episode.1(脚本)
〇学校の屋上
──赤と青の、斑。
「瑠、星・・・」
瑠星「・・・春ちゃん。 何してるの?こんなとこで」
三春「お前、それどうしたんだよ!」
瑠星「えー? ──はは、秘密」
あの日、同級生からの酷い虐めをその痛々しく広がる痣で隠すように笑ったあいつは
瑠星「秘密だよ」
その一言で全てをしまった。
俺が瑠星の傷の訳を知ったのはそれから少しあと
人づてにあいつが虐められていたということを聞いてから。
それからだ。
他人に興味のない俺が、瑠星のことを気にかけるようになったのは。
〇広い廊下
「・・・春ちゃん?」
三春「!」
瑠星「聞いてた?俺の話」
三春「・・・あぁ、何だっけ」
瑠星「相変わらずだね、春ちゃん。 本当俺に興味ないんだから~って、 まぁ、俺だけじゃないか」
みーんなに興味ないもんね、そう笑って瑠星が言う。
三春「・・・てかさ、お前今週ずっと俺と帰ってるだろ」
瑠星「どうして?」
三春「彼女。 ほったらかしていいのかよ」
俺の問いに、瑠星が目を開く。
瑠星「・・・珍しいね 春ちゃんから彼女の事聞いてくるなんて」
三春「・・・別に。 他に話すことないから」
瑠星「はは、そっか~」
瑠星「・・・うんとね」
一瞬、嫌な間があいて
瑠星「別れちゃった」
ヘラヘラと、瑠星が答えた。
〇広い廊下
三春「は?別れた?なんで」
瑠星「なんでって・・・ それは秘密だよ」
整った顔とレディースファーストな性格で瑠星は高校入学当初から女子に囲まれていた。
そんな瑠星に彼女ができたと聞いてから数か月。
彼女の存在は少しはこいつの支えになるだろうと思っていた。
それに
三春「いい子だっただろ。 デートで関係ない俺の土産まで買っといてくれたり」
三春「俺が寝込んだ時わざわざお粥作ってくれたり」
瑠星「あぁ、 俺が春ちゃんに届けたやつね」
三春「上手く、いってただろ」
瑠星「えー? ・・・あはは」
三春「・・・なんで」
瑠星「だから、秘密」
瑠星がもう何かを1人で抱え込まなくて済むと
そう思っていた。
──でも
平気そうに笑う瑠星の顔が、俺には引きつって見えて。
三春「──無理して笑うな」
三春「隠すなよ」
俺は足を止めて言った。
瑠星「・・・」
瑠星「無理、してるように見える?」
三春「見える」
瑠星「・・・」
三春「辛いだろ、本当は」
瑠星「・・・秘密」
思い出す、あの日の斑。
もう誰にもこんなことさせないって思った。
心も体も傷だらけの瑠星を、俺はもう見たくない。
三春「隠すな」
瑠星「・・・」
瑠星「っはは」
また、瑠星が笑う。
瑠星「──やっぱり」
瑠星「春ちゃんには敵わないな」
三春「・・・瑠星」
瑠星「聞きたい?」
瑠星「俺の秘密」
〇広い廊下
瑠星「──本当は 彼女なんていないんだ」
三春「・・・え?」
三春「でもお前、何度も俺に『彼女から』って 差し入れて」
瑠星「それも嘘」
瑠星「お土産で渡したチョコは、 春ちゃんが苦いチョコ好きって言ってたから」
瑠星「・・・お粥は」
瑠星「春ちゃんのことが心配で 俺が勝手に作った」
三春「・・・なんで、そんなこと」
瑠星「はは、 ・・・気持ち悪いでしょ、俺」
空笑いして、瑠星が気まずそうに眉を下げる。
瑠星「・・・」
瑠星「──好きだからだよ 春ちゃんのこと」
息が、止まる。
三春「好きって、」
三春「でも俺は」
男だろ。
そう言おうとして、やめた。
俺を見る瑠星の顔が、あの日以上に辛そうで。
瑠星「・・・すぐ面倒くさい、興味ないって言うくせに」
瑠星「春ちゃん、 俺にすごい優しいんだもん」
瑠星「・・・だから俺、調子乗っちゃいそうでさ」
瑠星「春ちゃんに嫌われたくないのに、 もっともっとって」
瑠星「・・・春ちゃんを求めちゃうから」
瑠星「彼女がいるって嘘ついて 気持ちが悟られないようにしてたんだ」
寂しそうに目を伏せて、瑠星が言う。
三春「(意味が、よく、分からない)」
三春「(俺が瑠星に構うのはあの日のことがあったからで)」
三春「(友達を助けられなかった罪悪感のせいで)」
三春「(でも、)」
──それだけじゃ、目の前で呟く瑠星のそばへいきたいと思う理由には
とても足りない気がする。
三春「・・・」
三春「なぁ」
瑠星「!」
瑠星「え、春ちゃん・・・?」
俺はかつての斑をなぞるように
瑠星に触れた。
〇広い廊下
三春「・・・男を好きとか、 正直よく分からないけど」
瑠星「・・・うん」
三春「お前が気がかり・・・、」
三春「・・・じゃなくて」
三春「──俺が、瑠星を守りたいって」
三春「・・・この気持ちは絶対だってことは、分かる」
瑠星「春ちゃん・・・」
三春「(それから)」
三春「(・・・なんでだろうな)」
”もっと触れたい”
初めて感じた気持ちを全部、火照った熱のせいにして
伝えようとした、その時
その熱を抱きしめるように瑠星が口を開く。
瑠星「守らせて」
三春「え・・・」
瑠星「俺に守らせてよ、春ちゃん」
瑠星「・・・なるべく心配かけないようにしてたつもりだったのに」
瑠星「結局気にさせちゃってたんだね、 ごめん」
今度は瑠星の手が、俺に触れる。
瑠星「でも俺は大丈夫」
瑠星「だって 今までもこれからも」
瑠星「俺には春ちゃんがいてくれるでしょ」
同時に、重なった視線の奥で見つけた
瑠星の瞳。
それは、あの日の斑を全部攫って
瑠星「好きだよ、春ちゃん」
三春「っ、・・・」
瑠星「はは、春ちゃん照れてるの?」
瑠星「可愛い」
三春「・・・男が可愛いとか、キモイだろ」
瑠星「えー?そう? 俺は好き」
三春「・・・あっそ」
三春「てゆーか、俺のどこがそんないいわけ」
瑠星「んー」
瑠星「・・・秘密」
その言葉の優しい温度が
穏やかに、俺の胸を満たしていた。
恋心に気づくのは突然だったりするもので、こういう不意うちな恋愛のはじまりかたがあってもいいと思う。今はまだ春ちゃんの困惑する様子がひしと伝わってきたけれど、きっともう少し先の未来はうまくいっている予感がしました。
切ない恋心ですね、でもとってもピュアですね。自分の素直の気持ちをずっと心に秘めながら毎日を友達として過ごしてきた、大変だったでしょうね。うまく2人が続きますように。
瑠星への気持ちに、まだ名前が付かないうちから少しずつ想いを温めている純粋さにキュンとしました。どこかきになっちゃう、考えずにはいられない…そんなところに実は熱い思いが秘められているのですね。素敵です♡