ラスト・プリンセスにはまだ早い

龍咲アイカ

第4話(脚本)

ラスト・プリンセスにはまだ早い

龍咲アイカ

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〇華やかな広場
サフィーヤ「王権を奪う・・・?」
サフィーヤ「あなた、自分が何を言っているのかわかっているの?」
ユリエスキ「ええ。 わざわざ、こちらでお話をする程度には」
サフィーヤ「三代貴族が聞いて呆れるわ。 あなたには王家への忠誠心なんて欠片もないのね」
ユリエスキ「私自身も我が一族も、王家への強い忠誠心を持ってはおります。 しかし──」
ユリエスキ「一部の貴族にとって、リカルド様が王位にあることは好ましくないのです」
サフィーヤ「それは、どうして?」
ユリエスキ「実のところ、我が国の貴族は一枚岩ではありません」
ユリエスキ「数年前に急死なさった先王様とその血統を重要視する先王派と──」
ユリエスキ「王家の血が流れてさえいれば良いというリカルド様派に分かれているのです」
サフィーヤ「陛下は先王様の血筋ではないの?」
ユリエスキ「・・・申し上げにくいのですが、リカルド様は妾腹のお生まれなのです」
サフィーヤ「そんなことは、よくある話じゃない」
ユリエスキ「その御母上──愛妾が、一般庶民の出身だとしてもですか」
サフィーヤ「!」
ユリエスキ「お察しの通り、先王派にとってはリカルド様に庶民の血が流れていることが問題なのです」
ユリエスキ「しかしながら、先王派が将来を託していたリカルド様の兄上はファジュルとの戦いで戦死してしまいました」
ユリエスキ「現状、先王様の血を引く者はもうリカルド様しか残っていないのです」
サフィーヤ「それで──気に入らない王を戴くくらいだったらいっそ、 自分たちに都合の良い新しい王を擁立しようって考えたのね」
ユリエスキ「仰るとおりです」
サフィーヤ「だったら余計に気に入らないわね」
サフィーヤ「アルネヴィア貴族にとっては国の未来や民の幸せよりも権力争いの方が大事ということ?」
ユリエスキ「いいえ。 王家を守り、秩序を守ることがひいては国の安泰に繋がります」
ユリエスキ「少なくとも私は、そう信じて行動して参りました」
サフィーヤ「あなたの考えはよくわかったわ。 わたくしが、あなたに協力するとことはないでしょう」
ユリエスキ「何故です? あなたはリカルド様にあまり良い感情をお持ちでないはず。 何故リカルド様の肩を持つような真似を?」
サフィーヤ「確かにわたくしは、あの方に思うところはあるわ」
サフィーヤ「でもね、それだけで何の非もないあの方の排斥に加担はできないわ」
サフィーヤ「まして、それが権力闘争のためなんて! わたくしには考えられないことよ」
ユリエスキ「・・・そうですか。残念です」
サフィーヤ「話はそれだけかしら?」
ユリエスキ「ええ。 ご気分を害するような話題しかご提供できず、申し訳ありませんでしたね」
ユリエスキ「お部屋までお送りいたします」
サフィーヤ「ありがとう。 今日のことは聞かなかったことにしておくわね。 まぁ、話す相手もいないけど」
ユリエスキ「お心遣いに感謝申し上げます」

〇洋館の廊下
ユリエスキ「──それでは、失礼いたします」
ユリエスキ(それにしても・・・ 聞きしに勝る高潔な姫君だったな)
ユリエスキ(今度は堅い話抜きにお会いしたいものだ)
ロレンソ「よう、お姫さんには振られちまったようだな」
ユリエスキ「貴様! 見ていたのか!」
ロレンソ「王太后様の花園から二人して出てきたところを、な」
ロレンソ「お前さんも親戚連中から あの姫さんをモノにしろって焚き付けられたのか?」
ユリエスキ「まぁ、そういうところだ。 ということは、アスール家にもそのような動きがあるということか?」
ロレンソ「まぁな。 なんせファジュルとはいえ王族の娘だからなぁ。 娶ってしまえばこっちのもんってな」
ロレンソ「年寄り連中にとっては家名に箔をつける好機なんだろうよ。 ま、お互い頑張ろうぜ」
ユリエスキ「あ、ああ」
ユリエスキ(よもやアスール家も姫の利用を企んでいたとは・・・油断ならんな)

〇屋敷の書斎
  リカルド私室
ロレンソ「邪魔するぜー」
リカルド「ロレンソ。 いつもノックぐらいしろと言っているだろう」
ロレンソ「悪りぃな。 ちょっと小耳に入れておきたいことがあってな」
リカルド「ほぅ。どんな内容だ?」
ロレンソ「大した話でもないが・・・ エスカルラータのとこの長兄、ファジュルの姫さんにちょっかい掛けてたみたいだぞ」
リカルド「!」
ロレンソ「その顔、怖いねぇ」
リカルド「詳しく話せ」
ロレンソ「──と言われてもなぁ。 俺はただ二人が中庭から出てくるのを見ただけでな」
リカルド「中庭?王太后様のか」
ロレンソ「そうだ。 まぁ恐らくはエスカルラータ公にでもけしかけられて接触を図ったんじゃないか?」
ロレンソ「俺自身も一族の年寄りからせっつかれてるもんでな。 今後姫さんとお近づきになるつもりではあるぞ」
リカルド「・・・」
ロレンソ「おお怖。 全く、お前がこんなに奥手じゃなかったら出し抜かれることもなかったんじゃないかね?」
リカルド「・・・うるさい」
ロレンソ「まぁ、初手で抱いちまったのは悪手だったよな」
リカルド「それは反省している」
ロレンソ「フハハ、なら上出来だ」
ロレンソ「まだ姫さんはお前に心を開く時期じゃない。 お前さんのことは国を盗った仇くらいにしか思ってないだろうからな」
リカルド「そ、そうか」
ロレンソ「少しづつ時間を掛けて、姫さんの心を融かすことだな」
ロレンソ「ま、せいぜい頑張れよ。国王陛下。 それじゃあな」
リカルド(まったく・・・言いたい放題だな)
リカルド(だが、エスカルラータ家の動きは気になるな。 注視しておく必要があるかもしれん)

