それでも明日へ

伊吹宗

それでも明日へ(脚本)

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〇空
  明日なんて来なければいい
  そう思ったことがある人はいるだろうか

〇川に架かる橋
  学校や仕事に行きたくないから
  大事な試験の結果を知りたくないから

〇渋谷のスクランブル交差点
  大好きな友人や恋人、家族と別れたくないから
  楽しい時間が終わってほしくないから

〇空
  様々な理由で、明日を迎えたくない、明日を迎えるのが怖いと考えている人は存在する
  私もそんな人たちのうちの一人で、明日がずっと・・・
  いや、一生来なければいいのにと思っていた──

〇病室のベッド
白川楓花「今日もいい天気だね、お母さん」
母「そうね。もうすぐ春が来て、あの桜の木も綺麗な花を咲かせるでしょうね」
  私はベッドに横たわり、点滴に繋がれている
  心臓に重い病気が見つかり、去年から入院しているのだ
白川楓花「そしたらお花見とか行きたいなあ」
母「ふふっ、それまでに退院できるといいわね」
白川楓花「私の体、かなり回復してきてるってお医者さんも言ってたし、きっと行けるよ!」
  私は知っている。それが叶わないことを
  なぜなら明日になれば、私は死んでしまうからだ
  明日の朝、急に状態が悪化して、私の心臓は停止する
  だから桜を見に行くなんて絶対にできない
  どうして知っているかって?
  それはもちろん体験したことがあるからだ

〇病室のベッド
  一番はじめは、不思議なことが起こったと思う程度だった
  昼にお母さんと桜の木が見たいと会話をした日の夜のこと
白川楓花「本当に私の病気、治るのかな・・・」
  入院した時に比べれば、たしかに体調はよくなった
  しかし、この病気を完全に治すには移植手術、ドナーの存在が必要だった
  医療技術が進歩したとはいえ、臓器移植が必要な治療はドナーが現れるかどうかにかかっている
  そんないつ現れるかもわからない人のことを考えながら
  明日には死んでしまうんじゃないかという恐怖に怯えながら
  ベッドの上で変わらない毎日を過ごしている
白川楓花「死にたくないなあ・・・寝るのが怖いよ・・・」
  ぎゅっと布団を抱きしめる
白川楓花「いつまでこんな怖い思いし続ければいいんだろう・・・」
  どんなにいやでも明日はやってきてしまう
  疲れるほど泣いてしまい、気が付くと眠りに落ちていた──

〇病室のベッド
白川楓花「あれ? お母さん、昨日もこの漫画持ってきてくれたよね?」
母「何言ってるの。これ、今日が発売日よ」
白川楓花「あれ、そうだっけ?」
母「楓花、この漫画大好きなのに、おかしなこと言うわね」
  最初はちょっとした違和感だった
  二日連続で同じ漫画を持ってきた母
  これくらいなら思い違いもあるだろうかと、その時は気にしていなかった

〇病室のベッド
白川楓花「やっぱりなにかおかしい・・・」
母「なにが?」
  母は三日連続で同じ漫画を持ってきた
白川楓花「今日ってこの漫画の発売日だっけ?」
母「そうよ? あなたが大好きな漫画でしょ?」
  やはり、母は昨日も同じ漫画を持ってきたことを覚えていない様子だ
  母は認知症や記憶障害も患っていない
  だから言っていることがおかしいなんてことはないはずだ
  おかしいとすれば──
白川楓花「もしかして、同じ時間を繰り返している?」

〇病室のベッド
  疑いが確信に変わるのに時間はかからなかった
  毎日のように同じ漫画を持ってくる母
  いつ日付を聞いても返ってくる答えは変わらない
白川楓花「やっぱり私、同じ時間を繰り返している・・・」
  気が付いたときは驚いた
  どうして同じ時間を繰り返しているのか、
  どうすれば繰り返しが終わるのか、様々な疑問が湧いた
  しかし──
白川楓花「でもこれで、いつまでも死なずにいられるんだ」
  驚きよりも喜びが勝った
  明日死んでしまうことを知っているからこそ、明日が永遠に訪れないというのはこの上なく喜ばしいことだ

〇空
  いつまでも生きていられる
  それがわかってから、毎日が楽しくなった

〇繁華な通り
  医者に無理を言って、一日だけ外に出させてもらったり
  美味しいものを食べたり、普段できなかったことをたくさんやった
  死を待つだけの退屈な日々とはおさらばだと、そう考えていた

〇病室のベッド
  母はいつも通り、私が大好きな漫画を持ってお見舞いに来た
白川楓花「今日もいい天気だね、お母さん」
母「そうね。もうすぐ春が来て、あの桜の木も綺麗な花を咲かせるでしょうね」
白川楓花「そしたらお花見とか行きたいなあ」
母「ふふっ、それまでに退院できるといいわね」
  このやりとりも、もう何度目だろうか
白川楓花「・・・お母さんってさ、明日は楽しみ?」
母「急にどうしたの?」
白川楓花「いいから」
母「明日? ・・・・・・うーん、そうね」
母「今日みたいに、こうしてあなたに会いに来て、楽しくお話できるからすごく楽しみ」
  もちろんそんな明日は来ない
  私は明日が来るのが怖いけれど、お母さんのように明日を楽しみにしている人もたくさんいる
  ・・・もしかしたら明日、私は病気が悪化しないで生きていられるかもしれない
白川楓花「お母さん、いつもありがとう」
母「あら、急にどうしたの」
白川楓花「いや、なんとなくお礼が言いたくなっただけ」
母「ふふっ、なにそれ」

〇空
  今を永遠に生きるのも悪くない
  それでも私は、大好きな母と一緒に未来に生きたい
  明日が来るのは怖いけれど、たとえわずかな可能性でもあるならば、私は明日が見たい
「明日も楽しみにしているからね!」

コメント

  • 実はもう楓花は死んでいて、あの世とこの世の狭間で永遠の一日を繰り返しているのかもしれない。本人の魂に踏ん切りがついて明日を望んだ時に本当の死が訪れるんじゃないか。読みながらふとそんなふうに思いました。

  • 彼女の強さがすごいと思いました。
    こんな状況だと、明日が来るのが怖そうだと…彼女も最初はそうだったですよね。
    でも、未来を見たくなった彼女はたしかに強い人です。

  • 明日が来るのが嫌な事は沢山ありますね。明日までの命と自分で感じてる人には苦しいでしょう。悲しいでしょう。でも明日が来るから人は一生懸命に生きてる。

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