彼と私のルサンチマン

白貝ルカ

それが愛さ(脚本)

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〇空
守山 大成「僕は一体何しているのだろうか?」
  彼女と別れた後、僕は夕闇に染まりつつある空を見上げて呟いた。
  僕は彼女に何を求めているのだろうか。
守山 大成「愛?」
  だから、それは一体何なんだ。

〇テーブル席
小山田 加奈「聞いたよ。 会社やめるんだって? まさか寿退社じゃないでしょうね」
七瀬 星奈「違うよ。 ちょっと私も夢を追おうかと思って」
小山田 加奈「夢? へぇー、意外。 あんたも夢を持つんだ」
七瀬 星奈「それどういう意味?」
小山田 加奈「星奈ってさ。 基本的に死んだ魚のような目をして、世の中に興味ないですよぉーってスタンスで生きてない?」
七瀬 星奈「基本的にはね」
小山田 加奈「でしょ? 夢が出来るなんて良いことじゃない。 何?男絡み?」
  私は何も返さない。正確には返せない。
  ある意味それは図星だったから。
小山田 加奈「何?ほんとに男なの?」
  加奈の手から滑り落ちたフォークが皿を鳴らす。
  そのまま床にポトリ。
ウェイター「お客様大丈夫ですか?」
小山田 加奈「えっ?駄目かも。 いや、大丈夫です」
  ウェイターが持ってきた新品のフォークを私に突きつける。
小山田 加奈「どういうことか説明しなさいよ。 この泥棒猫」
七瀬 星奈「何も盗んでないって」
  私は加奈に話の成り行きを掻い摘んで説明する。
  彼女は時折、おでこをトントン突きながらも私の話を黙って聞いた。
小山田 加奈「その男大丈夫? 大分、思想が歪んでると思うけど」
七瀬 星奈「私もそう思うよ。 でも、何だか彼の夢の実現のために付き合ってれば、私の価値ってものが見えてくるんじゃないかと思ってさ」
小山田 加奈「価値ねぇー」
七瀬 星奈「それでさ。 加奈なら分かるかもしれないから、教えて。 愛って何?」
小山田 加奈「あんたは思考がヤバそうね」
  加奈はコメカミを抑えて項垂れる。
小山田 加奈「今日夜開いてる?」
七瀬 星奈「別に予定はないけど」
小山田 加奈「よし。飲みに行くぞ」
七瀬 星奈「えっ、給料日前だよ」
小山田 加奈「そんなもん関係ないわよ。 愛って何か知りたいんでしょ」
七瀬 星奈「知りたいけど、それとこれがどういう繋がりがあるの」
小山田 加奈「繋がり?そんなもの無いわよ! 飲みたいから飲むのよ」
七瀬 星奈「加奈もなかなか頭が・・・」
小山田 加奈「何?」
七瀬 星奈「何でもないです」

〇大衆居酒屋
小山田 加奈「それでさぁー、あのぉー整体師ぃー何ていったと思うぅ」
七瀬 星奈「さぁー分からないけど」
小山田 加奈「仕事中なので、指を外してますが、私先月結婚しました。 ドヤっ、て言ったのよぉ。 有り得なくなぁい?」
七瀬 星奈「あり得なくはないかな? でも、不倫されるよりはましでしょ?」
小山田 加奈「なぁに? 私はぁ、遊び相手すらなれないてぇか?」
七瀬 星奈「言ってないし。 加奈は不倫されたかったの?」
小山田 加奈「不倫、いや」
七瀬 星奈「だったら、遊ばれる前に断られて良かったじゃない」
小山田 加奈「それわーそうなんだけどぉー」
  嫌な予感は既にしていたのだ。
  給料日前に誘ってくる辺り、おかしかったのだ
小山田 加奈「それでぇー今日の私をぉ見てぇ、愛ってなんだか理解したかぁ。 君はぁ」
七瀬 星奈「今日の加奈?」
  机に突っ伏して、上目遣い。
  きっとこの後は看病をしながら、家まで送り届けるのだろう。
七瀬 星奈「めんどくさい」
小山田 加奈「そう、愛ってめんどくさいものなのよ。 分かったかぁ?」
七瀬 星奈「分かったような?分からないような?」
小山田 加奈「だーかーらー、アンタはダメなのよ。 ビールをもう一杯」
七瀬 星奈「加奈飲み過ぎじゃ・・・」
小山田 加奈「もう一杯!!」
  『なるほど、これが愛か』

