兄の秘密(脚本)
〇シックな玄関
玄関で靴を履いていると、階段を下りてくる音が聞こえる。
牡丹「兄ちゃん? こんな夜中にどこに行くの?」
振り向くと、弟の牡丹が眠そうにあくびをして立っていた。
しかしその頬にはガーゼが貼られている。
つつじ「ちょっと野暮用。明日も学校だろ?もう、十二時だから早く寝ろよ」
牡丹「それを言うなら、兄ちゃんも学校じゃん」
つつじ「俺は高校生だからいいんです~」
立ち上がり、牡丹の顔を見れば少し拗ねるような顔をしていた。
ガーゼの貼られた頬を優しく触る。
牡丹「今日は、兄ちゃんと寝ようと思ってたのに・・・・・・」
つつじ「ごめんな、明日なら一緒に寝れるから」
牡丹「仕方ないなぁ」
牡丹の頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
つつじ「それじゃあ、行ってくるわ」
牡丹「気を付けてね。行ってらっしゃい」
手を振って送り出してくれる牡丹に手を振り返して、外に出る。
〇一軒家の玄関扉
虫の声が聞こえ、見上げると星がキラキラ輝いており綺麗だった。
つつじ「さて、そろそろ行くか」
数十秒間、その星空を見上げた後着ていたパーカーのフードを被り歩き出す。
〇ネオン街
ネオンや看板が光る夜の街。
路地裏で、スマホをいじりながら俺はある人物を探していた。
十分経ったぐらいか、見た目からして不良だと分かる六人組が歩いてくる。
その中に、俺が探していた男がいた。
スマホをしまい、フードを深くかぶる。
路地裏から出て歩くと、向かい側から歩いてきた男の肩にぶつかる。
そして、腕を掴まれる。
不良「おいゴラァてめー!!」
つつじ「え、何ですか・・・・・・?」
不良「ぶつかっといて謝罪の一つも無いのか!?」
つつじ「・・・あ、すみません」
不良「はぁ? 舐めてんのか!?」
狙い通りに突っかかってきた男達に、笑いをこらえながら怯えている様子を演じる。
すると、掴まれたままの腕を引っ張られる。
不良「こっち来いや!!」
つつじ「ええ・・・」
不良「文句あんのか!?」
つつじ「な、ないですぅ!」
〇古い倉庫の中
手は離してもらいもらい、男たちについて行くと廃工場に辿り着いた。
廃工場の中にある積まれたコンテナの前まで連れていかれると、一人の不良がニヤニヤしながら詰めよって来る。
不良「なぁ、落とし前ってやっぱり大事だろ?」
つつじ「ま、まぁ・・・」
不良「俺たち今サンドバッグが欲しかったんだよな」
つまりは、俺にそのサンドバッグになれってことか。
他の男たちも気持ちの悪い笑みを浮かべて俺の方を見る。
嫌悪感や不快感を気づかれないように、目を開いた。
不良「目の前に立つ男が、手を振り上げる」
ドカッ!!
打撲音が一つ。廃工場内に響く。
男達は、笑うがすぐにその声は止む。
なぜなら、倒れたのは男たちの仲間。俺の前に立っていた男だからだ。
つつじ「・・・はー、疲れた。演じるのも楽じゃねーな」
不良「は? おいお前! いったい何をした!?」
つつじ「何をした? ただ殴っただけだけど?」
不良「てんめぇ!!」
その言葉と共に男たちが俺に襲い掛かって来る。
それを笑みを浮かべながら避けて、逆に拳と蹴りを食らわせる。
五分も経たずに、男たちは倒れる。
俺は、目的の男の前にしゃがみ込んで顔を覗き込む。
つつじ「ねーえ、ちょっと俺の質問に答えてくれない?」
不良「ひっひい・・・!!」
つつじ「そんなに怯えないでよ」
さっきまでの威勢はどうしたと笑いながら、男にスマホを見せる。
つつじ「なぁ、この男知っている?」
不良「え、あ多分見たことあります・・・」
つつじ「だよね~。じゃあもう一つ質問ね」
つつじ「俺の弟の顔に傷作ったのはお前?」
地を這うような低い声で質問すると、男は震える。
つつじ「震えてないで答えろよ。なぁ?」
立ち上がり、男の背を踏みつける。
汚い声があがる。
不良「は、はい! 俺がやりました!」
つつじ「だよなぁ~。なに人の可愛い弟に傷作ってんの?」
今日、学校から帰ってきた牡丹の頬は真っ赤に腫れ一目で殴られたということが分かった。
話を聞くと、俺がさっき男達にされたように絡まれて殴られたらしい。
一発殴られただけらしいが、可愛いただ一人の弟がどこの馬の骨かもわからない奴に傷つけられたというのは癪に障る。
つつじ「ってことで、お前ら有罪な。すぐに終わるからな」
ニコリと効果音が付きそうな、笑みを浮かべて男たちに言うと「ひっ!」と情けない声が聞こえる。
そして、一人がつぶやく。
不良「なんで、弟の為にそんなことが出来るんだ・・・」
つつじ「あ? そうだなー、生まれた時からずっと大切にしている弟が傷つけられるのは嫌だろ?」
つつじ「本当は、俺以外の奴に見られるのも嫌だけどな」
だから、俺は牡丹を傷つけたり悲しませたりするものを消してきた。
これだけは、絶対に知られてはいけない俺の唯一の秘密。
不良「狂っている・・・」
つつじ「褒め言葉ありがとう、じゃあさよなら」
ポケットからナイフを取り出して、そして・・・
弟さんにはどこまでが秘密なんだろうなぁと思いました。
強いところも秘密なのかな?と。
弟さんのためにがんばるお兄さんかっこいいです!
弱いとみせかけておいて強いって意外性があっていちばんかっこよいパターンで読んでてしびれました。普段弱い者いじめしている人たちは同じ気持ちを味わってほしい。お兄さん、弟への愛情が異様なまでに深くて、すこしそんな意味でも怪しさもあって、ひきこまれるストーリーでした。
ラストの絶妙な切り方に唸りました。全体の仄暗い雰囲気に、二人の名前だけ妙に鮮やかに感じられて、面白いです。設定とストーリーだけでなく全体的に魔術的な魅力がありました。