いつか桜の木の下で

羽遊ゆん

《読切》ボーイミーツ、メイド?(脚本)

いつか桜の木の下で

羽遊ゆん

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〇黒

〇森の中
男「うわぁぁ!」
森の案内人「ご主人さま!」
森の案内人「目が覚めましたね!」
  よかった
男「キミは?」
森の案内人「私は、この森の案内人です」
森の案内人「ご主人さまを、案内するのが私の仕事です」
男「案内って、どこに?」
森の案内人「あ、それは・・・あとでお話ししますね」
  まさか
  会えるなんて
森の案内人「それより、ご主人さま?」
森の案内人「ご自分のこと、わかりますか?」
森の案内人「名前とか」
男「俺の、名前?」
男「名前は・・・尚斗(なおと)」
森の案内人「あ、名前はオッケーですね!」
森の案内人「では、なぜここにいるのか、わかりますか?」
尚斗(なおと)「う~ん?」
尚斗(なおと)「俺」
尚斗(なおと)「・・・」

〇ゆるやかな坂道
尚斗(なおと)(あ、猫)
尚斗(なおと)(バイク!?)
尚斗(なおと)「危ない!!」

〇森の中
尚斗(なおと)「死んだ!?」
森の案内人「正解です♪」
尚斗(なおと)「俺、死んだのに、笑顔」
森の案内人「あ!」
森の案内人「す、すみません~」
森の案内人「仕事中は営業スマイルが決まりで~」
尚斗(なおと)「・・・営業スマイル、なんだ」
森の案内人「はわ! 違います違います! 心からのスマイルです~!」
尚斗(なおと)「死んだのに、心からのスマイル?」
森の案内人「あわわ、そーじゃなくてぇ」
  会えたのが
  嬉しすぎて
尚斗(なおと)「あは! からかっただけ、ゴメンね」
森の案内人「(ホッ)」
尚斗(なおと)「で? そのご主人さまって言うのも決まりなの?」
森の案内人「いいえ! 私が言いなれているから──」
森の案内人「え、えっと」
森の案内人「ほらっ、このメイド姿ですから! ね?」
尚斗(なおと)「ははっ、ま、なんて呼ばれてもいいけど」
尚斗(なおと)「なんかメイドカフェにでも来てるみたいで面白い」
尚斗(なおと)「で、どこに案内してくれるの?」
森の案内人「はい! ご主人さまを、冥土、つまりは死者の魂が集まる場所へご案内します」
森の案内人「私に、ついてきてください」
尚斗(なおと)「メイドが冥土へご案内・・・ね」
尚斗(なおと)「よろしく」

〇山中の川
森の案内人「あの、ご主人さま?」
森の案内人「この森に来る魂は、なにかしら未練や心残りを持っていて──」
森の案内人「私の仕事は、そういう未練を断ち切ってから冥土へ送り出すことなんです」
森の案内人「なにか心当たりは?」
尚斗(なおと)「未練、か」
尚斗(なおと)「俺さ、死ぬの2回目なんだ」
尚斗(なおと)「いや! 気のせいかもしれないんだけど」
尚斗(なおと)「1回目に死んだとき、サクラが助けてくれたんじゃないかって気になってて──」
尚斗(なおと)「あ、サクラっていうのは猫なんだけど」
尚斗(なおと)「サクラとは、桜の木の下で会ったんだ」
尚斗(なおと)「怪我してて、ブルブル震えてて」
尚斗(なおと)「病院につれていって、必死で看病した」
尚斗(なおと)「で、」
尚斗(なおと)「元気になったサクラの可愛さに、もうメロメロ!」
森の案内人「でへへへ・・・」
尚斗(なおと)「ん?」
森の案内人「あ、続きをどうぞ!」
尚斗(なおと)「サクラがさ、俺にプレゼントをくれたことがあるんだ」
尚斗(なおと)「それが、まだ生きてる蝉でさぁ」
尚斗(なおと)「部屋の中で、ジージー鳴いてんの!」
尚斗(なおと)「あっはは! あれには驚いた!」
尚斗(なおと)「俺、虫苦手なんだ」
森の案内人「そ、その節は失礼いたしました!」
森の案内人「虫がお嫌いなの・・・知らなかったもので」
尚斗(なおと)「・・・え?」
森の案内人「はっ」
森の案内人「・・・って、サクラが言ってましたよ~?」
尚斗(なおと)「サクラと会ったの!?」
森の案内人「は、はい」
尚斗(なおと)「そうなんだ」
尚斗(なおと)「てことは、サクラは死んだってことだよな?」
森の案内人「そう、なります」
尚斗(なおと)「じゃあ、やっぱりあのとき──」

〇本棚のある部屋
尚斗(なおと)「あぁ~! こんなの今夜中に終わるわけ──」
尚斗(なおと)「サクラ~、ごめんな、今は遊べないんだ」
尚斗(なおと)「この仕事が終わったら、一緒に」
尚斗(なおと)「む、胸が・・・」
尚斗(なおと)「うぅ・・・」
尚斗(なおと)(こんな、痛み、はじめて)
尚斗(なおと)(サ、クラ・・・声が、出ない)
尚斗(なおと)(ダメだ・・・意識が──)

