雨中喫茶〜お代はあなたの不幸です〜

ヤマ

雨の中に佇む店(脚本)

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〇道玄坂
  私は途方に暮れていた。
  付き合っている彼氏の浮気が発覚したのだ。

〇教室
  相手は私の友人だった。
  彼のことで色々と相談に乗ってもらってたけど、親身になって話を聞くフリをして、内心では私のことを嗤ってたんだろう。
  高校生の恋愛なんて、大人から見ればおままごとなんだろうけど、私には大きなショックだった。

〇黒
  更に、この間受験した大学から不合格通知が届いた。
  最近、彼との関係がギクシャクしていて勉強に集中できなかったから・・・・・・そのせいだと思う。
  親からも教師からも酷く失望された。

〇道玄坂
  そんなわけで、目下絶望中の私は
  途方に暮れて歩いている。
私(何で私がこんな目に遭わなければならないんだろう)
私(私の何がいけなかったんだろう)
私(彼に嫌われたくなくて必死に頑張ってきたのに・・・・・・)
  トボトボと、あてもなく歩く。

〇道玄坂
私「えっ・・・・・・?」
私「え? ウソ? いきなり?」
  歩いていると、突然の雨に見舞われた。
  天気まで私を馬鹿にしてくるのか。
  そんな風に悲しく思った矢先、
  とある喫茶店が目に付いた。

〇店の入口
私「雨中喫茶?」
  レトロな雰囲気の、何の変哲もない喫茶店だった。
私(ちょうど良い。 あそこでちょっと雨宿りさせてもらおう)

〇シックなカフェ
店の人「いらっしゃいませ」
  店の人は、不思議な雰囲気の女の子だった。
  バイトかな。
  彼女以外に、店員さんのお客さんもいないみたいだった。
店の人「ご注文は」
私「はい。 えっと、あの・・・・・・メニューとかって」
店の人「すぐにお持ちいたします」
  店の人はにっこりと笑って店の奥に行った。
  てっきりメニュー表を持ってきてくれるんだと思っていたら・・・・・・

〇シックなカフェ
店の人「お待たせいたしました。どうぞ」
私「え? 私、まだ注文してないですけど」
店の人「今の貴方に必要なものをお持ちしました」
私「は、はあ・・・・・・」
  よく分からないけど、それは見たところ普通のココアだった。
  ついでに、店の人は砂時計も置いて行った。

〇シックなカフェ
私(まあ良いか。せっかくだし、もらっちゃお)
  私はカップに口を付ける。
私「あ、美味しい」
  甘くて温かい。
  嫌なことが続いて沈んでいた心が優しく包まれる。
私(そうだ。あんな男いらない。 彼の浮気癖にはうんざりしてたんだ)
  もう一口、飲む。
  カカオの香りが辛い気持ちをほぐしてゆく。
私(あの子とも縁を切ろう。 もう友達なんかじゃない)
私(よく考えれば、ノートの写しとか宿題の手伝いとか、上手く利用されてばかりだった)
私(その上、私の彼氏にまで手を出すなんて最低じゃない)
  更に、もう一口、飲む。
  ミルクの風味が疲れた心を癒してくれる。
私(この間の受験は落ちたけど、でもあれは本命じゃない私立の分だし)
私(次のの国立の方でバッチリ合格すれば良いだけじゃない)
私(これからは余計なことで悩まずに済むし、勉強に専念できる!)
  そうしてカップの中のココアを飲み干す。
  さっきまであんなに落ち込んでいた気分が、いつの間にかすっかり楽になっていた。

〇シックなカフェ
店の人「いかがでしたか?」
私「美味しかったです。ごちそうさまでした」
店の人「それは良かったです」
私「えっと、お代は・・・・・・?」
店の人「それなら既に頂いております」
私「え? まだ払ってないですけど」
店の人「大丈夫ですよ。さあ、どうぞ」
私「はあ・・・・・・」
  訳が分からないまま、店の人に促されるままに席を立つ。
  その時、ふとテーブルの上の砂時計に目をやった。
  最初は白かった砂が、いつの間にか琥珀色に変わっていた。
  不思議に思っていると、店の人に声をかけられた。
店の人「どうぞ。もう大丈夫ですよ」
私「あ、はい」
店の人「またのご来店、お待ちしております」

〇空
  店の人に導かれて外に出る。
  さっきまでの大降りの雨が嘘だったみたいに、空は晴れていた。
私「あ、虹が出てる。綺麗だな」
  ココアを飲んでいるうちに前向きな気持ちになった私は、軽い足取りで自宅に帰った。

〇古い図書室
  それから、彼氏だった人とも友達だった人とも縁を切り、私は勉強に邁進した。

〇合否発表の掲示板
  その結果、第一志望だった国立の大学に見事に合格した。
  親も先生も掌を返したように私の合格を喜んだ。

〇道玄坂
  あれから、もう一度例の喫茶店に行きたくて
  あちこちを歩いて回ったけど、
  どこに行ってもあの店は見当たらなかった。
  ぼんやりとして歩いていたからだろうか。
私(いつか、また出会えると良いな)

〇シックなカフェ
  砂時計の中身は特別な甘味料
  それは、訪れた客の心を吸い込み、
  白からその色に変わる。
店の人「ああ、美味しい」
店の人「やっぱり、他人の不幸の味は最高ね」

コメント

  • 砂時計とかココアとか、アイテムのチョイスが絶妙ですね。「いいお店だなあ」とほっこりしてたらラストのセリフ!世の中には不幸が溢れているから、飲みすぎてお腹こわさないでね!

  • 刺さりました! 不思議で心あたたまるお話……と思わせて、ラストのダークなセリフが光りますね!
    私も他人の甘い不幸を味わいたいタイプです。それでいて誰かをこっそり幸せにしたいとも思うので、本当にこのお話が刺さります。
    私も雨が好きなので、毎日雨でいいと思います!
    雨の描写も含めて、好みど真ん中の作品でした!

  • 心の闇、不安、不幸、そういうものって何故か連鎖してどんどん悪い方向に向かってるように感じてしまいがちです。
    気持ちの持ちようって言うように、それが天候にまで左右することもあるように感じる時も…。

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