第六話「10月、グランプリファイナルシリーズ(前編)」(脚本)
〇野外球場
大歓声の中、
ライナーズSが試合をしている。
ショートの守備に付きながら、
涙目になっている清宮。
清宮泰助(正直、半年前には考えることも できなかった。 うちのチームがここまで来るなんて──)
ピッチャーが渾身のストレートを投げ込むと、バッターのバットが空を切る。
唸るような歓声が沸き起こり、
ライナーズSの選手たちが
ベンチから飛び出す。
清宮泰助(いまこの瞬間、 万年BクラスだったライナーズSが、 25年ぶりのリーグ優勝を果たしたのだ)
〇広い更衣室(仕切り無し)
ビールかけをして騒いでいる選手たち。
若手選手A「飲め飲め飲め~!!!」
若手選手B「優勝だ! 俺たちが勝ったんだ!」
記者A「清宮選手! 優勝おめでとうございます!」
清宮泰助「あはは! はい! ありがとうございます! あなたも飲んでください!」
記者A「チームの代表として先頭に立ち、 苦しいシーズンだったと思います。 ずばり、優勝の要因はなんでしょうか」
清宮泰助「それはみんなが頑張ってくれたから だと思います」
記者A「北村投手が開幕から十連勝しました。 そして二階堂選手の電撃移籍も 大きかったのでは?」
北村と二階堂の名前を聞いて、
清宮の表情が一瞬曇る。
清宮泰助「・・・ええ。そうですね」
記者A「最近の一部報道では、花ケ崎GMと キャプテンの確執も噂されていますが──」
清宮泰助「そんなのどこかの週刊誌が勝手に書いた 記事でしょう? 気にしていません」
記者A「それは失礼しました」
清宮泰助「と、とにかくあなたも飲んでください! ほら!」
誤魔化すように、
記者にビールをかけてはしゃぐ清宮。
〇更衣室
清宮が上機嫌でシャワー室から出て来る。
清宮泰助「花ケ崎・・・!?」
花ケ崎健治「優勝おめでとう」
清宮泰助「こ、こんなところまで何しに来た!?」
花ケ崎健治「チームが長いペナントを制して 優勝したんだ」
花ケ崎健治「その先頭に立ったキャプテンに ねぎらいくらいさせてくれ」
清宮泰助「俺はお前のしたことは忘れていない。 シーズンオフになって落ち着いたら、 必ず告発してやる・・・!」
花ケ崎健治「好きにしろ」
清宮泰助「!?」
花ケ崎健治「そんなことより、まずはグランプリ ファイナルシリーズを心配するんだな」
グランプリファイナル
それはペナントを制した各リーグの覇者が
争い、日本一のプロ野球チームを決める
戦いである
七戦して先に四勝したチームが優勝となる
清宮泰助「お前に言われなくてもわかっている」
花ケ崎健治「相手はチーム・バーズ。三年連続 グランプリファイナルを制している王者だ」
清宮泰助「俺たちは絶対に勝つ」
花ケ崎健治「リーグ優勝程度で浮かれている 今日の様子を見てわかった」
花ケ崎健治「このチームには緊張感がまるでない。 キャプテン、あんたを筆頭にな」
清宮泰助「だ、黙れ! 俺たちは絶対に優勝してみせる。 あんたの力を借りなくてもな」
花ケ崎健治「ふん。せいぜいグランプリファイナル シリーズまであがくんだな」
清宮泰助「あんたはもう何もするな。いいな?」
花ケ崎健治「・・・そうだな。バーズの選手たちには もう何もするつもりはない」
清宮泰助「・・・・・・?」
花ケ崎健治「窮鼠猫を嚙むというだろう。 鼠はこちらで追い詰めてやればいいんだ」
清宮泰助「お前、いったい何を──」
〇野外球場
ライナーズSの選手たちが
過酷なトレーニングをしている。
だが守備のミスを連発するなど、
精彩を欠く選手たちが多い。
それを見て、溜息をもらす清宮。
清宮泰助(初めてのグランプリファイナルで、 みんな委縮している・・・)
清宮泰助(このままでは明日からの試合に 勝てるわけがない──)
監督「清宮。 今夜、最後のミーティングをしたい。 少し残れるか?」
清宮泰助「大丈夫です」
監督「すまんな。毎日遅くまで」
清宮泰助「いえ、チームのためですから」
監督「奥さんのためにも早く帰らせてやりたい んだが・・・予定日、近いんだろ?」
清宮泰助「プロ野球選手の妻ですから。大丈夫です。 お気遣いありがとうございます」
監督「大手新聞12社では、12対0で、チーム・ バーズが優勝する予想が出たらしい。 それでも勝てると思うか?」
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