ラスト・プリンセスにはまだ早い

龍咲アイカ

第5話(脚本)

ラスト・プリンセスにはまだ早い

龍咲アイカ

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〇貴族の応接間
サフィーヤ「そちらでザフィールの養育をすると? 何を勝手な・・・!」
リカルド「王女殿下、これは悪い話ではないぞ」
リカルド「王子は今のところ、我が国にとって未来の反乱分子になりかねない危険な存在だ」
アマリージョ公爵「しかし、今から教育を受けて我が国の礼儀作法、学問等を身に着けてもらえば──」
アマリージョ公爵「大人になる頃には立派なアルネヴィア人になりましょう。 王子殿下が生き延びるにはそれしか道がないのです」
サフィーヤ「お、お待ちください! 大切な弟をどこの誰ともわからない人物に預けるなんて!」
リカルド「アマリージョ公は優れた人格者として知られている。 そこは安心してほしい」
サフィーヤ「で、でも・・・」
ザフィール「姉上、僕なら大丈夫です」
サフィーヤ「ザフィール・・・?」
ザフィール「僕はここまで姉上のお陰で生きてこられました。 でも、いつまでも姉上の負担になるのは嫌です」
ザフィール「アルネヴィアで新しい生活やお勉強に励むことが僕の役目なら、僕は頑張ります」
リカルド「よく言ったな。 幼いながら王族として立派に振る舞おうとする心意気は見事だ」
アマリージョ公爵「王子殿下、素晴らしいお心掛けです」
アマリージョ公爵「これから我らが責任を持って一流の教育を御用意いたしますゆえ、 どうか信頼してください」
ザフィール「はい。よろしくお願いします」
サフィーヤ(ザフィール・・・ いつの間にかこんなに大人びたことを言えるようになっていたのね)
サフィーヤ(あなたがそう決めたのなら・・・)
サフィーヤ(・・・)
サフィーヤ(これで、いいのよね)
サフィーヤ「弟を、よろしくお願いいたします」
アマリージョ公爵「ええ。お任せください」
アマリージョ公爵「なに、今生の別れという訳ではないのです。 祝祭など長期休暇の折には必ず会わせて差し上げますよ」
サフィーヤ「それを聞いて少し安心しましたわ」
サフィーヤ「ザフィール、しばらく会えないけど、どうか健やかでいてね」
ザフィール「姉上。 僕、しっかり頑張ります」
  ギュッ
アマリージョ公爵「さて。 そろそろ行きましょうか、王子殿下」
ザフィール「はい。 姉上、陛下。ごきげんよう」
アマリージョ公爵「では陛下、これにて失礼しますよ」
サフィーヤ「・・・」
リカルド「弟君が恋しいか?」
サフィーヤ「ええ。 そしてまた、虚しくもあります」
サフィーヤ「わたくしが愛妾の地位を受け入れたのは、弟を生かすためでした」
サフィーヤ「弟の身元が保証されその目的が果たされた今は、ただただ虚しいだけですわ」
リカルド「フッ。はっきりと言ってくれるな」
リカルド「たが、君が俺の愛妾となることは議会で承認済みだ」
サフィーヤ「そんなことを議題になさったのですか!?」
リカルド「ああ。 君のために屋敷を建てる予算を確保したかったが、反対多数でな」
リカルド「ただ、君を愛妾にする処遇については 俺の好きにしろということになった」
サフィーヤ「そうですか」
サフィーヤ(つまり、少なくとも議員たちには 捕われたファジュルの王女が国王の愛妾に成り果てたと周知されてしまったのね)
サフィーヤ(やってくれるじゃない!)
リカルド「俺にはまだやることが残っている。 また夜に話をしよう」
サフィーヤ(まったく! 王権奪取の話、断らなければ良かったかしらね!)

〇洋館の廊下
リカルド(また嫌われるようなことを言ってしまったな)
宰相「陛下、こちらにいらしたのですか」
宰相「そろそろ公務に戻っていただきませんと・・・」
リカルド「ああ、わかっている。 ところで、エスカルラータ公とその息子を見なかったか」
宰相「はぁ、エスカルラータ公でしたら先ほど会議場を退出するところを見ましたが」
リカルド「わかった。恩に着る」
宰相「あ、陛下! どちらに行かれるのです!?」
リカルド「すぐ戻る」
宰相(まったく、どうされたんだ?)

〇洋館の玄関ホール
リカルド「エスカルラータ公とその子息、待たれよ」
エスカルラータ公爵「これは陛下、どうされましたか」
リカルド「貴公ではなく、子息に用がある」
ユリエスキ「私に、何かございましたか」
リカルド「昨日、我が愛妾が世話になったと聞いたが」
ユリエスキ「流石は陛下。お耳が早いようで」
ユリエスキ「籠の鳥のような暮らしで王女陛下が退屈されているのではと心配になり、花園までお連れした次第です」
リカルド「ほぅ・・・? それは結構な気遣いだ」
ユリエスキ「勿体なきお言葉」
リカルド「だが、今後はそのような気遣いは不要だ」
リカルド「愛妾は言うならば俺の所有物。 今後は俺の許可なく彼女を連れ出すことのないように」
ユリエスキ「・・・かしこまりました。 以後留意いたします」
リカルド「話はそれだけだ。 双方とも気を付けて帰られよ」
「はっ」
エスカルラータ公爵「お前、ファジュルの王女に何かしたのか」
ユリエスキ「ただお話をしただけですよ」
ユリエスキ「生憎好感を持ってはいただけませんでしたが」
エスカルラータ公爵「お前がアスールの息子のような振る舞いをするとは珍しいな」
ユリエスキ「ええ。 悪意を持って愛妾の地位に収まったのかを知りたかったもので」
ユリエスキ「他には・・・プリシラの我儘も少々」
エスカルラータ公爵「プリシラが・・・?」

