オトギリソウ

りぬ

オトギリソウ(脚本)

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オトギリソウ
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〇黒
  人生を変えたい時は何度もあった
  変えられる分岐点はたくさんあった
  でも何もしてこなかった
  そんな僕の誰にも触れて欲しくない話

〇中庭
レン「ソウ!今日はどこでメシ食う?」
ソウ「ラーメンで良いんじゃね?」
レン「意外!? ラーメン屋とか行けるんだ?」
ソウ「まあね この時間なら混んでなさそうだし、人と触れるリスクもないだろ!」
レン「出た~! ソウの”潔癖症”!!」
ソウ「仕方ないだろ ・・・無理なんだから」
レン「はいはい・・・ じゃあ行くか!!」
リリカ「あ!レンとソウじゃん! 何してんのー?」
レン「おー! 今からソウとメシ食いに行くとこ!」
リリカ「今から? ・・・ってもう14時じゃん!遅くない?」
レン「俺らにしたら良い時間なんだよな~? な、ソウ?」
ソウ「人が少ないからね」
リリカ「ソウの潔癖症って変わってるよねー! ”人”限定っていうの?」
ソウ「人が特にダメってだけで、吊り革もドアノブも消毒してからじゃないと触れないけどね」
リリカ「いつも大変だねー!」
レン「よし! じゃあ行くか!!」
  そうして僕たちはラーメン屋へ向かう

〇黒
  僕はまた嘘をついた

〇ラーメン屋のカウンター
ソウ「ごちそうさま!」
レン「やっぱり、ここのラーメンは最高だな!」
ソウ「本当にな! じゃあ夕方の講義行こうか」
  ドン!!
男性客「わ!すみません!」
レン「ソウ!大丈夫か!?」
ソウ「・・・人と・・・ぶつかってしまった」
ソウ「すみません・・・すみません・・・すみません」
レン「すみません! あ!こいつ潔癖症で・・・」
男性客「そうなのか!それはすまない・・・!」
  俺は常備していた除菌シートで男性客に触れた肩を何度も拭く
  店の外に出て呼吸を整え、死にたい気持ちになった

〇黒
  また、僕は嘘をついた

〇大教室
レン「ソウ、無理すんなよ?」
ソウ「・・・うん、ありがとうな」
  僕は講義なんて何1つ頭に入ってこなかった
  それどころではなかった
  ・・・きっとあの人はもう

〇黒
  また、僕は嘘をついた

〇シックなリビング
お母さん「ソウ、お帰り~!」
ソウ「ただいま」
  家に帰るとテレビから声が聞こえてきた
  「さて、次のニュースです」
  僕は心臓が苦しくなった
  「今日15時ごろ、工事現場の鉄骨が落ちる事故があり、2人が軽症、1人が死亡しました」
お母さん「あら、事故だって」
お母さん「・・・!ここってソウの大学の近くじゃない?」
ソウ「・・・そうだね」
  テレビ画面に映し出された死亡者は
  僕がラーメン屋でぶつかった人だった

〇黒
  今までもそうだった
  母の怪我を防げば、父が怪我をする
  友達の自殺を防げば、友達と仲が良かった友達が自殺をする
  ・・・そう
  僕は人に触れると未来が見えてしまうのだ
  でも未来を変えると、代わりに身近な人が被害に遭う
  だから僕は何もしない事に決めた
  今日、ラーメン屋で会った人が事故に巻き込まれるのも僕は分かっていた
  分かっていて何もしなかった
  きっとあの人を助けても別の人が死んでしまうだけだ
  こんな思いはもうたくさんだ
  僕は周囲に”潔癖症”と伝えて出来るだけ人に触れないようにしている

〇中庭
リリカ「ソウ!帰りにちょっと寄りたい所あるんだけど一緒に来てくれない?」
ソウ「うん、良いよ」
リリカ「ありがと!」
リリカ「久しぶりのデートだね♪」
  そう、僕とリリカは付き合っている

〇桜並木(提灯あり)
リリカ「私、ソウの事が好き! 付き合って欲しいです・・・!」
  とても嬉しかった
  僕もリリカの事が好きだったから
  でも僕はリリカに触れられない
  もし死ぬ未来が見えたらどうしたらいい?
  リリカを助けて、リリカの大切な人が死んでしまったら?
  リリカが死ぬか、リリカが一生苦しみ続けるか
  どちらにしても悲しい
ソウ「・・・嬉しいけど、僕は潔癖症だから付き合っても手を繋いだり出来ないよ?」
リリカ「それでも良い! 一緒に居られたら、それだけで良い!」
  その言葉に心を動かされて、付き合うことにした

〇シックなカフェ
リリカ「ここ来たかったんだー!」
  連れて来られたのはお洒落なカフェ
リリカ「珍しく完全個室があるカフェだから人に触れる心配もないと思うよ!」
ソウ「ありがとう」
  リリカのこういう所が好きだ
  相手の気持ちをちゃんと考えてくれる所

〇川に架かる橋
リリカ「美味しかったねー♪」
ソウ「うん、また色々なカフェ行ってみたいね!」
  ドン!
リリカ「きゃ!」
  リリカが人とぶつかり、車道へ転んでしまった
  タイミング悪く、トラックが猛スピードでこちらへ来る
  僕は思わずリリカの手を取ってしまった
リリカ「わ!・・・ありがとう」
ソウ「大丈夫?」
リリカ「ソウこそ大丈夫!? 顔色悪いよ?」
リリカ「あ、ごめん! 手が触れちゃったから・・・」
ソウ「いや、違うんだ」
  リリカが通り魔に刺される未来が見えた
  どうしたらいい?
  リリカの大切な人が刺されてしまうかもしれない
  でも、守りたい
  ・・・そうだ

〇ゆるやかな坂道
ソウ「今日は送るよ」
リリカ「いいの?嬉しい!」
  ぼくは辺りをキョロキョロと見回す
リリカ「どうしたの?」
ソウ「いや、何でもないよ」
  しばらく歩いていると後ろから足音が聞こえた
  手には刃物を持って
  狙いはリリカ
  僕はリリカ目掛けて振り下ろされた刃物を自分の背中で受けた
リリカ「ソウ!?」
ソウ「・・・ごめんね」
  男は満足したのか走り去って行った
  僕が刺されたら、きっとリリカの大切な人に代わりは起こらない
  これで良いんだ
  そして僕の意識は無くなった

〇病室のベッド
  僕を呼ぶ声がする
  目を開けると母とリリカが居た
  どうやら僕は助かったらしい

〇空
  それから僕は未来が全く見えなくなった
  潔癖症と偽る理由も無くなり、今では普通の生活をしている
  見えない事がこんなに幸せだと思わなかった

〇水族館前
  退院後、リリカとデートをした
  僕から手を繋ぐとリリカは目を丸くして驚いた

〇黒
  「今”見えた”ものって・・・なに?」

コメント

  • 初めに読者に想像させることと、彼の抱える秘密にかなりギャップを生むところから一気に読み込めました。まさか彼も自分がその当事者になり、その能力が相手にすり替えられるとは知らなかったでしょうね。

  • お話、ストーリーもテンポも、"嘘をついてしまった"に謎を残しつつ読み進めながら、真実がわかっていくのがとってもおもしろかったです。やっぱり世の中には見えない方がいいことってありますね。

  • ストーリーの展開がとても魅力的だと思いました。その才能をもったが為に、予測してしまう、何かが起こってしまう、、、最後はいい終わりでよかったです。

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