枯れ木に花を咲かせましょう

落花亭

1本目:天草アイについて(脚本)

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〇渋谷の雑踏
  人は、大なり小なり悩みを抱えている

〇商業ビル
  ──6月11日

〇カラオケボックス
男子生徒「僕のも〜の〜に〜 なるわけないわぁ〜」
「back bomber 最高!!」
男子生徒「あー 歌いすぎて喉痛ぇ!」
男子生徒「次はどっち歌う?」
天草 アイ「──悪ぃ! この後 用事あっからラストで!」
男子生徒「うぃ。 じゃ ラストは俺行きまーす!」

〇商業ビル
天草 アイ「楽しかった!また歌おうぜ!」
男子生徒「おう。じゃあな!」
男子生徒「じゃあな アイ──」
天草 アイ「名前で呼ぶんじゃねぇ!」
天草 アイ「・・・なんてな!」
男子生徒「イヤイヤイヤ マジ焦ったし!」
天草 アイ「俺 自分の名前 嫌いなんだよ」
天草 アイ「次 呼んだらカラオケ代 おごりな!」
天草 アイ「じゃあまた明日!」
男子生徒「・・・あー 怖っ。 アイツがキレたトコ 初めて見た」
男子生徒「どんまい」
男子生徒「『藍』って名前だろ? 別にフツーじゃん?」
男子生徒「何が嫌なんだろうな?」
男子生徒「中学で色々 あったらしいよ」
男子生徒「色々?」
男子生徒「詳しくは知らね。 聞いたら殴られそうだったし」
男子生徒「お前もやらかし済みか──」

〇駅の出入口

〇街中の道路

〇コンビニのレジ
「いらっしゃいませー」

〇コンビニの店内
天草 アイ(・・・あった!)
天草 アイ(ブタさんクッキーのフルーツケーキ!!)
天草 アイ(くぅ〜〜!! 噂通りかわいい〜〜!!)
天草 アイ(クラスメイトに見られてねぇよな?)
天草 アイ(他のコンビニは売切だったんだよ〜 アヤメの分も買っていこう!)

〇街中の道路
「ありがとうございましたー」
天草 アイ(目的のもんも買えたし 遅くならねぇうちにさっさと帰ろ──)
天草 アイ「わっ!!」
謎の男「おっと失礼」
天草 アイ(痛・・・ けど よそ見してたの俺だしな)
天草 アイ(あれ? 俺の肩に何かついてる)
天草 アイ「花びら?」
天草 アイ「今の人 花なんか持ってたっけ?」
天草 アイ「あの花屋から出てきたのか」
天草 アイ(てか コンビニに寄るまで あんなお店あったかな?)
天草 アイ「・・・アヤメ 花好きだし ちょっとだけ覗いていくか」

〇お花屋さん
天草 アイ「うわっ すげぇ・・・」
店長・花咲「──いらっしゃいませ」
天草 アイ「あっ!す すいません! ちょっと気になって・・・」
店長・花咲「どうぞどうぞ。 ゆっくりとご覧になってください」
天草 アイ「あ ありがとうございます」
天草 アイ(バラにユリにチューリップ・・・)
天草 アイ(かすみ草? 肩についてたのはこれか)
店長・花咲「──お客様。 花がお好きですか?」
天草 アイ「お 俺ですか?」
店長・花咲「じっくり見ていらっしゃるものですから 男性の方にしては珍しいなあ。と」
天草 アイ「あー・・・ 妹に買っていこうかなって」
天草 アイ「見ててきれいだとは思いますけど──」
天草 アイ「俺は大嫌いです。すいません」
店長・花咲「そうでしたか・・・ 差し支えなければ なぜお嫌いに?」
  なぜって──

〇教室
  ──14歳の夏
男子生徒「アイちゃーん! 夏休みの花壇の手入れだけどさぁ」
男子生徒「アイちゃんが登校してやってくんね?」
天草 アイ「な・・・なんで俺・・・?」
男子生徒「えっ。だってお前さ? お花 だーいすきだろ?」
女子生徒「ちょっと・・・」
男子生徒「なんだよ。 お前が俺に言ってきたんだろ?」
男子生徒「『コイツならやってくれそー』って」
女子生徒「は はぁ!? ありえないんだけど!!」

