絵本としおり

落花亭

絵本としおり(脚本)

絵本としおり

落花亭

今すぐ読む

絵本としおり
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇池袋駅前
シオリ「・・・遅いなあ。エリカ」
シオリ「11時集合って約束したのに もう13時じゃない」
シオリ(まあ、エリカの遅刻癖は 今に始まった事じゃないけど)
シオリ(今日は特に遅いよ)
シオリ(スマホは無いし 連絡も取れないし最悪)
大学生「──悪ぃ。人身事故で遅くなる マジそれな。うん・・・」
「きゃっ!?」
シオリ(ながらスマホで気付いてない!? 危うくぶつかる所だったよ!?)
シオリ(うぅ。本当についてないなあ)
シオリ(エリカ、何してるんだろう? このまま待ち続けるのは辛いよ)
シオリ(・・・あれ? あんな所に本屋が)
シオリ「少しだけなら大丈夫だよね・・・ エリカ、ごめんね!」
スーツを着た女性「──ねえ、さっきの事故。 亡くなったの、若い女性だって」
スーツを着た男性「ああ、速報で見た 未来ある子がどうして──」

〇古書店
シオリ「うわあ・・・!」
シオリ(海外の図書館みたい!)
店主「──ようこそ、いらっしゃいました」
シオリ「お、お店の方ですか?」
店主「はい。貴女がシオリ様ですね?」
シオリ「えっ、どうして私の名前を──」
店主「先程、シオリ様がお越しになると ご連絡を頂いたものですから」
シオリ「は、はあ・・・」
シオリ(連絡って何の事? 怖い・・・)
シオリ「あの、勝手に入ってしまってすみません 素敵なお店だったので、つい」
シオリ「でも、もう帰りますので──」
店主「ご友人のエリカ様を お待ちになられているのでしょう?」
シオリ「エリカを知ってるんですか!?」
店主「はい。存じ上げております」
店主「時に、シオリ様──」
店主「貴女には当店を 利用しなければならない理由があります」
シオリ「理由?」
シオリ(さっきからこの人 会話がおかしい気が・・・)
シオリ(というかこの威圧感 『読んでいけ』って言ってるよね)
シオリ「・・・分かりました」
シオリ「でも、長居はしません」
店主「──何かございましたら お気軽にお尋ねください」
シオリ「・・・不思議な人」
シオリ(今更、お店に入った事を後悔。 何冊か読んだらすぐに帰ろう)

〇古書店
シオリ(この本棚は・・・)
シオリ(宇宙の法則? 難しくてわからないや)
シオリ(し、死後の世界? 興味ないなあ)
シオリ(輪廻転生・・・もうっ!)
シオリ「なんで恋愛とか 推理小説とか置いてないの!?」
シオリ(はあ・・・ 読んだふりして帰ってもいいかなあ)
シオリ「・・・んっ? 何だろう? あの本だけ違う──」
シオリ「絵本? 題名──桜の木の下で」
シオリ(作者──夏目麻子。聞いた事ないなあ)
シオリ「何々・・・」
シオリ「──昔々、ある所にアサコという女と マモルという男がおりました・・・」
店主「・・・」

〇古書店
シオリ「──戦争が終わった後も アサコは独り身を貫きました」
シオリ「ある日、死期を悟ったアサコは 宛名のない手紙を書く事にしました」
シオリ「『あの場所でお逢いしましょう』」
シオリ「『──桜の木の下で』」
シオリ(なんて切ないお話! 二人は会えたのかなあ)
シオリ(それにしてもこれ、絵本というより・・・)
シオリ「他にもあるのかな?」
店主「──何か、お探しでしょうか?」
シオリ「わっ! びっくりした!」
シオリ(急に来ないでよお・・・)
シオリ「あの、絵本って他にもありますか?」
店主「はい、ございます。 新作も入荷しておりますよ」
シオリ「新作ですか?」
店主「はい。少々お待ちください」
店主「お待たせいたしました こちらでございます」
シオリ(表紙が真っ白 題名も作者名も書いてない)
シオリ「ありがとうございます 早速、読ませていただきます」
シオリ(まあ、いいや どんな内容なんだろう?)
店主「・・・」

