読切(脚本)
〇学校の屋上
放課後。
俺は校舎の屋上でそわそわと待っていた。
待ち人は、1‐Cの同級生である佐倉京子さんだ。
容姿端麗。才色兼備。皆の憧れの的。それでいて謙虚で控えめ。書道部に所属。
清楚至上主義者の俺にとっては、まさに理想ど真ん中の女性だ。ギャルっぽい今どきの女子とはまさに月とスッポン。
ちなみに俺とは挨拶ていどの関係だ。
「ごめんなさい!」
佐倉京子「お待たせしてしまいましたか?」
長尾敏樹「そ、そんなことないよ、佐倉さん」
長尾敏樹(改めて近くで見ると、とても人間とは思えない美しさだ)
長尾敏樹(スレンダーな体型、艶やかな長髪。雪のように白い肌。まるで女神のよう)
佐倉京子「お手紙を読まさせていただきました。私に〝大事な用〟というのはなんでしょうか?」
16年間地味に生きてきた俺の、一世一代の勝負のときが今!!
長尾敏樹「あの、佐倉さん! お、俺とつきあってくりゃ◆%嗹∩」
終わった俺の青春。
だが佐倉さんの返事は予想外のものだった。
佐倉京子「長尾さん」
長尾敏樹「は、はい!」
佐倉京子「もし、今から打ち明ける私の〝秘密〟を聞いても、あなたが心変わりなさらなかったら、先ほどのお申し出を改めてお聞かせください」
長尾敏樹「え? ひみつ?」
佐倉京子「そのときは、私もきちんと返事をさせていただき──」
バタン!
突然、佐倉さんが意識を失って倒れる。
長尾敏樹「佐倉さん!!」
〇保健室
保健の先生は外に出ているらしく、俺たち以外は誰もいない。
佐倉京子「申し訳ありません、ベッドまで運んでいただいて」
長尾敏樹「大丈夫なの? 貧血?」
佐倉京子「ご心配なく。それより私の〝秘密〟を、今から長尾さんにだけ明かします──」
佐倉さんは力なく上半身を起こす。
佐倉京子「でも気味悪がって幻滅しないでくださいね」
そう断ると、佐倉さんは制服のブラウスをめくりあげて俺にお腹を見せる。
長尾敏樹「・・・え!?」
それから腹部の一部をカパッと開き、内部の歯車やゼンマイ仕掛けを露出する。
長尾敏樹「ひいっ!!!!」
佐倉京子「私はオートマタ。自動人形なんです。ずっと昔に、時計職人の御主人様に作られました」
佐倉京子「元は自動筆記が専門で、帝都ではよく人前で書道を見せていました。それから何度も改良してもらって、今の姿になったんです」
ショックで呆然となるしかない。
まさか佐倉さんが、時計仕掛けの人形だったなんて・・・。
佐倉京子「これまでは御主人様が動力であるゼンマイバネを巻いてくれてたのですが、去年、老衰で亡くなられて・・・」
佐倉さんが身をひねって背中を見せる。腰のあたりに、小さなネジ穴が付いている。
佐倉京子「今はゼンマイがほとんど巻き戻ってる状態なんです」
佐倉京子「自分自身では絶対に巻けませんし。それで身体が弱って、先ほどのようなお見苦しいことに・・・」
佐倉京子「私はまもなく、完全に停止してしまうでしょう」
長尾敏樹「だったら、誰かにネジを巻いてもらえばいいんじゃ・・・」
佐倉京子「そんなに簡単なことではないんです!」
佐倉京子「私は背中のゼンマイを巻かれると、その人のことを好きになってしまう仕組みになっているんです」
佐倉京子「一生おそばにいて、お仕えしたくなるほど・・・」
長尾敏樹「そ、そうなんだ・・・」
佐倉京子「私は亡くなった御主人様に添い遂げるつもりでした。今どきの自律したAIロボットちがって、私は一人では生きていけませんから」
佐倉京子「ですが御主人様は私に、〝きみは新しい主人を見つけて幸せに生きよ〟と言い残されたんです」
佐倉京子「──以上が、私の〝秘密〟です」
佐倉京子「長尾さん、こんな私に、まだ交際のお申し出をしてくださいますでしょうか?」
正直、俺はどうやって辞退しようかと考えていた。
いくら理想の清楚女性とはいえ、人工物の人形とつきあうというのは倫理的にもアブノーマルだし・・・
佐倉京子「実は何人かの男子生徒や教員の方々からも交際のお誘いは受けていたんです」
佐倉京子「でも分不相応ながらすべてお断りしました。私ごとき人形でも、どなたでもいいというわけではありませんから」
佐倉京子「私のことを大事にしてくれそうな優しい人で、私もその・・・好きになってもいいなって思える人でないと・・・」
佐倉さんが、恥ずかしそうにチラッと俺の顔に視線をむける。
長尾敏樹「!!!!!!」
俺の恋情は一気に沸騰し、倫理を跡形もなく吹き飛ばす。
長尾敏樹「佐倉さん! 俺と一生つきあってください!」
佐倉京子「はい、喜んで!」
たかが有機物と無機物のちがいていどの障害、愛さえあれば問題ない!
佐倉京子「では、これを受け取ってください」
渡されたのは、小さな鍵のようなものだ。
佐倉京子「私専用の〝ネジ巻き〟です。これで私のことを巻いてください」
俺はネジ巻きの先を佐倉さんの大事な穴に挿し入れ、キリキリと回していく。
佐倉京子「ああ・・・この感じ、久しぶり・・・」
佐倉京子「もっと強く巻き締めて。 そうしたら本来の性能が回復しますから」
そのうちカチッと音がして、それ以上は回せなくなる。
佐倉京子「ヒサシぶりにチョ→元気☆☆☆ マジ、サイコ→♪♪」
次の瞬間、佐倉さんはベッドに飛び乗り、一瞬で大胆な衣装に着替えて、ノリノリで踊りはじめる。
長尾敏樹「!??」
佐倉さんは、別人のようなイケイケギャルに豹変してしまった。
佐倉京子「チョーアガる⤴⤴⤴ アタシ、本来はこんなノリのキャラなんで」
・・・もしかして清楚で控えめだったのは、ゼンマイが巻き戻って弱ってたから?
佐倉京子「新オーナー♡♡ 一生アタシの世話、ヨロシク(^o^)丿」
・・・・・・
長尾敏樹(でも、これはこれで・・・!)
エネルギーがみなぎると、こんな思いがけない大変化をとげるなんて驚きました。彼にとっては一生添い遂げることになるかもという大決断でしたね。
いやいや!ギャルとは月とすっぽんって言ってたじゃーん!笑
次巻く時は…加減して巻いたほうが良いかもしれませんね笑
もしかしたら現実でも機械仕掛けの人間が…いるかもしれませんね!
まさかの告白ですよね、聞いてしまっても、どのように対応していいかわからない(笑)ですが最後はハッピーエンドでよかったです。