遠くの君へ

鍵谷端哉

読切(脚本)

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〇簡素な一人部屋
  漫画を描いている碧人。そこに電話がかかってくる。
碧人「はい。高波です。あ、宮下さん!・・・ はい。今、次のネームを切ってて ・・・ え?打ち切り?」
碧人「ちょ、ちょっと待ってください!あと5週・・・ いえ、3週ください!」
碧人「ここから盛り上がるところなんです!・・・ はい。・・・ はい。わかりました・・・」
  ピッと、携帯を切る碧人。机の上に携帯を投げ捨て、乱暴にベッドの上に寝転がる。
碧人「14週か・・・ 。もった方なのかな。って、落ち込んでもいられん!」
  ガバッと起き上がって机に向かい、原稿を
  書き始める。
碧人「ダメなら、次にいくだけだ!」

〇散らかった職員室
  持ち込みをしている碧人。
碧人「3年前に新人賞をいただいて、週刊の連載も担当してます。まあ、14週だったんですが、今回のは自信があるんです!」
編集者1「・・・・・・」

〇オフィスのフロア
  持ち込みをしている碧人。
碧人「今、流行りの異世界転生ものに得意のSF要素を入れてみたんです!見どころとしては、この惑星のヒロインが・・・」
編集者2「・・・・・・」

〇役所のオフィス
  持ち込みをしている碧人。
碧人「5話まで描いてあります。すぐに連載をもらっても対応できます!なんなら、この5話も描き直すことも、全然可能です!」
編集者3「・・・・・・」

〇アパートの玄関前
碧人「はあ・・・」
碧人「さすがに心が折れるな。・・・ って、ん?なんか、届いてる・・・」
  郵便受けを開けて、箱を出す。
碧人「ああ、今日、2月14日か・・・」

〇簡素な一人部屋
  箱を机の上に置いて、勢いよく、ベッドに
  寝転がる碧人。
碧人「・・・ ・・・」
  スマホを取り出し、電話をかける。
朱莉「はい」
碧人「も、・・・ もしもし?」
朱莉「あ、碧人?久しぶり」
碧人「・・・ よく、俺だってわかったな」
朱莉「わからないわけないでしょ」
碧人「いや、3年経ってるからさ。忘れられてるかなって」
朱莉「たった3年で忘れるわけないって。何年付き合ってたと思ってるのよ」
朱莉「で?どうしたの?碧人からかけて来るなんて珍しいね」
碧人「チョコ、届いた。ありがとな」
朱莉「何を今更。去年も、その前も電話よこさなかったくせに」
碧人「いや、去年とかはホントに忙しかったんだよ」
朱莉「・・・ 暇じゃないと電話かけてこないわけ?」
碧人「あ、いや・・・ ごめん・・・」
朱莉「ま、いいけど。・・・ で、なにかあったの?」
碧人「・・・ ちょっと声聞きたくなってさ」
朱莉「ふーん」
碧人「・・・ 元気か?」
朱莉「少なくても、碧人よりも元気だと思うよ」
碧人「そっか・・・」
朱莉「・・・ 打ち切りにでもなったの?」
碧人「え?な、なんでわかるんだ?」
朱莉「しかも、新作を色々なところに持ち込んで、全滅したでしょ?」
碧人「・・・ この部屋に盗聴器でも仕込んでるのか?」
朱莉「あんたの声、聞けばわかるって。学生の頃に、持ち込みしてボコボコに酷評されたときと同じトーンだもん」
碧人「・・・ ・・・」
朱莉「スランプにでもなった?」
碧人「なあ、朱莉。俺って才能ないのかも」
朱莉「・・・・・・」
碧人「プロになれるのなんて、天才の中でもほんの一握りだ。俺なんかじゃ無理だったんだ」
朱莉「・・・ ・・・」
碧人「・・・ あの頃は楽しかったな。俺が漫画を描いて、お前が読んで笑ってくれた」
碧人「それでだけ、満足してた。漫画を描くこと自体が楽しかったんだ」
朱莉「今は違う?」
碧人「怖いんだ。何を描いても、面白くないんじゃないかって思って・・・」
碧人「プロになるのって、こんなに辛いだなんて、思ってもみなかった・・・」
朱莉「・・・ ・・・」
碧人「・・・ なあ、朱莉」
朱莉「一流の漫画家になって、お前を迎えに戻る」
碧人「・・・ ・・・」
朱莉「そう言って、碧人は上京したよね」
碧人「ああ・・・」
朱莉「夢、諦めるの?」
碧人「・・・ ・・・」
朱莉「今、諦めたら絶対に後悔するよ」
碧人「けど、もう、3年だぞ。芽が出なかったんだ。才能なかったんだよ」
朱莉「たった3年じゃない。もう少し全力で足掻いてみたら?」
碧人「・・・ ・・・」
朱莉「私は待ってる。碧人を信じて」
碧人「朱莉・・・」
朱莉「けど、どうしても辛くなったら戻ってきて。そのときは、二人で一からやり直そ」
碧人「お前・・・最高の女だな」
朱莉「今頃気づいたの?」
碧人「サンキュー。気合入った」
朱莉「うん、頑張れ!」
碧人「ああ」
  ピッと携帯を切る。机に座って漫画を描き始める碧人。
碧人「・・・ ・・・」
  手を止めて、箱を開けて、チョコを頬張る。
碧人「・・・ 美味ぇ」
  再び、漫画を描き始める碧人。
  終わり。

コメント

  • いくら努力しても報われないときって、才能や運という言葉に全ての責任を投げつけてしまいがちです。
    まさしく自分もそうです。
    そんなときに助けてくれる人ほど、大切にしたいですね。

  • 古き良き遠距離恋愛の雰囲気がとても心地よく読み進められました。彼女の存在が一生心の支えになるのでしょうね。3年連絡なかったら普通は自然消滅ですよね。

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