読切(脚本)
〇宇宙空間
宇宙の片隅で。
「こんなことに どんな意味があるんだろう?」
〇怪しい研究所
〇オフィスの廊下
〇個人の仕事部屋
マリエ「こんなことに どんな意味があるんだろう?」
マリエは、
透明のガラスケースに入れられた
それを眺めながら、
すっかり飲み飽きてしまった
コーヒーを
なお口に運んだ。
単純な仕事だ。
ボタンを押して、
それを動かし、
時間を測る。
ガラスケースには、
いろんな大きさの球体の模型が
散りばめられていて、
それらが自動的に規則正しく動いているようだ。
マリエの仕事は、
決まった時間きっかりに
動かしたそれを
元の位置に戻すだけの仕事。
〇歯車
ただ少しややこしいのは、
30分で自動的に一周するそれを
マリエが手動で
3分早めて一周させること。
そこが肝らしい。
それが
なんなのかは
マリエには理解できなかったし、
その仕事の意味も
わからなかった。
マリエ「ほんと、変な仕事」
ただ、ある日
「重要なシゴト」として、
それを任せられたのだった。
〇一軒家
アラサーと言われる年が
見えた頃、
定職につかず、
家でゴロゴロしていたから、
母にもいよいよ
疎ましく思われていた。
母親「家事くらいしててよね・・・家でいるんだから」
マリエ「はいはい・・・わかってるよ」
〇女の子の部屋
しかし、
マリエにはどうしても
やりたい仕事がなかったし、
単に定職につくということが
重要なことだと思えなかった。
マリエ「暇だなぁ」
〇一軒家
ある日、
どこかの「偉い人」から
「重要なシゴト」を
任せられることになった。
それで母に向けられる視線の
居心地の悪さもあったから、
ひとまずその仕事をやることにした。
〇黒背景
だけど、
そのシゴトに肩書きは
なかったし、
給料も大したことない。
そして、誰かに説明する
自信もなかった。
〇おしゃれなリビングダイニング
マリエ「重要な仕事なんだってさ・・・」
マリエ「なんだかよくわかんない仕事だけど・・・」
母親「なんでもいいから働きなさい!」
マリエ「はは・・・」
〇個人の仕事部屋
ボタンを押して、
それを動かし、
時間を測る。
決まった時間きっかりに
動いたそれを
元の位置に戻すだけのシゴト。
〇地球
マリエは、
ガラスケースの中、
「チキュウ」と呼ぶ
青い球体の周りを回り、
自らも回転している小さなそれを
30分きっかりではなく、
3分早めて一周させる。
〇惑星
「ツキ」と呼ばれるそれは、
一際大きな球体、
「タイヨウ」から出る光を
反射して、
「チキュウ」を照らした。
その明かりがまん丸に
満ちたり、欠けたりする。
その満ち欠けのために、
27分ちょっとで一周させなければ
ならないので、
ちょっとややこしい。
〇個人の仕事部屋
マリエは
「ツキ」の担当だった。
それが
このガラスケースの中の
平穏とバランスを
保っているらしく、
重要なんだとか。
それにしても
さっぱり意味がわからない。
〇オフィスの廊下
もう今日は三杯目になる
コーヒーを
再び入れ直している間、
「27分ちょっと」を、
はじめて過ぎてしまった。
マリエ「あ!しまった!!」
マリエ「でも、ちょっと過ぎただけだし・・・大丈夫っしょ」
大した意味はないだろう
と、コーヒーを
また口に運んだ。
〇個人の仕事部屋
コーヒーカップを置き、
視線をあげた先に、
青ざめた顔をした
「チキュウ」の担当が
マリエを見て言った。
男「月の裏側見えちゃうよ! 見せたことないのにさ!」
マリエ「そ、そうなの?」
〇黒背景
満ちたり欠けたりする月は、
ちょうど同じ面を
いつも地球に向けている。
無意味な仕事に思えたそれは、
決して月の裏側を見せないことだった。
マリエにはわからなかったが、
それはロマンだ。
宇宙の片隅で、
そのロマンを守る仕事は
手動で行われている。
〇黒背景
おわり
私の若い頃、女上司から貴方の仕事はお客様のためにとっても大事な事よ。と言われて一生懸命仕事に励んだ時期を思い出しました。無駄な仕事は本人の自覚次第でしょうか?
普段われわれが”自然現象”として当たり前に感じていることも、実は誰かの手に、、と思うとワクワクしてきますね。異常気象や災害の方面にも思いを馳せたくなります。
なるほど、とても感心しました!
私もよく考えます。実はこの地球や銀河系は更に上にいる生物に飼われているのではないかと…。
あと軽く重んじていることも、実はとても大事ってことありますよね。