流れ星が煌めいて

米山最中

読切(脚本)

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〇学校の校舎
  ”キーンコーンカーンコーン”
  放課後を知らせるチャイムが鳴り響く。
  それから程なくして、部活動の喧騒がちらほらと聞こえてきた。
  そんな夕暮れ時、俺は高校の正門で一人、立っていた。
アキト「あいつ、おせぇな・・・」
  俺は学校の鞄とは別に手提げをぶら下げている。
  中身はレジャーシート、方位磁針、懐中電灯などなど。
マナ「お待たせしたね〜!!」
アキト「うわっ!!」
アキト「背後からはズルいぞ!」
マナ「にっしっしっし〜」
  こいつの名前はマナ。
  物心つく前からの幼なじみだ。
マナ「じゃあ、行きますか!」
アキト「ほんとマイペースだな・・・」

〇線路沿いの道
  ”カーン、カーン、カーン”
  踏切の閉まる音が遠くから聞こえてくる。
  そんな通りをマナと2人で歩いている。
  なんとなく、2人の会話に間が空く。
  高校に入ってからというもの、なんとなくお互い距離を空けてきたからかもしれない。
アキト「最近、調子どうなんだ?」
マナ「え、調子って? 体調は万全だよ!」
アキト「ちげーよ なんつーか、その・・・」
  俺が言葉を紡ぐより先に、マナが口を開いた。
マナ「大丈夫だよ〜」
マナ「問題ナッシ〜ング!」
アキト「ならいいけど、さ」
  マナは天真爛漫という言葉が似合うと思う。
  親同士が仲良く、幼い頃から一緒にいたからよく分かる。
  マナが落ち込んでいる姿や涙を流したところをほとんど見たことがない。
  ただ一度、彼女の母が亡くなった時を除いて。
マナ「でも、アキトから誘ってくれるなんて〜」
アキト「まあ、久しぶりに行きたくなってな」
マナ「そうなんだ〜」
マナ「あ、もう陽が落ちるね〜」
  夕日が地平線に消えてゆく。
  夕日を横目に、俺たちは思い出深い公園へと向かった。

〇見晴らしのいい公園
マナ「はーい! とうちゃくー!!」
アキト「おいおい、はしゃぐなよ みっともない」
マナ「いいじゃん〜 誰も居ないんだし」
  公園に着くと、マナは一目散に走り出し、ベンチに座った。
マナ「天気も良好! 今夜は見れそうですな!」
  マナはベンチに腰掛けながら空を見上げると、晴れやかな表情で振り向いた。
アキト「ああ、そうだな」
  俺は言われるまでもなく、荷物をおろし、ブルーシートを取り出し、敷き始める。
マナ「いいよ、2人しかいないし 一緒にここ座ろ!」
  マナが右手でポンポンとベンチを叩く。
アキト「それもそうだな」
  俺は広げたブルーシートをすぐさま片付け、マナのいるベンチに腰掛けた。
  ほんの少し、二人の間には拳一つほどのスペースが空いている。
マナ「ほんと懐かしいね〜! 何年振りだっけ?」
アキト「うーん、今が高校2年だから、7年ぐらい前か?」
マナ「もうそんな前なのか〜! 昨日のことのように思えるよ〜」
  マナはそう言いながら、空を見上げた。
  俺も釣られて、夜空を仰ぎ見た。

〇見晴らしのいい公園
  7年前、俺たちはお互いの家族と共に、この公園に来ていた。
アキト(幼少期)「うわ〜! すげぇぇぇ!」
マナ(幼少期)「すごいすごい! たくさんの流れ星!!」
  大きなブルーシートの上ではしゃぐ俺とマナ。
アキト(幼少期)「やばっ、願い事しなきゃ!」
マナ(幼少期)「あ、わたしも!」
  俺もマナも自身の両手を握って目を閉じた。
カナミ「あらあら、あなたたち〜 何願ってるの〜?」
  カナミさんはマナのお母さんだ。
アキト(幼少期)「言ったら叶わないんだぞ!」
カナミ「あらら、そうなの?」
  カナミさんは生意気な俺に対して、いつも優しい笑顔で微笑み返してくれた。
カナミ「マナは?」
マナ(幼少期)「うーんとね、」
マナ(幼少期)「ヒミツなの!」
カナミ「そっか〜、ヒミツか〜 2人とも叶うといいね!」
マナ(幼少期)「うん!」
アキト(幼少期)「うん!」
  俺たちは毎年のようにこの公園に来ては流星群を眺めていた。
  だが、この年以降、俺たちがこの公園を訪れることはなかった。

〇見晴らしのいい公園
マナ「結局、願い事は叶わなかったな〜」
アキト「え?」
  マナはどこか儚げな表情をしたまま、夜空の遠くを眺めていた。
アキト「願い事って?」
マナ「7年前、ここで願ったの」
マナ「またみんなで星を見に来れますようにって」
マナ「でも・・・」
  彼女は静かに涙を流し、言葉を止めた。
アキト「カナミさんのこと、残念だったな」
マナ「もう5年以上前だよ。 すっかり立ち直ったって」
アキト「目、真っ赤だぞ?」
マナ「なっ・・・」
マナ「泣いてないもん」
  言いながらマナは目尻を拭った。
アキト「あっ!」
マナ「え、なに?」
  マナは目を素早く拭うと空を見上げた。
アキト「流星群だ!」
マナ「わあ・・・!」
  俺たちの頭上を渡る夜空の中で、無数の星たちが飛び交い始めた。
アキト「やば! 願い事しなきゃ!」
マナ「わわ、どうしたの?」
アキト「ほら、お前も手を組んで」
  俺は自身の両手を組んで目を瞑った。
マナ「なにそれ〜 急に、子どもに戻ったみたい」
  俺の様子を見てクスクスと笑うマナ。
アキト「早く願わないと消えちまうぞ〜」
マナ「やば!」
  マナは急いで目を閉じ、両手を組んだ
  時間にして20秒ほど。
  2人は沈黙の中それぞれに願った。
アキト「なにを願ったんだ?」
マナ「言ったら叶わないんじゃないの?」
アキト「また来年も、ここに来れますように!」
  俺は空を飛び交う星々に届くように声を上げた。
アキト「願ってるだけじゃなにも叶わないからさ」
アキト「また、来年も一緒にここで星を見ないか?」
  マナはもう一度空を見上げ、一筋の雫を目尻から流すと、満面の笑顔で夜空に向かって叫んだ。
マナ「喜んで!」
アキト「あははは!」
マナ「あははは!」
  2人とも腹を抱えて笑った。
  まるであの頃に戻ったみたいに。
アキト「で、マナは何を願ったんだ??」
マナ「うーんとね〜、」
  マナはイタズラな笑みを浮かべた。
マナ「ヒミツなの!」
アキト「な! 教えろよ〜!」
マナ「教えましぇ〜ん!」
  流星群は変わらず煌めいていた。
  そして、ベンチに座る俺たちの間に、もう拳ほどのスペースは無くなっていた。
  ──fin──

コメント

  • かわいいお話ですね。
    彼女自身辛いことを乗り越えて、今の自分がいるわけで。
    そんな彼女の願いがちょっと気になります。笑
    二人の心の距離も、また近づきましたね。

  • とーっても可愛らしい二人ですね、これからもずっと2人で同じ場所にこれたらいいですね。心がほんわかするお話しで優しい気持ちになれました。

  • 最後のシーン彼らの鼓動が聞こえてくるようでした。言葉に出して願いを叶えていくタイプと言葉に出さずにじっと願い続けるタイプ。どちらも彼らの年代には必要ですね。

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