彼女は僕を避けている

kakiken

彼女は僕を避けている(脚本)

彼女は僕を避けている

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〇大企業のオフィスビル
  僕は今日核心に迫る決意で彼女を待っていた。
桧田真人「紗流さん!」
紗流萌花「あっ、桧田さん」
桧田真人「仕事終わったんでしょ? 一緒に帰ろう」
紗流萌花「はい」
  彼女は僕が勤務する松芝テックの広報部の新人社員。彼女は半年前研修で僕の所属するシステム開発部で一週間仕事をした。
  その時僕は彼女に一目惚れをした。しかし彼女は僕の部署の先輩である武藤さんと親しくなってしまった。
  イケメンで仕事のできる武藤さんには勝てないと思った僕は彼女のことを諦めた。
  しかし最近武藤さんが突然会社を辞めた。そのことで僕の彼女への思いが再燃した。

〇駅前ロータリー
  会社から駅までの途中、僕は彼女と会話しながら歩いた。彼女は笑顔で僕に接してくれていた。
紗流萌花「じゃあ私ちょっと用事があるのでここで失礼します」
  彼女は何かと理由をつけて駅で僕と別れる。彼女とは同じ方面の電車なのだが、僕と一緒に電車に乗るのが嫌なのだろうか?
  以前は一緒の電車に乗っていた。彼女が変わったのは武藤さんが会社を辞めてからであった。
  思い当たることは一つだけ。僕の彼女への恋愛感情に彼女が気づいて、それで僕を避けだしたのかもしれない。
  僕はどうしても彼女の本心が知りたかった。
桧田真人「待って!」
紗流萌花「はい?」
桧田真人「用事って何?」
紗流萌花「えっ?」
桧田真人「一緒の電車で帰りたくないのかなって。僕の事を避けているのかなって」
紗流萌花「・・・」
桧田真人「君に嫌われるようなことしたかな? もしそうだとしたら教えて欲しいんだ」
紗流萌花「・・・」
桧田真人「僕が嫌いなら君の口からはっきり言って欲しいんだ。その方が僕も諦めがつく」
紗流萌花「諦め?」
桧田真人「あ、いや、その・・・」
紗流萌花「いいですよ、同じ電車で帰ります!」

〇電車の中
  結局彼女の本心はわからないままだった。彼女車内ではずっと無言だった。僕は彼女のピリピリしたオーラを感じ取っていた。
桧田真人「次の駅のそばに新しくイタリアンの店ができたんだ。料理だけでなくスイーツも絶品なんだよ。時間があるなら一緒に行かない?」
紗流萌花「・・・」
桧田真人「あの、紗流さん?」
  その時、車両がカーブで大きく揺れた。その反動で僕はバランスを崩し彼女とぶつかった。
  僕は思わず彼女を両手で抱きしめた。その時、僕は痛みに近い衝撃を体に感じだ。
桧田真人「ご、ごめん」
  僕は慌てて彼女から離れた。その時左肩に強い痛みを感じた。僕は右手で左肩を押さえた。
桧田真人「!!!」
  左肩を触った僕の右手には血がべったりと付いていた。
紗流萌花「そのまま! 動かないでください!」
  彼女はそう言うと着ている上着を僕の肩に被せた。
紗流萌花「痛み、まだ我慢できますか?」
桧田真人「う、うん」

〇駅のホーム
  僕と彼女は次の駅で降りた。彼女は誰かと連絡をとり、やがて迎えに来た車で僕たちは病院へ向かった。

〇病院の診察室
  僕の左肩のケガは銃撃によるものであった。
紗流涼介「久しぶりに銃弾を見たな。さあ、治療は終わったぜ」
紗流萌花「桧田さん、安心してください。この人は見た目胡散臭いですけど、優秀な外科医ですから」
紗流涼介「おい萌花! 俺まで胡散臭い扱いするな。俺は訳あり患者専門なだけだ」
桧田真人「萌花?」
紗流萌花「ああ、この人は私の兄です」
紗流涼介「桧田君だったな。妹と関わると命がいくつあっても足りないぞ」
桧田真人「えっ?」
紗流萌花「ちょっと、余計なこと言わなくていいから!」
紗流涼介「妹を庇ってくれた礼として治療費はタダにしてやるよ。さて、俺は飲み直しに出かけるとするかな」
紗流萌花「桧田さんまで危険な目に遭わせてしまってごめんなさい」
桧田真人「まるで君が狙われていたみたいな口ぶりだけど」
紗流萌花「騒ぎにしたくなかったので電車内ではあなたのケガを隠しました」
桧田真人「どうして君が狙われなきゃいけないんだ?」
紗流萌花「あなたを巻き込んでしまったからには正直に話します。私は警視庁公安部外事課の特別捜査官なのです」
桧田真人「捜査官? 君が? まさか」
紗流萌花「そのギャップが私のストロングポイントです。だから武藤も簡単に私に気を許した」
桧田真人「武藤って、あの武藤さん?」
紗流萌花「松芝テックには外国スパイと内通している人物がいた。その人物を暴くために私は松芝テックに社員として潜入しました」
桧田真人「もしかして、その内通者が武藤さんだった の? 武藤さんが会社を辞めたのは君に逮捕されたから?」
紗流萌花「いいえ。残念ながら真相を掴む前に武藤は姿を消したんです」
紗流萌花「どうやら武藤以外にまだ内通者がいたらしくて、それで武藤に近づく私の存在が向こうの組織に知られてしまって」
桧田真人「それで君が狙われることになったのか」
紗流萌花「私一人ならスナイパーの気配に気づくことはできます。でも誰かと一緒だと難しくなります。特に混んだ電車は最悪なんです」
  僕は気づいた。僕は彼女に避けられていたわけではなく、彼女が僕を避けてくれていたということに。
紗流萌花「あなたの誤解を解こうとした私の判断が間違っていたようです。私のミスであなたにケガをさせてしまいました」
桧田真人「気にしないで。むしろ怪我の功名かな。君の気持ちを知ることができたから」
紗流萌花「・・・」
桧田真人「じゃあ帰ろうか」

〇駅前広場
紗流萌花「今日のことは秘密にしてください。それからもう私と関わるのはやめてください」
  僕は聞こえないふりをして彼女に話し掛けた。
桧田真人「明日も一緒に帰ってくれるかな?」
紗流萌花「・・・駅までなら」
桧田真人「まだ僕を避けるつもり?」
紗流萌花「当然です」
桧田真人「・・・じゃあ駅まで」
紗流萌花「でも誘ってくれたイタリアンのお店には連れて行ってくださいね」
桧田真人「えっ!」
紗流萌花「現地集合なら電車は関係ないでしょ。それじゃまた明日!」
  避けられるのも悪くないかな

コメント

  • 避けている、は本当だったり、被害妄想だったりではっきりしない事が多い気がするんですが、彼はしっかりそれを確かめようとしたんですよね。
    彼女もそれをわかって打ち明けた部分もあるのかな?と思いました。

  • 萌花さんかっこいいです!武藤さんとは恋愛でこじれたのではなかったんですね〜。ソリッドな展開になるとは思わず、興奮しました。痛そうで申し訳ないんですが、急な銃弾は展開的にはしゃいでしまいますね。ごめんなさい!

  • 知り合った方がまさかの、職に就いているとびっくりしますよね。お兄さんの存在もよかったです(笑)楽しいストーリーで会話の流れも楽しかったです。

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