甘い生活(脚本)
〇個別オフィス
京極佐保子(・・・最近、検事の様子がおかしい・・・)
京極佐保子「・・・・・・・・・」
京極佐保子(いや、訂正。 元からおかしかったのが、さらに輪をかけておかしくなった)
京極佐保子(今日だって、被告人と被害者の名前間違えたり、違う案件の調書に決裁の判ついたり、正直、事務官・・・部下の私の仕事が増えた)
京極佐保子(なによりキモいのは、仕事に隙間ができると、スマホを見てニヤニヤ・・・ まあ、その理由は分からないわけじゃないけど・・・)
棗藤次「ほんなら、京極(きょうごく)ちゃん! 今日もお疲れさん!!」
京極佐保子「あ、はい。 お疲れ様ですけん」
バタン!!
京極佐保子「・・・・・・」
自分の返事を聞く間もなく閉じられた扉を見て、佐保子は呆れながら呟く。
京極佐保子「・・・ホント、お熱いこと・・・」
〇アパートのダイニング
棗藤次「た、ただいま!!」
棗絢音「お帰りなさい! 藤次さん!!」
棗藤次「!!」
帰宅するなり、台所で家事をしている絢音を見た瞬間、藤次は慌てて彼女の肩を掴み、側の椅子に座らせる。
棗絢音「と、藤次さん?!」
棗藤次「あかんやん!! こんな冷えるとこでウロウロしたらっ!! 飯ワシするよし、向こうの居間行っとき!!」
棗絢音「だ、大丈夫よぉ〜 先生も、そろそろ動いて運動とかもしなさいって・・・」
棗藤次「あかん!」
棗絢音「は、はい?!!」
棗藤次「アカン! 万一転けて腹打ったりしたら、ワシ心臓幾つあっても耐えられん!! 後生や!大人しゅうしとって・・・」
棗絢音「大丈夫よぅ・・・ もう安定期入ったんだから。 ねぇ〜 心配性なお父さんねぇ〜」
そう言って、絢音はふっくらと膨らんだ自身の子宮に手を添え微笑んでいると、藤次は彼女を抱き上げ居間に強引に連れて行く。
〇明るいリビング
棗絢音「もー・・・ 心配し過ぎ!! 藤次さんと私の赤ちゃんよ?! その辺の子より丈夫!!」
棗藤次「そやし、お前体小さいし、年齢も年齢やし、心配なんや。 赤ん坊もやけど、お前になんかあったら・・・ワシ・・・」
棗絢音「藤次さん・・・」
自分を抱きしめて小さく震える藤次に、どう言って安心してもらおうか思案していた時だった。
棗絢音「!! あ・・・」
棗藤次「な、なんやどないした!!?」
瞬く藤次に、絢音は仄かに頬を染めて口を開く。
棗絢音「赤ちゃん・・・お腹、蹴った・・・」
棗藤次「えっ!? ホンマ?!!!」
棗絢音「うん! あ!・・・また!」
棗藤次「ほ、ほんなら、ワシも、触って、エエか?」
棗絢音「勿論よ。 お父さんなんだから・・・」
棗藤次「ほ、ほんなら・・・」
そっと、絢音の子宮に触れる藤次。
すると、お腹が僅かに振動し、彼は思わず破顔する。
棗藤次「可愛い・・・ 分かるかぁ〜 今、お父ちゃんが撫でてるんやで〜」
棗絢音「良かったわねぇ〜 お父さんにナデナデしてもらって。 そろそろ名前も決めないとねぇ〜 坊や」
棗藤次「ぼ、坊やって・・・ 子供、男か?!!」
棗絢音「・・・うん。 我慢できなくて聞いちゃった。 あなた似の元気な男の子、産まれて来たら嬉しい・・・」
棗藤次「絢音・・・」
棗絢音「うん。 藤次さん・・・」
見つめ合いキスをした刹那、台所からけたたましい鍋蓋の鳴る音がする。
〇明るいリビング
棗絢音「や、やだ私! お鍋火にかけたままだった!!」
棗藤次「ああアカン!!! 動くな!! ワシする!!」
そう言って、藤次は台所に駆けて行き、鍋蓋に手を掛ける。
棗藤次「あっっつ!!!!!」
棗絢音「と、藤次さん?!!?」
棗藤次「だ、大丈夫、ちょお火傷しただけ・・・・・・うわっ!!吹きこぼれた!!」
棗絢音「と、藤次さ〜ん・・・」
慌てながらも料理を進めていく藤次を見つめながら、絢音はそっと、お腹の我が子に囁く。
棗絢音「・・・幸せになろうね。藤太(とうた)・・・」
藤次のようになって欲しいと、藤の文字を取って密かに決めた我が子の名前を呟く絢音。
やや待って、ちゃぶ台に暖かな夕食が並ぶ
棗藤次「絢音!! しっかり食うんやで!! 元気な男の子、産んでや!!」
棗絢音「やだ・・・ そんな大盛り食べられないわよ〜」
棗藤次「あーかーんー 坊の為にもこれくらい食べ!! なんなら食べさせたろか?」
棗絢音「も〜❤︎」
幸せに満ちた表情で茶碗を受け取り、2人は向かい合わせで座り、手を合わせる。
「頂きます!!」
・・・来年は、3人で食卓を囲む。
いや、4人、5人、
孤独だった2人は、少しずつ家族になっていく喜びに、胸をときめかせていた・・・
どうか、
どうか、
2人に、幸多き未来を、
永久(とこしえ)に・・・
お腹に子供がいるときは奥さんよりも夫の方が心配であたふたしちゃうのはあるあるですね。赤ちゃんの名前、夫から一字取って名付けるという絢音さんの心遣いを知ったら、藤次さんはまた嬉し泣きしちゃうでしょうね。
こんな夫婦が世の中にたくさんいたら、どれほど優しく幸せな世界だろうと思ってしまいます。2人の愛情をたっぷり受けてうまれてくる藤太くんの誕生が待ち遠しいです。
作者様の書いたこのシリーズ、凄く素敵で面白く拝読させて頂いています!
ついに赤ちゃんが…って思うと、なんだか知人の子が産まれるような感覚になっています笑