彼女ライバル?何の?(脚本)
〇オフィスビル前の道
株式会社アストロワールド
彼の会社で働くことになった。
会社が変わっただけで業務内容は変わり映えはしない。でも別に良い
だって今は働くことに意味が持てるから
〇個別オフィス
七瀬 星奈「社長、この一週間の業務進捗をまとめた資料になりまっ・・・す?」
杉田 小夏「ねぇー、社長。犬欲しい。 足が短いやつ。 ダックスフント?いや、パグみたいなちょいキモカワな犬も好きかも」
杉田 小夏「ほら、これ見て、これ超可愛いでしょ」
守山 大成「ああ、七瀬さん。 資料はその棚に入れといて、後で目を通しておくから」
杉田 小夏「社長ぉー。そんな地味女のこといいですから、今は犬ですよ。 犬。ほら、これ見てください」
杉田 小夏「昨日ペットショップで下見して来たんですけど、この子とか可愛くないですか。 モサモサしてて」
守山 大成「まぁ、犬だから毛ぐらいは生えてるよね」
杉田 小夏「そういう意味じゃないですよ。社長」
私と年齢は近い?でも、今時な化粧の力でよく分からない。
社長の恋人?
社長ってこんな子がタイプなのだろうか。
杉田 小夏「なぁに、こっち見てんだ」
守山 大成「こら。 七瀬さんに悪態つくな」
杉田 小夏「だってー、社長ぉー。 この地味女、小夏のこと睨んでくるんですよぉー」
守山 大成「はいはい。分かったから。 七瀬さんの要件は済んだかな?」
七瀬 星奈「はい」
私に帰って欲しいのだろう
七瀬 星奈「失礼しました」
私は頭を下げて社長室を後にした。
〇オフィスの廊下
七瀬 星奈「あの子、どこかで見たことあるような?」
〇個別オフィス
杉田 小夏「社長。今の誰? この会社の女なら大抵知ってるはずなんだけど」
守山 大成「ああ、今月からウチで働くことになった七瀬星奈さんだよ」
杉田 小夏「ふーん。 社長ってあんな地味な女が趣味なんですか」
守山 大成「趣味? 言ってる意味がよく分からないけど、良い人だよ」
杉田 小夏「良い人ねぇー。 ねぇ、ねぇ社長。 私とあの女とならどっちがタイプですぅ?」
守山 大成「タイプ?どっちも良い人」
杉田 小夏「そういうことじゃないです」
〇オフィスの廊下
私は戻りの廊下を歩きながら思う
七瀬 星奈「あの子誰だったけなぁー」
何故か胸がソワソワしている。
どこかで会ったというよりもどこかで見たような。
七瀬 星奈「あーっ!! あの時の整形美人」
思い出した。
数ヶ月前ぼんやり見ていたテレビの女性だ。
七瀬 星奈「でも何でこの会社にいるんだろう。 社長の親戚?いやいや、ないか」
〇個別オフィス
杉田 小夏「無理。むーり」
業務後、社長室に呼び出された。
守山 大成「いや、そこを何とか頼むよ」
杉田 小夏「いくら社長の頼みごとでもウチがやりたくないことは死んでもやりませんよ」
社長室のフワフワのソファに座り頬を膨らませている小夏がいる。
その前には手を合わせて頼み込む社長。
七瀬 星奈「何かあったんですか?」
杉田 小夏「うっわ。また出た。地味女」
七瀬 星奈「地、地味?」
杉田 小夏「そうでしょ。アンタ、自分に花があるとでも思ってるの? 鏡見なさいよ。地味女」
まー、確かにそうか。
花があるとは端っから思ってはいない。
七瀬 星奈「それで社長。何かあったんですか?」
守山 大成「えっとね」
杉田 小夏「無視すんなや」
七瀬 星奈「あっそうですね。挨拶を忘れていました。 初めまして私は七瀬星奈って言います」
杉田 小夏「いや、これはご丁寧に。 私は杉田小夏って・・・ そういう意味じゃない」
守山 大成「いや、実はね。小夏は・・・」
杉田 小夏「お前も話を進めようとすんな」
守山 大成「なんで?」
杉田 小夏「いや、なんでって。マジレス・・・ はぁ、もういいわ」
ポカンと頭にはてなを浮かべる社長と私。
賑やかな人だなぁ。
守山 大成「コホン。 改めてこの子はは杉田小夏。 我が社の看板娘だ」
七瀬 星奈「看板娘?」
守山 大成「一応彼女は我が社の広報部の社員でね。 我が社のVRシステムの広告塔になって貰っているんだ」
七瀬 星奈「広報部?でも、この前テレビに出てましたよね。 整形美人特集で」
守山 大成「ウチの広報部は芸能マネジメントも兼ねているからね」
七瀬 星奈「芸能事務所でもあると?」
守山 大成「そこまでいかないけど、戦力として芸能に興味がある人も集めているんだ。 人気インフルエンサーとも積極的に契約している」
七瀬 星奈「へぇー、知らなかった」
