもミーグリに来てくれるのに、まともな会話になったことがないの」
ミカ「あんまりだと思わない?」
原マネージャー「チケット一枚あたりの持ち時間は約10秒」
原マネージャー「推しともっと話したい人は、ミーグリ権利付きCDを何十枚も購入するわ」
ミカ「なんか、気が引ける・・・」
原マネージャー「ふぅ、仕方ない」
原マネージャー「少し、お茶入れましょう」
〇レトロ喫茶
原マネージャー「座って」
原マネージャー「あまり時間はないけど、話を聞くわ」
ミカ「私、ミーグリ嫌い」
ミカ「ミーグリやめたい」
原マネージャー「どうして?」
原マネージャー「今までだって一度も休んだことないじゃない」
ミカ「さっきの洋介さんね」
原マネージャー「ん?」
ミカ「あの方が初めてミーグリに来てくれた時に言ったの」
〇田舎の病院の病室
洋介「僕も妹もミカさんが大好きで、ミカさんのミーグリは絶対いつも全部行き──」
〇レトロ喫茶
ミカ「嬉しかったなぁ」
ミカ「最初はたくさんある応援のひとつだと思っていたけど」
ミカ「本当に毎回来てくれる洋介さんを、私が裏切れないって思ったの」
原マネージャー「そう」
ミカ「でもね」
ミカ「正直、もう限界だわ!」
原マネージャー「ちょ、ちょっとミカちゃん」
ミカ「原さんだってわかるでしょ?」
ミカ「ミーグリに来るのは、必ずしも好意的な方ばかりじゃないわ」
ミカ「『昔の方が可愛かったね』」
ミカ「『いつまでいんだよ?』」
ミカ「『本当は彼氏いるんでしょ?』」
ミカ「もうウンザリ!」
原マネージャー「き、気持ちはわかるわ」
原マネージャー「でも、酷いユーザーは運営がブロックしているし」
原マネージャー「今でも、来てくれているんでしょ? 洋介さん」
ミカ「うん」
原マネージャー「だったら、ミカちゃんももう少し頑張ってみたら?」
ミカ「・・・」
原マネージャー「そのうち握手会だって再開されるはずだから、ね?」
ミカ「・・・わかった」
ミカ「原さんに話したら、なんかすっきりした」
原マネージャー「よし!」
原マネージャー「じゃ、そろそろ戻りましょう」
〇黒
〇コンサート会場
〇店の休憩室
原マネージャー「ふぅ」
原マネージャー「今日でライブも最終日か」
原マネージャー「でも、明日からはまたミーグリが始まるわ」
原マネージャー「タイトなスケジュールだけど、皆には頑張ってもらわないと」
原マネージャー「はい?」
ミカ「ちょっといいですか?」
原マネージャー「どうしたの?」
ミカ「明日からのミーグリですけど」
ミカ「私は不参加にしてください」
原マネージャー「何があったの?」
ミカ「覚えてますか? 洋介さんのこと」
原マネージャー「ええ、もちろん」
ミカ「あれから、ミーグリにずっと来ていないんです」
原マネージャー「え!?」
ミカ「個別、全国、全てのミーグリに一切来ていないんです」
原マネージャー「そんな・・・」
ミカ「ですから」
ミカ「私も、頑張る必要はなくなったんです!」
原マネージャー「ミカちゃん待って!」
〇黒
〇コンサートの控室
原マネージャー「運営に話しておいたわ」
ミカ「すみません」
原マネージャー「その代わり、今日一日だけは頑張りなさい」
原マネージャー「その後のミーグリは全て振替にするから」
ミカ「わかりました」
ミカ「今日のミーグリは精一杯やります」
〇女の子の一人部屋
皆は笑顔で話してくれるけど・・・
ファン「それでね」
こんな短い時間で本当に楽しいの?
ファン「大好きー」
言いたい事をちゃんと伝えられないのって、すごく辛いんじゃない?