〇洋館の一室
プリシラ「お兄様、あの女の件はどうなりました!?」
ユリエスキ「どうと言われても・・・」
ユリエスキ「議会で愛妾のための館を建てる予算が降りなかった程度で──」
ユリエスキ「愛妾にすること自体は陛下の自由ということになったが」
プリシラ「ではお兄様、あの女を籠絡する作戦は?」
ユリエスキ「残念ながら、振られてしまった」
プリシラ「何てこと! わたくしのお願いを全く聞いてくださらないなんて!」
エスカルラータ公爵「プリシラ。 あまりユリを困らせてはいけないよ」
プリシラ「だってお父様! わたくしは王妃にならなければいけないのよ!」
プリシラ「わたくしに王妃になれと仰ったのはお父様とお母様でしょう?」
エスカルラータ公爵「確かにそうだが、お前に嫁いでほしかったのは今は亡き陛下の兄上で・・・」
プリシラ「そんなの嫌! わたくしはリカルド様が好きなの!」
エスカルラータ公爵「ううむ・・・」
執事「失礼いたします、旦那様」
エスカルラータ公爵「今取り込み中だ。後にしろ」
執事「これは大変な失礼を。 では後ほど、鷹狩のご予定について・・・」
プリシラ「それよ!」
エスカルラータ公爵「!?」
プリシラ「今度の鷹狩、あの女も連れていけばいいのよ!」
プリシラ「それで、山の中にあの女を置き去りにしてしまえば・・・」
ユリエスキ「プリシラ、滅多なことを言うものでは・・・」
エスカルラータ公爵「よかろう。 私から陛下に許可を取ってみよう」
ユリエスキ「父上!」
プリシラ「流石はお父様!」
エスカルラータ公爵「少しユリと大事な話をするから、 お前も鷹狩に行く準備をしておきなさい」
プリシラ「はい、お父様!」
エスカルラータ公爵「先ほど、王女に真意を尋ねたと言っていたな」
ユリエスキ「はい。 彼女には陛下を懐柔する意図はなく、また陛下に対して取り立てて好意もないとのこと」
ユリエスキ「ただ──」
エスカルラータ公爵「何かあったか?」
ユリエスキ「祖国再興への強い想いを持っていることは確かです」
ユリエスキ「尤も、そのために陛下に危害を加えるつもりはなさそうですが」
エスカルラータ公爵「そうか。 その情報から考えるに、やはり王女の存在は我が国にとっては危険なものと考えてよいだろう」
ユリエスキ「しかし──」
エスカルラータ公爵「今は愛妾の地位に甘んじていても、いずれは祖国のために動く日が来よう」
エスカルラータ公爵「その時に陛下が骨抜きにされていては困るのだ」
ユリエスキ「それは確かにそうですが・・・」
エスカルラータ公爵「それに、今後プリシラと陛下を結婚させる道を残しておくに越したことはない」
エスカルラータ公爵「尤も、その時に王座に就いているのはもっとその地位に相応しい者かもしれんがな」
ユリエスキ(父上は王家と姻族になろうとしているのか・・・)
ユリエスキ(それならば確かに、王女殿下は邪魔な存在に違いない)
ユリエスキ「父上、私にはか弱い女性を手に掛けるなどできません」
エスカルラータ公爵「ならば、お前は当日領内の公務でもやっておけば良い」
ユリエスキ「しかし・・・」
エスカルラータ公爵「話は終わりだ。 おい、鷹狩の打ち合わせを始めるぞ」
執事「かしこまりました」
ユリエスキ(このままでは、王女殿下が・・・!)

〇貴族の部屋
リカルド「──ときに王女殿下。 鷹狩に興味はあるか?」
サフィーヤ「まぁ、鷹狩!大好きです!」
リカルド「何!?そうなのか?」
サフィーヤ「はい! ファジュルでは人気の娯楽で、わたくしは父や兄よりも鷹狩が得意なんです!」
リカルド(そんな側面があったとは・・・)
リカルド「エスカルラータ公より、君に鷹狩の誘いが来ている」
リカルド「断ろうと思っていたが、そんなに好きなら気晴らしに行ってくるといい」
サフィーヤ「まぁ嬉しい! 是非お誘いをお受けしたいとお返事ください!」
リカルド「ああ、承知した」
リカルド(この笑顔が俺の誘いでないことが癪だが・・・)
リカルド(この嬉しそうな顔を見られたことは感謝すべきかもしれんな)

〇ファンタジーの学園
  鷹狩 当日
  エスカルラータ公爵邸
プリシラ「殿下!はじめまして!」
プリシラ「わたくしはエスカルラータ家のプリシラと申します! 今日はよろしくお願いいたしますね!」
サフィーヤ「え、ええ。よろしくね」
サフィーヤ(元気な子ね・・・)
エスカルラータ公爵「殿下、今日はようこそお越しくださいました」
サフィーヤ「こちらこそ、お招きありがとう。 鷹狩は久しぶりだから楽しみだわ」
エスカルラータ公爵「喜んでいただけたようで恐悦至極」
エスカルラータ公爵「では、参りましょうか」
プリシラ(フフフ、喜んでいられるのも今のうちよ)
プリシラ(あなたは山に置き去りにされて死ぬのだから!)
  つづく

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