〇城の会議室
  アルネヴィア議会 臨時会合
リカルド「──さて本日の議題だが、先日長年の悲願を達成し入手したファジュル領の件だ」
貴族「陛下、ファジュル領の統治はどの家にお任せで? ここは武勲を立てた兵を擁する我が一族に是非ご一考を」
リカルド「無論、良い働きをした兵には後でそれなりの恩賞を授けるつもりだ」
リカルド「だがファジュル領の統治は当分宰相・コルネリオのオリバ家に一任することとする」
「何故宰相の一族が!?」
「オリバ家はファジュル攻略戦で何の役に立ったというのか!?」
リカルド「諸君が疑念を抱くのも当然だ。 しかし現状、ファジュルは王都が陥落したのみで地方はまだ制圧しきれていない」
リカルド「よって、暫定的な措置として当面オリバ家にファジュル領統治を任せる、とした」
市民代表「市民代表としては特に異議なし」
聖職者代表「教会としても特に異議なし」
リカルド「貴族諸君はどうか?」
ロレンソ「アスール家は陛下に賛同の意を示します」
ロレンソ「何せ暫定的なものですからなぁ。 ここで騷いでも仕方ないでしょう」
リカルド「他はどうか?」
アマリージョ公爵「うちも、特に反対しませんよ」
ユリエスキ「父上、我が一族はいかがいたしましょう?」
エスカルラータ公爵「他が動かぬ以上、異議を唱える必要もあるまい」
エスカルラータ公爵「エスカルラータ家も陛下に従う所存でございます」
「三代貴族が揃って賛同とは・・・」
「この後の地方制圧戦を睨んでの判断ということか!?」
リカルド「他に異議がなければ、この議題は了承されたと見なすが、よろしいか?」
リカルド「では次に捕虜の扱いについて──」

〇貴族の応接間
サフィーヤ「ザフィール、ここでの暮らしには慣れたかしら?」
ザフィール「少し、慣れてきました」
ザフィール「ごはんを何度も食べるのには少しビックリしたけど・・・」
サフィーヤ「そうね。 5回も食事の時間があるなんて、わたくしも驚いたわ」
侍女「王女殿下、アスール公爵家の方がお見えです」
ロレンソ「やぁ、マルガリータ。久しいな。 相変わらず可愛いね」
侍女「・・・ロレンソ様、お戯れはお止めください」
ロレンソ「釣れないねぇ」
サフィーヤ(何、この軽薄な男は?)
ロレンソ「お!君がファジュルの姫さんかい? 噂に違わず美人だなぁ!」
サフィーヤ「失礼ですが、あなたは?」
ロレンソ「ああ、失敬。 私はアスール公爵家のロレンソと申す者」
ロレンソ「以後お見知り置きを、殿下」
サフィーヤ(こんな男がアルネヴィア貴族・・・!?)
サフィーヤ「き、今日はどのような要件で?」
ロレンソ「なぁに。 麗しい姫君の噂を聞きつけ、一目見ようと馳せ参じた次第」
ロレンソ「それにしても・・・」
サフィーヤ(近い!何なの!?)
ロレンソ「これが月の瞳・・・! 神秘の輝きに私の心も惑わされてしまいそうですな」
リカルド「ロレンソ。そこまでにしておけ」
ロレンソ「チッ、いいところで陛下のお出ましか」
リカルド「挨拶は済んだろう。 用が済んだら早急に立ち去るがいい」
ロレンソ「へいへい。 では、王女殿下。またどこかで」
サフィーヤ(接吻を投げる仕草・・・? どういう意味なのかしら)
リカルド「お寛ぎのところ失礼、王女殿下」
サフィーヤ「まぁ陛下。 今日は議会の日と聞いておりましたが」
リカルド「その議会でいくつか決まったことがあってな。 弟君に会わせたい者がいる故、ここに来た」
サフィーヤ「ザフィールに・・・?」
アマリージョ公爵「あなたが、ファジュルの王女殿下ですね」
サフィーヤ「ええ」
アマリージョ公爵「申し遅れました。 私はアマリージョ公爵家のエルネストと申します」
アマリージョ公爵「この度の議会で、あなた様とそちらの王子殿下の処遇が正式に決まりましてね」
アマリージョ公爵「王子殿下を我が屋敷にてお預かりし、養育させていただくことになったのですよ」
ザフィール「僕を・・・?」
サフィーヤ「何ですって!?」
  つづく

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