上手にできなかった私達

沖田ミツヲ

死ぬまで秘密にしようと思う。(脚本)

上手にできなかった私達

沖田ミツヲ

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〇黒背景
  元々、出来のいい人間じゃなかった。
  それでも一生懸命に努力してきた
  つもりだった。
  成績の為に生徒会長を務め、
  やりたい事を捨てて、ただ将来の為に
  勉強に励み
  良い大学に入って、良い会社に入る為
  ひたすら努力をしていた。
  だけど・・・
  ・・・・・・。
  ・・・ごめんなさい。母さん、父さん。

〇二階建てアパート
  おい!大丈夫かー!
  中にまだ人はいるのか!?
  救急車!消防車!早く!!

〇古いアパートの部屋
  ・・・・・・。
  息が・・・苦しい・・・
  そうか・・・私、やっと・・・
  バギィ!!
  バキバキッ!!バギィ!!!
シュウ「ハァッ・・・ハァッ・・・」
シュウ「・・・クッ! ・・・ゲホッ・・・!!」
  ・・・・・・誰?
  部屋に・・・人・・・
  そんな・・・
  なんで・・・
  上手くいかないんだろう・・・
シュウ「グッ・・・ゲホッ・・・ これは・・・ クソッ・・・・・・!」
  おーい!!
  他に誰かいないか!!
  ・・・!!
  居ました!!住人がいました!!

〇結婚式場のレストラン
  数年後・・・・・・
  ──そのような事があり、
  その後、退院されたユカ様とシュウ様は
  お付き合いを始められました。

〇結婚式場のレストラン
  ──それでは、改めまして
  新郎新婦のご入場です。
  皆様拍手でお迎えください。

〇明るいリビング
ユカ「へへへ・・・」
シュウ「最近の結婚式の映像って、 こんな、綺麗に撮ってくれるんだな」
シュウ「ユカ」
ユカ「・・・なに?」
シュウ「その、可愛かったよ」
ユカ「今は可愛くないってこと?」
シュウ「えっ!?あ! いや、別にそういうわけじゃなくて!!」
シュウ「今ももちろん 可愛いよ!」
ユカ「へへへ、わかってるよ。 ありがとう」
ユカ「シュウのおかげで・・・」
ユカ「今の私があるんだから!」
シュウ「ユカ・・・」
シュウ「・・・それは、俺もだよ」
ユカ「シュウ・・・」

〇明るいリビング
  そう・・・・・・
  この人のおかげで今の私がある。
  だから私は、
  死ぬまで秘密にしておかなければならない。
  あの時、私は──

〇古いアパートの部屋
  あの時、私は
  アパートの一室で一人・・・・・・
  ・・・・・・
  自殺しようとしていた。
  梱包用の荷造り紐でロープを作り、
  梁にかけて一人で
  ・・・・・・死ぬつもりだった

〇古いアパートの部屋
  気がつくと、焦げた臭いが
  辺りを立ち込めていた。
  そして、呼吸が苦しくなり
  少しだけ目を開けた。
  私は部屋の真ん中で横たわっていた。
  ああ、切れちゃったんだ、ロープ。
  私はどうやら
  死ぬのも上手ではなかったようだ。
  そして、薄れゆく意識の中
  あの人と目が合った。
シュウ「ハァッ・・・ハァッ・・・」
  彼は何度か咳き込み
  そして・・・
  ・・・い!!
  ・・・誰か・・・いか!!
  ・・・!!
  ・・・た!!住人・・・た!!

〇病院の廊下
  目を覚ました時、
  私は病院のベッドにいた。
  目を覚ました私に気づいた父と母が
  泣きながら私を抱きしめた。
  ”生きててよかった”
  何度も何度もそう言って私を抱きしめた。
  幸いにも後遺症や怪我もなく、
  数日で退院できるとのことであった。
  翌日、看護師からある事を聞かされた。
  火事の夜、私の部屋の玄関を壊して、
  隣の部屋の男性が助けに来たと。
  そして、その男の人が・・・・・・
  同じ病院に入院しているという事を。

〇明るいリビング
  程なくして、
  私達は付き合い始めた。
  そして、一年付き合ってから
  先日、結婚した。
  火災のあったアパートは全焼し、
  私が書いた遺書も、
  紐も全て燃えてしまったようだった。
  あの時、私が死のうとしていた事なんて
  誰も知らない・・・かもしれない
  ひょっとしたらシュウは・・・
  彼は梁に残った紐を
  見たかもしれない。
  でも、自分からその話を
  わざわざしようとは思わない。
  彼も気を遣っているのか
  あの時の事を聞いてこない。
  あの時、私が死のうとしていた事は・・・
  死ぬまで秘密にしようと思う。
  だって、せっかく助けに来てくれた彼を
  ガッカリさせたくはないから。

〇黒背景
  ・・・・・・。
  ・・・あの時、私は──

〇古いアパートの部屋
  あの時、私は・・・
  仕事をクビになり、家賃も払えず
  何もかもが嫌になって・・・
  アパートの奥のゴミ山に火をつけた
  人気のない深夜。
  アパートの端から静かに燃える炎を見て
  俺は咄嗟に・・・
  火事場泥棒を思いついた。
  端から順々に、
  火の手が上がっていると言い
  玄関を開けさせ、住人を逃している間に
  金品を物色する算段だった。
  しかし、木造の古いアパート。
  住人も金持ちなんかじゃない。
  金になりそうなものもなく、
  挙句、古いアパートは俺の想像する以上の
  スピードで燃えていった。
  考えてみれば当たり前だ。
  仕事もロクにできない奴に
  上手く犯罪ができるわけもない。
  ああ、俺は悪いことも
  上手くできないのか。
  そう思ながら最後の部屋の扉を
  こじ開けた時、部屋に横たわってる
  彼女を見つけた。
  その瞬間
  ”俺のせいで死にかけている”
  という事実が頭をよぎった。
  怖くなった・・・逃げ出したかった。
  そして俺は火事の煙を吸いすぎて・・・。
  ・・・・・・!!
  ・・・・・・・・・!!
  ・・・!!
  ・・・!!・・・!!

〇明るいリビング
  私は今、罪滅ぼしも兼ねて
  ユカと一緒にいるのかもしれない。
  もちろん私は彼女を愛しているが、
  全ての真実をユカが知ったらと思うと。
  私は・・・この事実を、
  死ぬまで秘密にしようと思う。
  彼女の為なのか、
  それとも自分の為なのか
  今の私には、もうわからない。

コメント

  • 前半を読んでいて「やっぱりそうだったんだ…」と思ってましたが、後半読んで「え!?」ってなりました!
    まさかそんな理由でアパートにいたとは…怖ろしい話でした。

  • うまくできなかったことで今があるなら、それすらも神様の計画のひとつだったのかもしれない。真実を隠しながら生きていくことが、罪滅ぼしになるなら、この2人には幸せであってほしい。

  • 誰しも秘密のひとつやふたつ、もっていると思います。それこそ、配偶者にも言えない秘密を抱えているなんて、珍しいことではないけもしれません。このふたりの秘密はそれぞれ、お互いに知られたくない種類のものだとは思いますが、同時にふたりが運命をともにするための秘密でもあります。そう考えるととてもロマンチックに思えてきます。秘密を抱えることで、相手を思いやれることもあると思います。ぜひふたりには幸せになってほ

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