彼女が知らない彼女の秘密を、しかし僕だけは知っている。

絢郷水沙

彼女の知らない秘密を、しかし僕だけは知っている(脚本)

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〇遊園地の広場
  彼女の知らない秘密を、しかし僕だけは知っている。
佐岳 誠(さたけ まこと)「ごめん、待った?」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「ううん。私も今来たとこ」
  彼女の名前は木更津渚。今僕がお付き合いしている人だ。
木更津 渚(きさらずなぎさ)「それじゃあ、行こ。私楽しみにしてたんだー!」
  そう言って、彼女はいつもよりも楽しそうに笑った。
  今僕は彼女と一緒にデートをしていた。ごくごく一般的な、代わり映えのしない普通のデート。
  しかし、僕にとっては大事なデートだ。
  僕は彼女の秘密を知っている。それは──
  彼女が今日、死んでしまうということだ。
木更津 渚(きさらずなぎさ)「ねぇ、何乗りたい? 私はジェットコースターがいいな!」
佐岳 誠(さたけ まこと)「ジェットコースターかぁ・・・。怖いから嫌だなあ・・・」
佐岳 誠(さたけ まこと)(彼女を危険から遠ざけなければ・・・)
  僕には、他人に秘密にしている不思議な力があった。
  それは、僕が誰かを見た時、その人の寿命を数字として見ることができるという能力だ。
  彼女と初めて会ったのは約一年前。よく晴れた春の日ことだ――。

〇教室
木更津 渚(きさらずなぎさ)「皆さん初めまして。私の名前は木更津渚といいます。趣味は料理。好きな動物は猫です」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「皆さんと仲良くなりたいです。なので、気軽に声をかけてくれると嬉しいです。これから三年間よろしくお願いします」
  高校生になって、初めてのクラスでのこと。彼女と出会った僕は、彼女から見えるその数字の方ばかりが気になっていた。
  あまりにも少なすぎる数字を目の当たりにした僕は、どうしたらいいのかと悩み続けた。
  一週間、二週間と悩み過ぎていく中で、僕が出した結論。それは──彼女の恋人になることだった。

〇学園内のベンチ
  彼女は、僕の告白に二つ返事でOKしてくれた。
佐岳 誠(さたけ まこと)「い、いいの? その、言っちゃあなんだけど僕なんかで・・・」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「あなたから告白してきたんでしょう。うふふ。変な人ね」
  その時見せた屈託のない笑顔に、どうにも僕の胸は締め付けられた。――その時の彼女の寿命は、すでに一年を切っていた。
木更津 渚(きさらずなぎさ)「こんな私で良ければよろしくお願いします。私を幸せにしてね、誠君」
  そして僕は、彼女の恋人になった。

〇遊園地の広場
木更津 渚(きさらずなぎさ)「誠君、ちょっとトイレ行ってくるね」
佐岳 誠(さたけ まこと)「え、じゃあ僕もついてくよ」
佐岳 誠(さたけ まこと)(彼女を一人にさせるわけにはいかない)
木更津 渚(きさらずなぎさ)「いいって。ちょっと待ってて」
佐岳 誠(さたけ まこと)「でも・・・ほら・・・」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「いいよ、ほんとすぐだから。そこのベンチで待っててね」
佐岳 誠(さたけ まこと)(あ・・・・・・)
  本当の理由を言えない僕は、彼女がそう言うので、仕方なくベンチで待つことにした。
  ──僕が彼女と恋人になったのは、彼女のそばに居続けるためだった。
  死ぬと分かっていても、もしかしたら助けられるかもしれない。何かできるのは僕だけで、それが僕の使命だった。
  何もしないで見過ごすよりも、足掻いてやろうというのが付き合おうと思った理由で、正直、人助け以上の感情はなかった。
  彼女の顔は、可愛らしいとは思うけれども、それでも僕の好みではなかった。
  ──だからこんなことでもなければ付き合うなんて考えられなかった。
佐岳 誠(さたけ まこと)(喉が渇いたな・・・イチゴ・オレが飲みたい気分)
木更津 渚(きさらずなぎさ)「お待たせ。はい、誠君」
佐岳 誠(さたけ まこと)「え、あ、ありがとう・・・」
佐岳 誠(さたけ まこと)(すごい・・・ちょうど欲しかったイチゴ・オレだ)
木更津 渚(きさらずなぎさ)「どうしたの? 浮かない顔して」
佐岳 誠(さたけ まこと)(どうしたらいいのだろう。本当のことを打ち明けるべきなのだろうか・・・)
佐岳 誠(さたけ まこと)「あ、あのさ・・・」
佐岳 誠(さたけ まこと)(いや、やっぱりダメだ。彼女を救えるのは僕だけで、僕が救えば何も問題はない。無闇に不安にさせる必要もない・・・)
木更津 渚(きさらずなぎさ)「ねぇ、誠君。観覧車に乗らない?」
佐岳 誠(さたけ まこと)「え・・・あ、うん。そうだね」

