車輪

桃千

車輪 (読み切り)(脚本)

車輪

桃千

今すぐ読む

車輪
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇洋館の玄関ホール
タンジー「きゃっ!」
リリー「どういうつもり、タンジー!」
タンジー「ごめんなさい、リリー姉さん」
リリー「はぁ・・・転ぶなんて、みっともない。それに、その髪!」
タンジー「あっ、ピンが外れて・・・」
リリー「そんな乱れた髪で、外出はできないわ。もう一度結い直す間、私たちに待てというの?」
リリー「もう行きましょうよ、お父様、お母様。遅れたりしたら、先方にご迷惑よ」
母親「リリーの言う通りね。三人で参りましょうか、あなた」
父親「そうだな。タンジー、お前は留守番だ」
タンジー「・・・はい」
リリー「じゃあね、タンジー」
タンジー「・・・・・・」
タンジー(みんな行ってしまった。 園遊会・・・楽しみにしていたのに)
タンジー(さっき、姉さんは、わざと私を転ばせたわ)
タンジー(どうして私を目の敵にするのかしら?)
タンジー(幼い頃は可愛がってくれたのに、いつからか辛くあたるようになってしまった)
タンジー(両親は私たち姉妹に関心が薄いから、要領のいい姉さんに流される。相談しても無駄ね)
タンジー(・・・部屋に戻りましょう)
タンジー「痛っ」
メイド「タンジーお嬢様、お手をどうぞ」
タンジー「ありがとう」
メイド「お怪我をされましたか? お着替えになる前に、手当てを致しましょう」
タンジー「だめ!」
メイド「!」
タンジー「あ・・・。平気よ、少し足を捻っただけ。あとで氷を持ってきてちょうだい」
メイド「かしこまりました」
タンジー「着替えも、手の届かない所だけ手伝ってくれたら、自分でするわ。一人になりたいの」
タンジー(リリー姉さんの折檻を知られる訳にはいかない)
タンジー(昔、お父様たちに泣きついたら、姉さんはお説教されたけど、)
タンジー(監督不行き届きで、優しかった乳母が辞めさせられた。両親は責任を下に押し付ける)
タンジー(それに、告げ口に腹をたてて、姉さんの嫌がらせも悪化した)
タンジー(使用人を巻き込みたくないし、姉さんが怖いわ・・・体の怪我は隠さないと)
メイド「本日は、残念でございましたね、お嬢様」
タンジー「いいのよ。私なら大丈夫」
メイド「ですが・・・」
タンジー「せっかく時間ができたし、バードック様へお手紙を書くわ」
メイド「ご婚約者様へ?」
タンジー(優しくて素敵なバードック様。私の大切な婚約者)
タンジー(彼に嫁げば、姉さんから離れられる。くよくよするのは止めましょう)
タンジー「バードック様のことを考えると、元気になれるの」
メイド「心から愛していらっしゃるんですね」
タンジー「ええ、とっても」
  彼を愛していたわ
  なのに、突然・・・

〇洋館の階段
タンジー「バードック様に何をしたの、リリー姉さん!」
リリー「はぁ? 階段で絡まないでくれる、危ないじゃない。あんたの婚約者なんて知らないわ」
タンジー「とぼけないで! 彼から婚約を解消したいと言われたのよ!」
タンジー「私の素行に問題があるって! 品行方正に振る舞ってきたつもりよ、身に覚えはないわ!」
タンジー「きっと姉さんよ・・・姉さんが何かしたんだわ・・・。ねえ、そうなんでしょ?」
リリー「あんたが男好きのアバズレだと噂になってる件かしら?」
タンジー「なんですって!?」
リリー「あんたソックリな女を見つけたの。あんたの古いドレスをあげたわ」
リリー「あとは、盛り場で遊ぶとき『タンジー』と名乗ったら、報酬をあげると約束をしただけ」
リリー「こんな小細工に騙されるなんてね。あんたたち、本当に愛し合ってたの?」
タンジー「ひどいわ! 彼の誤解をといて!」
リリー「ちょっと、放してよ! あんた頭がおかしいわ!」
タンジー「おかしいのは姉さんよ! 絶対に彼の所へ連れて行くから!」
リリー「汚ない手で触らないで!」
タンジー「痛いっ・・・あっ!」
リリー「!!」
タンジー「きゃああ!!」
リリー「・・・・・・・・・・・・」
  あ・・・あ・・・
リリー「・・・ははっ」
リリー「あははは! 首がっ、すごい角度になってるわよっ、タンジー!」
  ど・・・じで・・・ね、ざん・・・
リリー「あんたが、大嫌いだから」
  なん・・・で・・・
リリー「嫌われる理由が分からない? だからあんたが憎くてたまらないの」
リリー「思い知るがいいわ。いい気味ね、あははは!」
  ひど・・・ゆるざ・・・ない・・・
  ・・・・・・・・・・・・

〇貴族の部屋
タンジー「・・・・・・・・・・・・」
タンジー「!!」
タンジー(え・・・なんで・・・?)
タンジー「私、死んだはず・・・なぜ子供に戻ってるの・・・?」
リリー「タンジー、具合はどう?」
タンジー(リリー姉さん!!)
リリー「急に熱を出して丸一日眠ってたのよ。随分うなされてた。怖い夢を見たのね」
タンジー(夢? あれが、夢だと言うの?)
タンジー(いいえ、あれは現実。私には分かるわ。憎悪が胸の中に渦巻いているもの)
タンジー(きっと神様が私を憐れんで、過去の自分に生まれ変わらせて下さったんだわ)
リリー「こんなに汗をかいて。待ってね、拭いてあげる」
タンジー「触るな!!」
リリー「きゃっ!」
タンジー「出ていって、リリー。あんたの顔を見ると吐き気がする。心配するなら、ほっといて」
リリー「ご、ごめん。私、行くから、ゆっくり眠って」
タンジー(私にあれだけしておいて、この程度で落ち込むんだ?)
タンジー「笑わせないで。私の復讐は、これからだから!!」

〇立派な洋館
タンジー(リリーをいたぶるのは簡単だった。受けた仕打ちを返せば良かった)
タンジー(要領よく立ち回って、両親を味方につけるのは、私だった)

〇洋館の階段
  かつて非業の死を遂げた日がやってきた
タンジー(今度、婚約者に棄てられたのは、リリーのほう)
タンジー「汚い手で触らないで!」
リリー「きゃああ!!」
タンジー「・・・・・・・・・・・・」
リリー「あぅ・・・」
リリー「ど・・・じで・・・たん、じー・・・」
タンジー「あんたが憎いからよ。何も憶えていない被害者面を見るたび、憎しみがつのったわ」
タンジー「酷い目に合わされた者は忘れないのよ! いい気味ね、リリー!」
リリー「ひど・・・い・・・」
タンジー「ふふっ」
タンジー「・・・・・・・・・・・・」
タンジー「!!」
タンジー「・・・待って、これ・・・まさか」
リリー「ゆるざ・・・な・・・」
タンジー「待って、リリー! リリー姉さん!!」
リリー「・・・・・・・・・・・・」
タンジー「ああ・・・そんな・・・」

  姉さんが息を引き取ると、周囲が光に包まれた
  きっと私たち、車輪みたいに
  繰り返し、回って・・・・・・

コメント

  • タンジーとリリーの姉妹間で永遠に回り続ける因果のループを「車輪」と形容した作者さんのセンスがすごいと思いました。物語の雰囲気にも合ってますね。

  • 無限ループって怖い・・・

  • キャラクターの掛け合いがリアルでドキドキでした😆
    個人的にタンジーちゃんがお気に入りです✨

ページTOPへ