愛と嘘とその他諸々

サカミキ

第三話 後悔(脚本)

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〇シックな玄関
紡「亜輝、もういいよ 俺が話す」
亜輝「・・・」
紡「俺と亜輝は、昔、付き合っていたんです もう、10年も前の話ですが・・・」
亜輝「だ、だから・・・ 菜緒さんに会うのが気まずくて・・・」
赤松(刑事)「いやー 性別がどうこう言いませんけど あなたたち、兄弟ですよね」
紡「義理です それに、こっちの付き合いの方が先なんで・・・」
赤松(刑事)「そうですか 『付き合ってた』過去形ですね じゃ、今は?」
紡「今は、兄として友人として亜輝の側にいます」

〇白
  初めて亜輝に会ったのは
  俺が大学三年、亜輝が高校ニ年の夏の初めだった。

〇コンビニのレジ
コンビニ店長「亜輝くーん 今日からバイトに入って貰う真崎くん 仕事教えてあげて」
亜輝「は、はい」
  恐ろしく綺麗な子だと思った。
紡「あきさん? よろしくお願いします」
亜輝「真崎くん 僕のが年下だと思うんで、呼び捨てでいいよ」
  亜輝は口数は少なかったが、仕事はしっかり教えてくれたし
  
  シフトが被ることも多く、徐々に打ち解けていった。
紡「そーいえば あきって名前だよね苗字は? みんな名前で呼ぶよね」
亜輝「今の苗字は嫌いなんだ 名前で呼んでよ」
紡「そっか じゃ、俺も紡って呼んで」
亜輝「つむぐ」
紡「うん」
  この夏は凄く暑かったのに
  亜輝がいつも長袖を着ていたこと
  
  高校生なのに、やたら夜にバイトを入れていたこと
  自分の今の苗字が嫌いだと言ったこと
  
  この時はさして気にも留めなかった。

〇小さいコンビニ
紡「亜輝!」
  亜輝と出会って2ヶ月ほど経った頃
  
  バイト先のコンビニの前で亜輝を見つけ声をかけた。
紡「えっ!」
  亜輝はすぐに顔を伏せたが
  
  その美しい顔には大きなアザがあり頬は腫れ
  唇の端が切れて血が固まっていた。
紡「その顔、どうしたの?」
亜輝「ちょっと、転んじゃって」
紡(転んだだけで、そんなになるわけ無いだろ)
紡「その顔じゃ、バイト出られないだろ ちょっと待ってて店長に言ってくる」
亜輝「で、でも・・・」

〇黒
  もっと気を配っていれば・・・
  
  あんなに亜輝が傷つくことは無かった。

〇小さいコンビニ
紡「家まで、送って行くよ」
亜輝「でも、紡はバイトが・・・」
紡「大丈夫、店長には亜輝が体調不良だから送ってくって言ってきた 前のシフトの人が残ってくれるって」
亜輝「ご、ごめんね」

〇シックなリビング
亜輝「ありがとう 送ってくれて」
紡「何があったの?」
亜輝「・・・」
紡「その顔で学校行ったの?」
亜輝「行ってない、もう夏休みだから」
紡「冷やさなきゃ」
  冷凍庫から保冷剤を取ってくると
  それをハンカチに包み込み亜輝の頬にそっとあてる。
亜輝「イタッ」
紡「ちょっと、ごめん」
  亜輝の服の袖を捲る。
  
  白く細い腕が露わになるも
  
  そこには色の違うアザが沢山あった。
紡(やっぱり・・・)
紡「誰にやられたの? いじめ?」
  亜輝が泣きながら首を横に振る。
紡「それじゃ──」
  俺にしがみついて泣きじゃくる亜輝
  
  痛くないように、そっと背中に手を回す。
亜輝「義理の親父」
紡「俺に何か出来ることは無い?」
亜輝「大丈夫、母親が追い出したから もう、僕の所には来ないよ」
紡「そう」
  この時は、母親によって亜輝は救われたんだと思っていた。
紡「俺は、この先の亜輝を守りたい 付き合って欲しい」
  そんな言葉が、口をついて出ていた。
亜輝「紡は僕の事が好きなの?」
紡「好きだよ」
亜輝「紡が良かった」
  その後暫く、亜輝は俺の腕の中で泣き続けた。

〇一人部屋
  付き合いだして、亜輝の家によく行くようになった。
  
  亜輝の母親とは殆ど顔を合わせることは無かった。
  あれから、アザが出来ることも無く安心していたが
  
  亜輝は俺以外の男性に怯えるようになっていた。
  そんな亜輝を守り、愛し
  ずっと一緒に生きて行くんだ
  と疑わなかった。

〇黒
  あの日までは・・・

〇高級マンションの一室
  大学4年の秋
  父が再婚相手を連れて来た。
  
  母と離婚して、2ヶ月しかたっていなかった。
紡の父「紡、再婚することになった礼子さんと 息子の亜輝くんだ」
礼子「紡くん、よろしくね」
「えっ!!」
  俺も亜輝も親の再婚相手のことを知らず、酷く驚いた。
  
  二人の出会いの経緯は知らない。
  偶然なのか、それとも・・・
紡の父「ここで一緒に暮らすことになったから」
紡「いや、待ってくれよ」
紡の父「嫌なら、お前が出て行けばいい」
紡「はぁ!?」
亜輝「僕も、ここで暮らすの?」
礼子「決まってるじゃない あなたはまだ高校生なんだから」
  亜輝がすがるような目でこちらを見る。
紡(亜輝を人質に取られた)
  俺達は、一緒に暮らすことになった。
  その生活は、決して楽しいものではなかった。
  
  父親は若く美しい新しい妻の言いなりだった。
  尊敬していた父の、そんな姿は見たくなかった。
  俺達はいつも見張られているようで
  近くにいるのに触れ合うことも
  まともに話す事も出来なくなった。

〇黒
  半年後、お互い大学と高校を卒業して家を出た。
  
  やっと亜輝を救い出せたと思っていたのに・・・
  
  その手を離してしまった。

〇広い公園
「亜輝!?」
亜輝「紡!?」
  一年前、亜輝と偶然再会した時
  
  決めたんだ
  
  兄として、友人として
  
  ずっと側にいて守って行くと

〇シックな玄関
紡「今は、兄として友人として亜輝の側にいます」
紡(昨日までは・・・)

〇黒
  亜輝──
  
  俺はまだ、君に言えない事がある。

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