ファン「あとねぇ──」
〇コンサートの控室
ミカ「ハァ」
ミカ(心無い言葉をぶつけられることもあれば、画面に酔って体調を崩すメンバーもいる)
ミカ(ミーグリにメリットがあるとは思えない)
ミカ「あれ!?」
ミカ「この方って・・・」
次の人は
『洋介の妹です』様
ミカ「まさかね」
〇田舎の病院の病室
洋介の妹です「ミカちゃん!」
そのお部屋!
洋介の妹です「え?」
あの、もしかしてあなたは
洋介の妹です「私は、ミカちゃんのミーグリに毎回参加させていただいていた洋介の妹です」
やっぱり!
だってお部屋が同じなんだもん
洋介の妹です「部屋?」
洋介の妹です「ああ、 すいません」
洋介の妹です「ここは病院なんです」
病院・・・?
洋介の妹です「兄は昔から体が弱くて、ずっと入院していました」
洋介の妹です「そして、ミカちゃんとの最後のミーグリから一週間後に亡くなったんです」
亡くなった?
洋介の妹です「兄は口下手で、どうしてもミカちゃんに言いたいことが言えなかったみたいで」
洋介の妹です「今日は、私が兄の代わりにお伝えしに来ました」
言いたかったこと?
洋介の妹です「『ミカさん・・・』」
洋介の妹です「『いつも元気をありがとう』」
〇コンサートの控室
原マネージャー「ミカちゃん?」
〇フェンスに囲われた屋上
ミカ「ハアハア」
ミカ「く・・・」
「ミカちゃん!」
原マネージャー「どうしたの?」
ミカ「洋介さんね・・・」
ミカ「亡くなったんだって」
ミカ「来ないわけだよね」
原マネージャー「ミカちゃん・・・」
ミカ「うぅ」
ミカ「原さん」
ミカ「私、やっぱりミーグリ嫌いだよ!」
ミカ「ううぅ・・・」
ミカ「嫌いだ・・・」
ミカ「うう・・・」
〇黒
〇コンサートの控室
原マネージャー「本日のミカのミーグリは全てキャンセルします」
原マネージャー「後日振替の対応を・・・」
「その必要はありません」
原マネージャー「ミカちゃん!」
原マネージャー「大丈夫なの?」
ミカ「はい、ご心配をおかけしました」
原マネージャー「いけるのね?」
ミカ「はい、それと」
ミカ「明日からのミーグリも全て参加しますので、振替対応はいりません」
原マネージャー「ええ!?」
原マネージャー「本当に大丈夫?」
ミカ「洋介さんの妹さんが言ったんです」
〇田舎の病院の病室
洋介の妹です「兄の代わりじゃないけど、」
洋介の妹です「これからは私がミカちゃんのミーグリに行きますね」
洋介の妹です「私もミカちゃんの大ファンだから!」
〇コンサートの控室
ミカ「裏切るわけにはいかないでしょ?」
原マネージャー「そうね」
〇空
〇田舎の病院の病室
洋介の妹です「もう片付けるね、お兄ちゃん」
洋介の妹です「ちゃんと伝えたからね」
発する側が「この程度」と思っても、受け取る側には大きな意味を持つことってたくさんあるんだろうな、と改めて思いました。
妹さんは兄の思いを伝えるためにCDいっぱい買ったんでしょうね。彼は握手会だったら行けなかったんだろうな。
優しいお話をありがとうございました。
私はアイドルの推しとかいませんが、すごく切なくて良いお話でした😭
たった数十秒だけど会いにきてくれるって、すごいことですね。
最後の、直筆スチルが胸に刺さりました。
ミーグリが仮想の単語だと思って見てました。実在する単語だったんですね。推しのアーティストはそういうのがない方なので初耳でした。
リモートであの握手会のスピードだと何も出来ないですよね。アイドル側視点っていうお話が新鮮で楽しめました。