男たちの秘密

今泉 紗弥

エピソード1(脚本)

男たちの秘密

今泉 紗弥

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〇個別オフィス
  鎗田と高杉の経営する遣杉興産、夜の社長室。
高杉「鎗田社長。おい、聞いてるか?」
鎗田「わかってる、そろそろか、高杉専務」
  二人、顔を見合わせ、うなずく。
高杉「いいか、今なら赤字経営ってことは、この『火の車帳簿』を見れば、ばっちり」
鎗田「そんな、自信たっぷりに言うな」
高杉「それで、『満腹帳簿』の方を見てくれ」
鎗田「何だ、その帳簿・・・・・・あれ、この金は」
高杉「ああ、この貯め込んだのは表には出な い。債権者には、平身低頭」
鎗田「うむ、あとはいつものように」
高杉「うむ、いつものように行方をくらます」
鎗田「う、うん、まあな」
高杉「何だよ、歯切れが悪いぞ」

〇ホテルのレストラン
  鎗田、緊張した様子で座っている。
  佐知が、原田を伴って入ってくる。
  鎗田、ギクシャクと立ち上がる。
佐知「父さん、こちら、原田幸彦さん」
原田幸彦「どうも。原田幸彦で・・・え?」
鎗田「原田?」
  顔を見合わせる鎗田と原田。
佐知「何?父さん、幸彦さん、知り合い?」
鎗田「いや、全然って、はーは、初めまして、さ、佐知の父です」
原田幸彦「あああ、やっさん・・・や、鎗田さん、初めましてー」

〇ホテルのレストラン
  レストランの隅、原田と鎗田が、背を向けて小声で話している。
原田幸彦「やっさん、佐知さんのお父さんだった んだ。今、会社経営してるって?マジ?また何、企んでるのさ?」
鎗田「しっ。お前こそ、何で佐知と」
原田幸彦「今度は、どんなうまい話なんすか?」
鎗田「お互いさまだろ」
原田幸彦「俺は今、真面目に勤めてまーす、友達 のIT企業で。まさか、佐知さんには?」
鎗田「言うわけねえだろ、親父が詐欺師だな んて。そりゃ、お前も同じだろ?」
原田幸彦「ああ、俺だって、佐知さんにも今の会社にも知られたら、ヤバいから」
  二人、黙ってうなずく。
  満面の笑みで、別々にテーブルに戻る。
佐知「何、二人して急ぎの電話?」
原田幸彦「ああ、ごめん。じゃ、お父さん、固め の盃・・・じゃなくて、ワインどうぞ」
  二人、意味なく笑う。
  ちらりと原田を見る鎗田、咳払い。
鎗田「ちゃんと、佐知を幸せにできるか?」
原田幸彦「ぷっ、ちゃんとなんて、そんな、お父さんに言われると」
佐知「そうよ。やあね、父さんたら」
  鎗田と原田、互いに目をそらす。
  佐知がバッグを持って席を立つ。
佐知「ちょっと、失礼」
原田幸彦「反対しないの?妨害されたって、俺、 佐知さんに何も言わねえよ」
鎗田「お前が今、真っ当に働いてて、佐知が好きなら、いいんだ。俺が説教なんかできる立場じゃねえからな」
原田幸彦「俺、佐知さんには、かなり大きく言っちまって。年収一千万とか、英語が得意とか、学歴だって高校中退なのに、国立帝都大学って」
鎗田「・・・・・・そりゃ、かなり大きいな」
原田幸彦「だから、バレたら、さっちゃんに」
鎗田「さっちゃん? 気安く呼ぶな」
原田幸彦「き、嫌われるんじゃねえかって、そ れで、お父さんにも」
鎗田「まだ、お前の親父じゃねえ」
原田幸彦「やっぱ、反対なんだ?」
鎗田「違う。今は真っ当にやってんなら、それでいいんだ」
原田幸彦「お父さん・・・・・・」
鎗田「まだ、だってば。手を離せ。だから俺のことも、佐知には黙っててくれないか」
  原田、激しく何度もうなずく。

〇個別オフィス
  しばらくの後、鑓杉興産社長室。
  株主たちが厳しい表情で座っている。
鎗田「やっぱり、これは倒産もやむなしかと。事業を続けるほど負債は膨らみますし、早いうちに整理した方が」
株主A「あんたは事業を放り出すつもりか?」
株主B「必ず儲かりますって、あの自信満々 な言い草はどうなったんだ。私ら株主は」
  突然、鎗田のスマホが明るく鳴る。
  ぺこぺこと頭を下げ、スマホを取り出す鎗田。
鎗田「ああ、父さんだ」
  株主たち、一斉に緊張して立ち上がる。
株主A「社長!まだ、倒産とは決ま・・・」
鎗田「え、結婚?そんな、早すぎる!佐知!」
  株主たち、ストンと座り直す。
鎗田「せめて、ほとぼりが冷め・・・じゃなくて」
佐知「結婚て、いろいろ時間かかるし、もう準備は始めてもいいかと思って」
鎗田「そ、それにしても、心の準備が」
佐知「会社、忙しいの?式は土日?」
鎗田「会社?うん、そう、帳簿の付け替えと か、裁判とか・・・じゃない、もう少し待って」
佐知「え?何で?」
鎗田「えー、その頃には、トンズラ・・・いや、 と、父さん、少し寂しくなって」
佐知「え?そうなの?」
鎗田「うん、何だ、その、また後で」
  主たちに愛想笑いをして座り直す。
  腕組みのまま、じっと黙り込む株主。
  再び、のどかな着信音。
  鎗田、ペコペコしながら立ち上がる。
原田幸彦「ああ、やっさん、俺のことさっちゃんに言った?さっちゃん、結婚は少し先にしようかって」
原田幸彦「(涙声)な、嘘がばれたかな?俺、英語も勉強するし、仕事も頑張るし、だから俺、俺・・・ねえ、父さん」
  背後から、中学校英語の音声。
鎗田「そんな切羽つまった声、出すな!何も 言ってねえよ!父さんも、倒産するんで忙 しいんだ!」

コメント

  • 彼ちょっとヤバいくらいに経歴盛ってますね。笑
    秘密にしてもお互いすごいなぁと思うんですが、本当に娘さんにバレてないのか…心配です。
    でも、父親に似た人を選びやすいと言いますが、まさかの同業者とは!

  • 楽しいですね、父親と似たような男性を選んでしまったが為にそんな結末になってしまったのでしょうか。会話のリズムもよくて、最後まで一気に集中して読ませて頂きました。

  • 人間の悪の部分と善の部分が両極端な婚約者と父親。父親と似た雰囲気の彼を好きになったんでしょうね。面白い所で終わってしまって、続きが読みたいです!

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