〇個別オフィス
七瀬 星奈「というわけで愛とはめんどくさいものなのよ」
  私は社長室に詰めかけて、彼に対して熱弁をふるう。
  間違っているような気もするが、何が間違っているのか私にはわからない。
守山 大成「なるほど。 めんどくさいか」
  そして、彼も分かりはしない。
守山 大成「めんどくさいをプログラム的に表現するのは難しいな。 具体的にはどうすればいい?」
七瀬 星奈「えっと、お酒って飲みますか?」
守山 大成「嗜む程度だけど」
七瀬 星奈「じゃーベロンベロンに酔っ払ったことってないですよね。 そもそもあの世界って居酒屋ってあるんですか?」
守山 大成「あるよ。 でも所詮は仮想の世界だから高揚感はあっても千鳥足になる、とか気持ち悪い、とかはないかな」
七瀬 星奈「それです。 それを実装しましょう」
守山 大成「いるかな? その機能」
七瀬 星奈「いりますよ。 私が学んだめんどくさいはつまりはそういうことなんです」
  彼は腕を組んで静かに唸る。
  何かを懸命に考えているのだろう。
守山 大成「今週の金曜日の夜、時間空いてるかな?」
七瀬 星奈「空いてるけど。 何かするの?」
守山 大成「酒を飲みに行こう。 ベロンベロンになるまで」
七瀬 星奈「実地調査ですね」
守山 大成「そういうことさ」
七瀬 星奈「よし。 飲み明かしましょう」
  私はパチンと手を叩いて彼の提案を受け入れた。

〇公園通り
  その週の金曜日。
  私は彼に指定された場所に向かう。
七瀬 星奈「ここで合ってるのか?」
  スマホを片手に見上げた暗闇には空に向かって伸びる巨大なホテル。
七瀬 星奈「セントラルワールドホテルか」
  スマホの地図もそこを指し示している。
七瀬 星奈「しかも、三ツ星」
  私は頭を掻く。
七瀬 星奈「居酒屋じゃないよね。これ。 ドレスコードとか大丈夫かな」

〇ホテルのエントランス
  ふわふわのカーペット、広々としたエントランス。
  あからさまに場違いな萎れたビジネススーツの私。
七瀬 星奈「居心地悪い。 早く彼来ないかしら」
  忙しなく働き続けるホテルマンを横目に、私は目立たぬように存在を消して彼を待つ。
ホテルマン「お待ちしておりました。涼宮様」
  フロントに一人のお客がチェックインをしている。
  何となくその様子を眺める。
涼宮健介「ルームサービスって何時まで?」
ホテルマン「21時までにこちらの電話番号にお電話ください。 メニューはお部屋にご用意があります」
涼宮健介「ふーん。了解」
  男は腕時計を見る。
ホテルマン「お部屋は30階になります。 どうか心ゆくまでお寛ぎください」
涼宮健介「どうも」
  男はルームキーを手に取ってエレベーターホールに消えていった。
守山 大成「何?知り合い?」
七瀬 星奈「ううん。全然知らない人。たぶん」
守山 大成「たぶんってなんだよ」
七瀬 星奈「ぼんやり見てただけだし、顔もはっきりと見たわけじゃないから」
守山 大成「知り合いの可能性も否定出来ないって? まぁ、気にしてもしょうがない。 行こうぜ」
七瀬 星奈「うん」
  私たちはエスカレータに乗り込んで最上階まで登っていく。
  そこに拡がっているのは、赤ちょうちんがぶら下がっている大衆居酒屋であるはずもなく。

〇ホテルのレストラン
守山 大成「ん。どうした?」
七瀬 星奈「いや、なんでもない」
  借りて来た猫になった私がいた。
守山 大成「どうする最初はビール? それともいきなりワインにする? ワイン苦手じゃないよね」
七瀬 星奈「苦手じゃないけど」
  「この空間が苦手です。」
  とも言えず、背筋を伸ばして耐え忍ぶ。
  彼が卓上のベルを鳴らしてウェイトレスを呼んぶ。
  メニューを開きつつ、その驚愕な数字に臆することなく注文を重ねていく。
七瀬 星奈「いや、それくらいで」
守山 大成「何言ってるんだよ。 今日はベロンベロンになるまで酔っ払うんだろ。 こんなじゃ足りないぜ」
  ああ、なるほど。
七瀬 星奈(世の中にはいろんなめんどくさいがあるんだなぁ)
守山 大成「なんか言った?」
七瀬 星奈「なんも」
守山 大成「そっか。 あっ、後こっちのワインも追加で」

〇空
  次の日の私たちは使い者にならなかった。
  そして、システムにじは泥酔と二日酔いが追加された。

次のエピソード:彼女ライバル?何の?

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