かしこいやつら

マタカシ

かしこいやつら(脚本)

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〇病院の診察室
医者「はい。今回も進行は見つかりませんでした」
医者「でも油断は禁物ですよ。今日もいつものお薬出しときますから、きちんと飲むように」
医者「薬さえきちんと飲んでおけば心配要りませんから。では、お大事に」

〇病院の診察室
  私はそう言って、患者の診察を終えた。
医者「やれやれ。なんて簡単な人生なんだ」
医者「適当に何か発病していることにして、必要のない薬を買わされていても誰も気づかない」
医者「まったく、いい商売だよ」
  気をよくしていると、診察室の扉がノックされ、看護師が来客を伝えた。
医者「あぁ彼か。今行くよ」

〇非常階段
医者「やぁ。またひとつよろしく頼むよ」
  私は税理士の男の胸ポケットに札束を突っ込んだ。
税理士「院長、いつもありがとうございます。税のことは私にお任せください」
  この悪事は、金の動きに細心の注意を払わなければいけない。
  異常な儲けが国にバレたら一巻の終わりだ。だから、私は税理士を雇った。
  もちろん彼には全てを伝えてある。金さえ渡せば仲間にするのは簡単だった。
  金を渡したらすぐに私は病室に戻る。我ながら、抜け目がなさすぎて怖いくらいだ・・・・・・。

〇非常階段
  俺は胸ポケットの札束の厚みを確認する。この感触がたまらなく好きだ。
税理士「はぁ、税理士は最高の仕事だな」
税理士「やつらは気づいてないだろう。俺が存在しない税の名目で、金を巻き上げていることに」
税理士「さて、頼んであったオーダーメイドスーツを引き取りに行くか」
  俺の仕事は一に信用、二に信用だ。
  身なりには特に気をつけている。
  俺は真っ白なスポーツカーに乗って、病院をあとにした。

〇試着室
紳士服店店主「お待ちしておりました」
紳士服店店主「仕上がったスーツのお引き取りですね」
税理士「あぁ。早く見せてくれ」
紳士服店店主「こちらです。今回はクラシックな風合いがご希望とのことでしたから、生地には特別に天然の・・・・・・」
税理士「うん、いいじゃないか。この手触りも最高だ」
税理士「良いものでつくらないとこうはならない。とても気に入ったよ」
紳士服店店主「ありがとうございます」
  俺はさきほど医者にもらった金で、さっと会計を済ませた。
税理士「ありがとう。明日は大事な相手だから、新調したこのスーツで向かうとするよ」
紳士服店店主「こちらこそありがとうございます。今後ともごひいきに」
  店長が店先まで出てきて、深々とお辞儀をする。
  それを背中に感じながら、俺は愛車に乗り込んだ。

〇試着室
  税理士の客が出ていくのを見届けると、私は店内に戻って一息ついた。
紳士服店店主「あぁ、なんていい商売なんだ。人の目はほんとうにあてにならない」
紳士服店店主「そこいらの安いスーツと同じ素材さ。おかけでうちは大儲けだ」
紳士服店店主「一度だってクレームがきたことはない。アホなやつらばっかりだ」

〇ジャズバー
  夜になり、店の営業を終えると、行きつけのビストロに向かった。
  私は特に食事に関しては人一倍気を遣っている。
  このビストロは、ずいぶん通っている店のひとつ。いわゆる常連客というやつだ。
ビストロ店主「いらっしゃいませ。今日はどうされますか?」
  この店の料理は食材がどれもこれも面白い。
  マスターが実際に現地で確かめて、気に入ったものだけを仕入れているそうだ。
紳士服店店主「いつものおまかせコースで頼むよ」
  しばらくして、一品目の料理が運ばれてくる
ビストロ店主「前菜の盛り合わせです」
ビストロ店主「一番左にあるのが、チーズ界のダイヤモンドと呼ばれるドイツのナチュラルチーズを、五年熟成の生ハムで巻いたもの」
ビストロ店主「その上に刻んだ地中海産のオリーブを・・・・・・」
  すべてが調和した、完璧な料理が続く。
ビストロ店主「これはA5ランクの黒毛和牛一頭からほんの数グラムしかとれない幻の・・・・・・」
  今夜も満足のコースだった。
ビストロ店主「どうでしたか?」
紳士服店店主「最高だったよ。世界中を旅した気分だ。さぁ、今日はそろそろ帰るとしようかな」
  値段を確認すると、いつもより少し高い気がした。
  だが、今日はあのスーツでたっぷりぼったくったからなんでもない。

〇ジャズバー
  常連の客が帰っていった。
  彼はいつもビシッと決まったスーツを着ている。
ビストロ店主「そういえば、前に話したときに紳士服店を営んでるとか言っていたか」
ビストロ店主「ファッションセンスについては確かに間違いないだろうが、舌に関してはどうだろう」
ビストロ店主「ウチに通っているということは、たいした味覚ではなさそうだ」
  だが、ああいったのがいてくれることで私の商売は成り立っている。
  料理に使っている世界の高級食材なんて真っ赤なウソだ。
  食材はどれも近くの大型スーパーで用意している。
ビストロ店主「まったく、楽な商売だ」
ビストロ店主「今日はたんまり金をかせぐことができたな」
ビストロ店主「明日は休みだから、久しぶりに外食でリフレッシュするとしよう」
  私はウチに来る常連客どもとは違う。私の舌は本当にいい味でなければ満足しないのだ。
  有名店はすべて行ったし、隠れた名店もたくさん知っている。
  そんな趣味もあるから、私は自身の健康管理を徹底している。
  案の定、いつだか医者にかかったときに病気が見つかってしまった。
  早期発見だったから、飲み薬だけで進行を抑えることができるらしい。
  明日は定期検診だ。薬はかかさず飲んでいるので、今回も心配ないだろう。
ビストロ店主「あぁ、最高の人生。世の中マヌケなやつらばかりでありがたい・・・・・・」

〇病院の診察室
医者「はい。今回も進行は見つかりませんでした」
医者「でも油断は禁物ですよ。今日もいつものお薬出しときますから。では、お大事に・・・・・・」

コメント

  • 各々自分が支配者気取りでも、結局は【カネ】という紙切れに支配されている図が、こういうわかりやすい文章でとてもよく表現されていると思います。

  • 自分の商売が上手くいくことはいいことだけど、人を騙してまでの儲け主義では、いずれ商売が出来なくなってしまう事にならないかな?

  • 資本主義社会、金持ちばかりが得をする時代ですが、経済を回すということは人と人との悪循環も生むのですね。とても考えさせられますね〜!面白かったです!

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