リアルに恋はいたしません

うさぎのしっぽ

本編(脚本)

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〇コンサート会場
HARUCA「今日も会いに来てくれてありがとう」
HARUCA「おまえたち、愛してるぜ──!!」
HARUCA「盛り上がっていくぞぉ──」
HARUCA「俺たちに最後までついて来いよ──!?」
  煌めくペンライトの波
  響き渡る歓声
  彼から発せられる言葉ひとつひとつに、その場は寸分乱れぬ反応を示す
莉乃「はあぁぁぁぁ・・・ 今日も推しが尊い」
莉乃「もはや神が創り上げし芸術いやもう存在自体が神!!」
  3人組アイドルグループ
  『BLACK KNIGHT』
  抜群のルックスと歌唱力、ダイナミックなダンスで、今人気急上昇中のユニットだ
  メンバーはそれぞれ個性的で魅力があるけど、中でもわたしの推しは──
莉乃「はああぁぁぁHARUCAぁぁぁぁぁぁぁぁ」
莉乃「うぐぅ 推しが眩しくて涙出るぅ」
HARUCA「今日のおまえらも最高に可愛いぜー!」
莉乃「はうっ!」
HARUCA「明日も明後日もその先もずっと、俺たち両想いだよな」
莉乃「うきゅぅっ!」
HARUCA「俺の愛は、まだまだこんなんじゃ足りないから、覚悟しとけよっ!」
莉乃「ふぐぉっ!」
HARUCA「よそ見なんかする暇もないくらい、俺たちに釘づけにしてやるよっ!」
莉乃「んぬあぁぁぁぁぁぁ──」
莉乃「無理無理無理無理限界限界もうげんかぁぁぁぁぁぁぁい!」
莉乃「今日も推しが世界で一番尊い!」
莉乃「ありがとうせかぁぁぁい!!」

「うるっせえんだよ!」
「毎日毎日・・・」
「いい加減にしろっ このアイドルオタク!!」

〇可愛い部屋
  不躾な罵声とともに、蹴破られる勢いでドアが開いた
  はっと現実に引き戻された直後、今までテレビに映っていたHARUCAが姿を消す
  ブラックアウトした画面にペンライトを持った自分と乱入者の姿が映った
莉乃「ちょっと、勝手に入って来ないでよ!」
「あ? ノックしたわ」
「おまえが大音量で流してるDVDと、汚い悲鳴のせいで聞こえなかったんだろ」
莉乃「汚いって余計!」
「近所迷惑だからやめろって何度言ったらわかんだよ」
莉乃「あんたに関係ないし」
莉乃「ってか早く出てってよ」
莉乃「わたしとHARUCAの時間を邪魔しないで」
「あのなぁ・・・!」
  憮然とした幼馴染──
  遥が眉間にしわを刻んでにらんでくる
遥「HARUCA、HARUCAって騒ぐけど、そのHARUCAは俺だから」
莉乃「は? 一緒にしないでよ」
莉乃「わたしが好きなのは、ブラナイのセンターのHARUCA」
莉乃「遥みたいなデリカシーのかけらもない無愛想男とは違いますぅ」
遥「だからっ」
遥「そのブラナイのセンターは俺だろうが!」
  けっしてファンには向けることのない苛立った声と険しい顔
  国民的アイドルの貴重なオフショットではあるけど、そこに喜びはカケラもなかった
莉乃「はあ・・・」
莉乃「普段の遥を見たら、全国のHARUCAファンが幻滅するわね」
莉乃「夢返せって感じ」
遥「アイドルなんてそんなもんだし」
莉乃「HARUCAはあんなに完璧なのに、どうしてこっちは・・・」
遥「だから同一人物だっつの」
遥「これだからリア恋勢は」
莉乃「アイドルを好きになってなにが悪いの!?」
遥「別に莉乃ならHARUCAじゃなくたって・・・」
遥「や、なんでもない」
遥「つーか、そんなんでこれから大丈夫かよ?」
莉乃「え、なにが?」
遥「俺・・・HARUCAだってもっと仕事増えてくし、そうなったらほかの女性タレントとの絡みも避けられないだろ」
遥「ちょうど恋愛ドラマのオファーも来てるし・・・」
莉乃「へぇ、そうなんだ」
遥「あんだけ騒いでたくせに、冷静じゃん」
莉乃「当たり前でしょ」
莉乃「HARUCAの活躍を応援するのは、ファンとして当然のことだし」
遥「ふーん・・・」
莉乃「あ、買い物いかなきゃ」
遥「なに、突然 どこいくんだよ?」
莉乃「ちょっとわら人形と五寸釘を買いに」
遥「相手役呪う気満々じゃねえかよ!」
遥「つーかどこに買いにいくんだよ、そんなもん」
莉乃「大丈夫」
莉乃「どうせやるなら完璧にやるから」
遥「イイ笑顔で言うなよ 逆にこえーよ・・・」
莉乃「そういう遥こそ大丈夫なの? 今まで彼女いたことないくせに」
莉乃「言っとくけど、HARUCAとブラナイの名前に泥塗るような演技はしないでよね」
遥「おまえは俺のなんなんだよ マネージャーかよ・・・」
莉乃「それくらい本気で応援してるってこと!」
莉乃「ってか、もうこんな時間じゃん! 遥、仕事は?」
遥「あー・・・ そろそろ迎え来るけど」
莉乃「じゃあこんなとこで油売ってないで、支度しなきゃ」
莉乃「仕事前だからって気を抜いちゃダメ」
莉乃「『BLACK KNIGHT』のHARUCAは、いつでもどこでも完璧な騎士なんだからね」
遥「わかってるっつーの」
遥「莉乃もちゃんとテレビ見とけよ」
遥「よそ見なんかする暇もないくらい、俺に釘づけにしてやるよ」
莉乃「遥・・・」
莉乃「カッコつけるのはいいから、早くいきなよ」
遥「おまえ、マジで可愛げないな」
莉乃「別に遥に可愛いとか思われたくないしー」
遥「あー、そうですか!」
  憤然と出ていった遥が、近くに停まっていた車に乗り込むのを窓からそっと見守る
莉乃「・・・頑張ってこいよ」
  ただの幼馴染で友だちのわたしには、これが精いっぱい
莉乃「遠くなっちゃったなぁ・・・」
  遥はもう、わたしだけの遥じゃないから
  日本中にHARUCAに恋焦がれている人がいる
  そんな人たちから、遥を独占するわけにはいかないから──
莉乃「ファンとしてなら、好きって言ってもいいでしょ?」
  せめて、それくらいのわがままは許して
莉乃「リア恋になんかなれないよ」
莉乃「絶対」

コメント

  • 莉乃の「ふごぉっ」とか「んぬあぁ」とか、言葉にならない発声を文字化しているのがすごいですね。アイドルのHARUCAを全力で応援することで、実は陰で幼馴染みの遥の人生を応援している莉乃は健気だなあ。

  • 素晴らしい。これが真のオタクです、推し活の鏡です。あくまでファンとして好きになり、好きな人を支える。推し活に邁進するライブのときのリアルな表情がよかったです。

  • うさぎさんの久々のタップノベル♪楽しく読ませて頂きました😆
    リアルに恋しない、複雑な乙女心と健気な追っかけ具合にこちらが胸キュンでした♥
    素敵な時間をありがとうございました!

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