イシュタムの手の上で踊る少女は死を望む。そして救済を求める

鴨酢

イシュタムの手の上で踊る少女は死を望む。そして救済を求める(脚本)

イシュタムの手の上で踊る少女は死を望む。そして救済を求める

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〇海
  晩夏の涼しい夜。
  私は勝浦海岸の波に身を投げる少女を見た。

〇海
  【少女】
  ......
  【少女】
  ......

〇水中
  その少女はどこか儚く、このまま溶けて消えてしまいそうだった
  彼女は荒波に攫われ、ついに見えなくなった。

〇海辺
  【私】
  もう”二度”あんなこと....
  白波の立つひんやりとした海に飛び込んだ。

〇水中
  既に彼女は深くへ沈み、姿も見えなくなっている。
  【私】
  どこだ!?
  どこにいるかも分からない彼女のもとへ向かう。
  それは彼女のためではないと知っている。
  そう。
  自分自身の償いのために。
  そして過去への懺悔のために。

〇水中
  【私】
  そこか!
  沈んでゆく彼女に私は手を差し伸べた。
  分かっているんだ。
  この手が届けば彼女の選択を否定することになる。
  それでも....私は。

〇海
  【私】
  ぷはっ!!
  息が切れ、勢いよく水面に上がった。
  私の手には、白く冷え切った少女の手が握られていた。

〇海辺
  彼女を浜まで引き上げ、ベンチに寝かした。
  少女の意識は無く、今はただ安らかに眠っているかのようだった。
  体を冷やさぬよう、濡れた服を脱がそうとした。
  【私】
  こんなところ誰かに見られたらひとたまりもないな
  少々恥ずかしさを感じつつ、目を逸らしながら制服のボタンを外した。

〇海
  彼女に羽織をかけ、やっとひと段落つくことができた。
  これまでの緊張が解けたのか、力が抜けたように砂浜に座りこんでしまった。
  【私】
  "今度こそ"....助けられた
  これこそが私の望んだ結末。
  彼女の選択を犠牲として自己満足をしているだけなのかもしれない。
  【私】
  それでも....

〇海
  その瞬間ひどい目まいがした。
  そしてその場に倒れこんでしまった。

〇古風な和室
  【私】
  !!
  目覚めるとそこは見知らぬ和室だった。
  開かれた障子からは勝浦の海が見え、最高のロケーションと言ったところだ。
  【???】
  おはようございます
  【私】
  うわぁ!
  突然のお声掛けに驚き、転げそうになってしまった。
  【???】
  元気そうで何よりです
  それは私の驚きざまを見てか。皮肉めいた言葉をかけてきた。
  改めて声主を見ると....。
  【私】
  君は....昨日の
  【???】
  ......
  彼女は黙って湯呑の乗った盆を布団の横に置き、礼儀正しく座った。
  【私】
  ごほっ....まぁいいか
  【私】
  君の名前は?
  【???】
  立波....いろはです
  【私】
  素敵な名前だね
  【いろは】
  お世辞は....やめてください
  【私】
  お世辞なんかじゃないさ
  【私】
  君に良く似合った名前だね
  タツナミソウ。彼女の苗字にはこの花の名前が使われている。
  花言葉は....「私の命を捧げます」
  まさに彼女にぴったりな過激な花言葉だ。
  しかし彼女に命を捧げる相手はいたのだろうか。

〇古風な和室
  【いろは】
  はぁ....
  彼女はどっと重い溜息をつき、質問をしてきた。
  【いろは】
  どうして....助けたんですか?
  【私】
  ......
  【私】
  自〇しようとしている人を見捨てるなんてできないだろ?
  私は偽りの言葉を伝えた。
  そう、偽り。
  本当は過去から解放されたいだけ、許してもらいたいだけ。
  【いろは】
  そう....
  彼女は見透かしているかのような口調で返事した。
  【私】
  じゃあ君は何故死にたかったのかな
  私が一番気になっていたこと。
  何が彼女をあそこまで追い込んだのか。今はただそれが知りたかった。
  【いろは】
  きっとあなたと同じ
  彼女の表情は変わらず、こちらから目線が外れることはない。
  その静寂が本当に辛かった。
  【私】
  すまない....
  彼女は静かにほほ笑んだ。
  だが彼女が話すことはない。
  【私】
  ......
  【私】
  君が辛いのは分かる! だから! だから....私に君を救わせてくれないか....
  あの日のやり直しがしたい。そう、あの人を救えなかったあの日の....。
  【いろは】
  ......
  【いろは】
  もういいんだよ
  どこかで聞いた声だ。ずっと隣にいたはずの誰か。
  その声はとても優しく、私を包み込んだ。
  【私】
  いろ....は?
  【???】
  私はもう現実にはいない
  【???】
  だからいいの。もう夢は終わったんだよ
  全てを思い出した。彼女は立波いろはでは無い、ずっと求めていたあの人であった。
  【私】
  そうか。そうだったね。
  私の恋人、丹部谷陽菜はもういない。あの日、彼女自らの手で、私の目の前から消えてしまったから。
  だからもう、終わりにしよう。
  私の瞳の住人、丹部谷陽菜の夢を見るのは。
  【私】
  ありがとう

〇海辺
  彼女は最後に時間をくれた。私がもう一度立ち上がれるように、また誰かを愛せるように。
  私に取り憑いた瞳の住人よ。
  ここでお別れだ。
  私の秘密はここに置いていこう。
  あなたを寂しくならないように。

コメント

  • 独特な文章で綴られた、不思議なお話でした。
    あの海で死を選んだ彼女を助けたのは、自らの贖罪だったんですね。
    でも、もうそこから解放される時がきたのだと思います。

  • 過去に囚われていた自身からの解放の瞬間が圧巻でした。そして彼が夢みている情景を一緒に感じることができるほど引き込まれました。

  • ストーリーがとてもよくできていると思いました。みんなの心情が様々視点で書かれれてあり、気づけば感情移入していました。終わりもよかったです。

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