〇黒背景
シオリ「──幸せになれると思っていた」
シオリ「結婚して、子どもを産んで 素敵な家族になれると思っていた」
シオリ(さっきの絵本と雰囲気が違う)
シオリ「でも、無理だった・・・」
  ──婚約者に別れを告げられ
  私は死を選んだから

〇時計
  ──全部思い出した
スーツを着た女性「先輩、これも頼んでいいですか〜?」
スーツを着た男性「引き受けてくれてマジ助かります!」
  嫌な事は嫌だと言えず
  会社で都合よく扱われてた
エリカ「シオリ、久しぶり〜! 実は私、仕事辞めて結婚したの!」
「一人目も産まれてさあ 旦那と二人目作ろうかって──」
  環境が変わったエリカには
  相談しにくくなった
カケル「──一人の時間が欲しい」
「また、すぐに泣く 勘弁してくれ。疲れてるんだ!」
  彼に嫌われたくなくて
  ずっと顔色を窺ってた
  全部が悪い方向へ行き
  消えたい気持ちが増していった
  そして──

〇駅のホーム
シオリ(久しぶりにエリカとランチだ)
シオリ(相談に乗ってもらえたらいいな)
シオリ「カケルからだ・・・何だろう?」
  ──別れよう
シオリ「・・・えっ?」
  突然、誰かに後ろから
  殴られたような感覚
シオリ(いきなり、なんで?)
  徐々に周りの声も
  遠ざかっていった
シオリ(私、邪魔にならないようにしてたよね?)
シオリ(どうして電話に出てくれないの?)
シオリ「ねえ」
シオリ「どうしてっ!?」
  ──間もなく一番線に列車が参ります
  危険ですので黄色い線の内側まで・・・
シオリ「・・・」
  気付いたら私は
  線路に向かって歩き出していた
  ──バキッ

〇池袋駅前
シオリ「・・・遅いなあ。エリカ」
シオリ「スマホは無いし──」

〇古書店
シオリ「・・・」
店主「──ご理解いただけたようですね」
シオリ「私、死んでるんですね だから学生もあの時・・・」
店主「当店では死者の記憶もとい人生を 本に変え、管理しております」
シオリ「そっか。この絵本──私の人生か」
店主「──後悔していますか?」
シオリ「正直、馬鹿な事したなって」
シオリ「他に幸せになれる方法もあったはずなのに」
シオリ「次があるなら自分を信じて──生きたい」
シオリ「いつか、エリカがここを訪れた時は」
シオリ「『ごめん。ありがとう』って 言ってたと伝えてください」
店主「かしこまりました。 それでは冥界へとご案内いたします──」
  眩い光が私を包み込む
  次があるなら間違えない
  そう心に誓った

〇広い公園
  ──5年後
エリカ「リョー!! 遠くに行かないで!!」
エリカ「困ったお兄ちゃん 本当、言う事聞かないんだから」
  きゃっきゃっ!
エリカ「ね!・・・カオリ!」

コメント

  • わあああ、事故に遭ったのはしおりの方だった!
    しっとりとした友情物語かと思いきや、いい意味でどんでん返しでした!
    落花亭さんの作品、やっぱり好きだぁぁぁ☺️

  • 遅ればせながら拝見させて頂きました!
    切ないどんでん返しが、個人的に凄い刺さりました…
    伏線が丁寧に張られているので、そのどんでん返しも唐突感が無くて、落花亭さんの技術力にただただ脱帽致しました。
    最後も救いのあるラストでそこも凄い好きです!
    良い物語をありがとうございました🙇‍♂️

  • 人生が1冊の本になるという世界観も素敵なのですが、お話が1話の中にしっかりとまとまっていて、読みやすく分かりやすく、読む人のことを考えて、丁寧に書かれているのが伝わりました…。切なくも温かい気持ちになれるお話でした…!

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