〇本棚のある部屋
尚斗(なおと)「はっ」
尚斗(なおと)「あれ? 俺──」
尚斗(なおと)「サクラ・・・どこ?」

〇山中の川
尚斗(なおと)「目が覚めたらサクラがいなくて」
尚斗(なおと)「胸の痛みは・・・消えてた」
尚斗(なおと)「部屋は閉め切ってたんだ。出ていけるわけないのに」
尚斗(なおと)「なあ! このときにサクラが俺の身代わりに死んだってことだろ?」
森の案内人「そ、そこまでは」
  .
  
  ごめんなさい
  
  .
  .
  
  話しちゃいけないの
  
  .
尚斗(なおと)「ごめん、わかんないよな」
森の案内人「で、でも!」
森の案内人「サクラは・・・ご主人さまと会えて、一緒に過ごせて」
森の案内人「凄く、すごーく幸せだったって言ってましたよ?」
尚斗(なおと)「ふふっ、そっか」
尚斗(なおと)「よかった♪」
尚斗(なおと)「俺、サクラのことがずっと忘れられなくて」
尚斗(なおと)「今回死んだのも、サクラに似た猫がひかれそうだったのを助けたからで──」
森の案内人「ご主人さま!」
森の案内人「サクラは、そういうご主人さまの優しいところが大好きだって、言ってました」
尚斗(なおと)「そう?」
尚斗(なおと)「じゃあ安心した!」
尚斗(なおと)「俺の心残りは、サクラのことだけ」
尚斗(なおと)「サクラの気持ちが聞けてよかった」
  .
  
  私も
  
  .
  .
  
  言葉で伝えられて
  
  .
  .
  
  よかった
  
  .

〇けもの道
尚斗(なおと)「ねえ、キミは?」
森の案内人「へ?」
尚斗(なおと)「キミは、冥土に行かないの?」
森の案内人「私・・・は、罪人なんです」
  .
  
  命を交換することは、罪
  
  .
森の案内人「この仕事が、刑罰なんです」
森の案内人「ご主人さまのような魂がいないとき、この森は、闇に包まれます」
森の案内人「暗闇の中、ひとりぼっちで魂を待ち続けるのは」
森の案内人「とても淋しくて、とても・・・怖い」
尚斗(なおと)「そう、なんだ」
森の案内人「そんな顔、しないでください!」
森の案内人「刑期を終えれば、私も冥土へ行って、転生できますので」
森の案内人「私、お仕事頑張ります!」
尚斗(なおと)「キミは、めげないね」
尚斗(なおと)「応援してる」
森の案内人「えへへ」
森の案内人「あ、もうすぐですよ!」

〇桜並木
尚斗(なおと)「うわぁ、これは」
森の案内人「キレイですよね!」
尚斗(なおと)「すごいな」
森の案内人「ご主人さま、そこに花びらがたくさんあるでしょう?」
尚斗(なおと)「ああ、これ?」
森の案内人「その花びらに乗ると、冥土へ行けます」
尚斗(なおと)「もう、お別れか」
尚斗(なおと)「あのさ・・・さっき話してた、キミも転生するって話」
森の案内人「は、はい!」
尚斗(なおと)「転生後に会える、かな?」
森の案内人「え? なぜですか?」
尚斗(なおと)「キミのことが・・・気になるから」
森の案内人「え、え、え・・・」
尚斗(なおと)「転生後、姿が変わっても、キミのこと、わかる気がするんだ」
尚斗(なおと)「そう、思わない?」
森の案内人「ご主人さま!?」
  私のこと、気づいて?
尚斗(なおと)「また桜の木の下で会えたらいいな」
尚斗(なおと)「じゃあ俺、先に行くわ」
森の案内人「ご主人さま! 私」
尚斗(なおと)「見送って?」
森の案内人「は、はい!」
  .
  
  私の仕事は、魂を送り出すこと
  
  .
森の案内人「いってらっしゃいませ、ご主人さま!」
尚斗(なおと)「うん、ありがとう。またな!」
  ご主人さま
  またいつか
  桜の木の下で会いましょう

コメント

  • 暖かい話、感動しました🥹 メイド服を活かしたストーリーも綺麗で、面白かったです✨

  • 生前もあの世でも、互いに想いあう二人が素敵でした✨ そんな二人が来世での再会を願っているのだから、きっとまた出会えますね😌
    全体を通して丁寧な演出でしたが、ラストの桜の背景とエフェクト、効果音はとてもマッチしていて印象的でした🌸

  • 禁忌を犯してしまったサクラと、猫好きな彼。彼の残した未練を思うと、サクラじゃなくても泣けちゃいますね。束の間の2人の時間に、切なくも心が温かくなりました。
    生まれ変わった2人が、また桜の木の下で出会えますように✨

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