〇お花屋さん
店長・花咲「・・・なるほど。 おつらい思いをされたんですね」
天草 アイ「母さんが根っからの花好きで。 俺の名前も花からとったみたいで」
天草 アイ「元々 かわいいもんも好きだから 周りから『女みてぇ』って虐められて」
天草 アイ「それから花が大嫌いになりました」
店長・花咲「それは嫌いになってしまいますね」
天草 アイ「・・・今も母さんと仲悪くて」
店長・花咲「と 言いますと?」
天草 アイ「俺がブチギレて。 『なんで変な名前付けたんだ』って」
天草 アイ「それからずっと・・・」
店長・花咲「ううむ。なるほど。 お母様の心痛 察するに余りあります」
天草 アイ「母さんのせいでこうなったんですよ!?」
天草 アイ「俺のことなんて考えてない──」
店長・花咲「お客様。 『藍』の花言葉はご存知ですか?」
天草 アイ「はな、ことば?」
店長・花咲「ええ。これは私の憶測に過ぎませんが」
店長・花咲「お母様はお客様のことを強く想い 名付けられたことと思います」
店長・花咲「『藍』の花言葉は」
店長・花咲「『何事もあなた次第』 『美しい装い』」
店長・花咲「お母様は お客様が生を受けたとき 心から喜ばれたのだろうと思います」
店長・花咲「お客様のことを考え 考え どんな困難が待ち受けていようと」
店長・花咲「挫けず 強く生きてほしい・・・ そう願ったのではないでしょうか?」
天草 アイ「あー・・・花言葉ね。 いかにも母さんらしいや」
店長・花咲「──良いお名前を頂きましたね」
天草 アイ「意味知らなかったら一生 花も母さんのことも恨んでたかも」
店長・花咲「仕方がないと思います 花好きにしか通じないものですから」
天草 アイ「・・・妹の花を買うつもりだったけど」
天草 アイ「母さんの分も買っていこうと思います 何かいい花はありますか?」
店長・花咲「そうですね。でしたら──」

〇街中の道路
天草 アイ(やべっ!もう夜じゃん!)
天草 アイ(アヤメ 怒ってるだろうな〜 花とケーキで機嫌直してくれればいいけど)

〇お花屋さん
店長・花咲「いらっしゃいま── あなたでしたか」
店長・花咲「花といい ショーケースといい 本当に助かりました」
謎の男「”仕事”ですので。 お礼を言われる筋合いはありません」
謎の男「にしてもこんな辺境な・・・ 街中にしなくてよかったのですか?」
謎の男「早いうちに”あの者”と 接触を図るなら 近くのほうが──」
店長・花咲「この場所が良いんです。この場所が」
謎の男「はぁ・・・」
謎の男「花咲さんがそれで構わないのでしたら」
店長・花咲「急がば回れ。ぼちぼちやっていきます」
謎の男「・・・そうですか。ご健闘を祈ります」
謎の男「では 失礼いたします」
店長・花咲「・・・必ず やり遂げてみせるさ」

〇団地

〇マンションの共用廊下
「アヤメ ただいま!」
「お兄ちゃん おかえりなさーい!」
「・・・アイ おかえり」
「・・・母さん。 今日休みだったんだ?」
  ちくしょう
  言葉が出てこない
  だからって
  避け続けるのは もう──
「・・・あのさ! 二人に花とケーキ買ってきた!」
「母さんには赤いカーネーション うえっ!? 泣かないでよ──」

コメント

  • ようやく読みに来れました!😆
    花屋さんを舞台に心をときほぐしてゆく
    ヒューマンストーリーですね。素敵です!
    しかし、何やらミステリーな要素もあるようで…? 謎の男が気になりますね!

  • アイくんの心情描写が本当に精緻で、美しい物語ですね!思春期特有の学校での揶揄いや親との対立、それによる頑なになった心を解してくれるフローリスト・ハナサカ。幸せな読後感です。

  • 名前の通り様々な愛を感じる作品でした。
    花言葉は色々と調べると多種多様な意味があって、昔プレゼントで買った花も色々調べた記憶が蘇りました。

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