守山 大成「言ってなかったしね」
私と社長はお互いの顔を見て笑った。
七瀬 星奈「それで何を揉めてたんです?」
守山 大成「それで現在絶賛売り出し中の小夏なんだけど、ついにドラマの依頼が来てね」
七瀬 星奈「へぇー、凄いじゃないですか」
守山 大成「でも、小夏がやりたくないって聞かないんだ」
私は彼女を見た。
頬を膨らませてそっぽを向いている。
七瀬 星奈「どうしてです?」
守山 大成「それを僕に聞いてもね。小夏、どうして?」
彼女は更に頬を膨らませる。
杉田 小夏「なんかムカつく」
守山 大成「何をムカつくことがあるんだ。ドラマ。 我が社の宣伝効果も高いし、良い話じゃないか」
杉田 小夏「そっちじゃなくて」
七瀬 星奈「そっち?どっち?」
守山 大成「さぁー?」
杉田 小夏「ムカつく。ああ、もうムカつく。私帰る」
守山 大成「おい。まだ、話してる最中。っていっちゃったか」
私は彼女が座っていたソファに腰を掛ける。まだ、彼女の温もりが残っている。
七瀬 星奈「何も話を聞いてないんですか?」
守山 大成「聞いてないよ。 でも、何となく拒む理由も分かるんだ」
社長はそういって頭を掻いた。
守山 大成「今は整形もして自分に自信をもってくれているけど、彼女もまた昔は僕たちと一緒の日陰者だったんだ」
七瀬 星奈「へぇ、意外ですね。 でも、それとドラマが関係あるんですか」
社長は分厚い冊子を机に置いた。
それはドラマの台本だった。
七瀬 星奈「『愛の脱出日記帳?』」
守山 大成「それドラマのタイトルね」
七瀬 星奈「どんなドラマなんですか?」
守山 大成「学園もので、学校中で大人気でカースト上位の女学生が一人のブ男に恋をして、カーストの下位に転落する。みたいな話」
七瀬 星奈「それで彼女の役柄は?」
守山 大成「ヒロインだよ。 ブ男に恋をするカースト上位の女子」
七瀬 星奈「主役ですか。 凄いことじゃないですか。 断る理由はないような」
守山 大成「言ったでしょ。 彼女もまた僕たちと同じだって」
七瀬 星奈「あっ、そういうことですか」
彼女も日陰者。
このヒロインのように彼女もまた虐めを受けていたのだろう。
守山 大成「僕としてはぜひ受けて貰いたいんだけどね」
七瀬 星奈「恋ですか」
守山 大成「そう。ドラマの役柄で恋をするというのがどういうことなのか理解してほしいと思ってる。 共有してもらえれば僕の世界も広がる」
守山 大成「でも、彼女の気持ちもわかるんだ。 僕たちは同族だからね。 無理強いもしたくない。 彼女の前向きな姿勢に賭けるしかないね」
七瀬 星奈「彼女がどこにいるか分かりますか?」
守山 大成「多分、トイレだと思うよ。 落ち込んだり、悩んだりした時はいつもそうだから」
七瀬 星奈「ちょっと行ってきます」
〇女子トイレ
この会社にトイレは数か所あるが、彼女がいる場所は推測が付いた。
学生時代、職員室前のトイレが不人気だったように、彼女もまたあまり人がいないトイレを選ぶだろうと推測できた
コンコンッ
杉田 小夏「入ってます」
彼女の声だ。
七瀬 星奈「ドラマでないんですか?」
杉田 小夏「ゲッ、地味女。 良くここが分かったね」
七瀬 星奈「私も同族なので」
杉田 小夏「なるほど、通りで社長と親しくしているわけね。 地味女は社長を狙っているの?」
七瀬 星奈「えっ、あっ、へっ、別に私は旧知の友人として仲良くしてるだけ」
杉田 小夏「ふーん。そうだよね。 あの社長に限りこんな地味女に興味があるわけないよね。 それで社長は何か言ってた?」
七瀬 星奈「折角のチャンスだから、ドラマに出てほしいと」
杉田 小夏「そっか」
七瀬 星奈「ドラマに出たら犬買ってくれるかもしれませんよ?」
杉田 小夏「犬?さては盗み聞きしてたな。地味女」
七瀬 星奈「犬だけじゃなく、ご褒美をくれるかも」
杉田 小夏「ご褒美?ご褒美」
杉田 小夏「そうね。それいいね。 じゃ、こうしようかな。 ご褒美として社長とデートしてもらおうかな」
七瀬 星奈「えっ?でも、彼氏がいるんじゃ?」
杉田 小夏「彼氏?ああ、テレビではそいうことにしてるの」
杉田 小夏「ウチも恋愛なんて知らないし。 でも、社長とのデートで何か見えてくるかもしれない。 社長だって恋したいわけだし」
七瀬 星奈「違う。それは違う」
急に胸の鼓動が強くなった。なんで。どうして?
杉田 小夏「違う?違わないわ」
勢い良くトイレのドアが開く。
そこにはすっきりとした顔付きの彼女が立っていた。