〇観覧車のゴンドラ
木更津 渚(きさらずなぎさ)「うわぁ・・・見て、街が全部見えるよ! ほら、誠君も見てよ」
佐岳 誠(さたけ まこと)「う、うん・・・」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「誠君・・・」
佐岳 誠(さたけ まこと)(・・・・・・)
木更津 渚(きさらずなぎさ)「誠君!!」
佐岳 誠(さたけ まこと)「・・・・・・!!」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「あのね誠君。私ね、今まで誠君に秘密にしてきたことがあるの」
佐岳 誠(さたけ まこと)「え・・・?」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「実は私ね、人の心の中が読めちゃうんだ」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「その・・・今まで黙っててごめんね」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「だから誠君が私と付き合ってくれた理由も本当は知ってたの」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「本当は私のこと好きじゃないってことも。でも私はそれが嬉しかったの。好きでもないのに助けてくれるんだって」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「今日一日、誠君楽しそうにしてない。それは私、嫌だなあ・・・」
佐岳 誠(さたけ まこと)「でも、でも・・・君は・・・今日・・・」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「知ってるよ。私が今日死ぬって。でもそれは誠君のせいじゃない」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「誠君と過ごしてこれたから私、全然悔いなんてないから」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「だからさ、最後は楽しく笑ってようよ・・・」
木更津 渚(きさらずなぎさ)「それにさ、今日はまだ終わってないよ。もしかしたら、案外助かるかもよ?」
佐岳 誠(さたけ まこと)「ごめん・・・ごめんね・・・」
  彼女はそのあと、僕のことをそっと抱きしめた。僕は、理由の分からない涙が止まらなくて、彼女の胸の中で泣き続けた。
  ──結局のところ、その日、僕は彼女を救えなかった。
  二人で帰っていた道中、通り魔が背後からやってきて彼女のことを刺していった。
  それはあまりにも一瞬の出来事で、僕にはどうすることもできなかった。
  抗えない運命なのだとしたら、僕はもっと早くに伝えるべきだったのかもしれない。そしたら彼女は、有意義な人生を送れただろう。
  彼女は最期に、僕に言った――。
  『私と付き合ってくれてありがとう』
  僕はその時、初めて自分の気持ちに気がついた。
  本当は彼女のことが心の底から好きだったってことに――。

コメント

  • 結果がわかっている一日ってどんな気持ちなのでしょう。
    特に自分か相手が死ぬことがわかっていたら…。
    相手の気持ちが読めるというのも驚きな能力ですが、人と違う能力って、良くも悪くも、得ではないかもしれません。

  • 彼女はきっと最初から、そうふたりが出会ったその日から、もう自分の寿命を知っていたんじゃないでしょうか。運命はかえられなかったけれど、そこまでの時間を精一杯生きたと思います。美しいストーリーでした。

  • とても切ないストーリーでした。相手のことを思いやる気持ちの美しさに本当に感動しました。しかし、相手の余命や相手の気持がわかってしまうというのは、どんな気分なのでしょうか。以前は、他人の気持ちがわかればメリットも多いだろうと考えていましたが、いいことばかりではないかもしれません。傷つくことも多いと思います。世の中がこのふたりのように優しい人ばかりだったらどんなに素晴らしいだろうと思いました。

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