はじめ(脚本)
〇森の中
山で仕事をする機械共が落とした廃材を貰い、持っていたオイルライターを使って焚き火にする。
キャンプした翌朝になると、鹿が通った形跡を発見し、それを追跡して仕留める。携帯食料にしたり、簡易的な薬にしたりする。
それを繰り返して、旅は続いていく。少女と狼は樹氷の森を抜けて、丘の上に立ち、町を見下ろした。
マシロ「歴史を取り戻す旅はだいぶ長く続いておるが、この町には有力な情報が眠っていると踏んでおる」
マシロ「・・・ので、わん公。降りてみよう!」
わん公「わふっ」
わん公の背中に跨り、二人は町へ降りていく。
〇ヨーロッパの街並み
マシロ「おー。なかなか栄えておるようじゃ」
分厚い氷の地面の上を行き交う人々。
町の入り口には「ようこそ」と古代文字で書かれた氷の看板があった。
その看板の隣に佇む冷たいホログラムに映されるのは、「ムゼークスタット」という古代文字列。
マシロ「わん公、これは「音楽の町」と書かれておるぞ」
流れてくる愉快で軽快な音楽。
氷や「水」を用いた簡易的な楽器たちが奏でるそれは、芸術的で美しいものだった。
それは、「水」と言いつつも成分的には全く水とは似ても似つかないほどのものではあるが、
これを作ったとされる魔法使いが用いて音を奏でたことから町の住人中で広がり、「凍らず濡れない水」として販売されることとなり
その氷と水で作り出す音楽を演奏することが流行りとなり、文化として受け継がれていた。
この「音楽」自体がこの町以外ではあまり聞き馴染みがなく、他の町からは観光名所として名が知れ、町が栄えた要因となっている。
わん公「わふっ?」
マシロ「何はともあれ、観光と行こうじゃないか!」
わん公「わんっ!」
行き交う人々に紛れながら向かう為、マシロはわん公の背から降りて二人で歩いて行くことにした。
町の出入り口には商店街があり、さまざまな店が軒を連ねていた。
この世界では買い物をするのはその大半が、「お手伝いロボット」と呼ばれるAIが搭載されたロボットだ。
しかし、この町では人間と共に買い物をするロボットの姿が多く見受けられた。
マシロ「ふむ。この町もなかなかユニークだな」
わん公「わふっ?」
マシロ「だいぶ前に行った「ニクスタウン」じゃあ、人はほとんど屋外におらんかったからのう・・・」
わん公「わふっ・・・(ああ、確かに・・・)」
マシロ「まあでも、町特有の空気感や伝統、文化があるのじゃろ。全部否定せんよ、その方が面白いしのう!」
わん公「わふっ!」
マシロ「さ、とりあえず飯だ!お前でも食べられるものを探さないとな!」
わん公「わっふ♪」
長い通りを歩きながら、二人は飲食店や出店を探すことにした。
〇西洋の街並み
しばらく人混みに紛れていると、何やら人が集まっている箇所を見つけた。
わん公にその場で待つよう促すと、マシロは人混みの中へ割って入っていった。
マシロ「わっ、ちょっ、どいてくれっ!」
人混みをようやく抜けると、少女が倒れていた。
少女を少し離れた場所から取り囲むように野次馬が群がっていたようだ。
少女は、街の景観にそぐわない薄汚れた格好をしていて、行き倒れているようにも見えた。
少女に向かって、石を投げるものもいた。
通行人A「”奴隷”のくせに、ここまで逃げてきたんだってな」
通行人B「早く”指導者”に連絡した方が良いんじゃねえか?」
どうやら、サルウァトルシティーから奴隷が脱走したようだった。
ある事件が起こってから、”指導者”の意に反く者は強制労働を強いられていた。
まだ生かされているだけでマシだと、そう考えて強制労働を受け入れている人がほとんどだが、
中には過酷な環境下で無理をさせられて命を落とす人も少なくなかった。
そしてそれを目の当たりにして、脱走する人も多くはないが、ない話ではなかった。
サルウァトルシティーという街は、この世界に様変わりしてから、人類の文化を進化させた、いわば「始まりの街」であり、
”指導者”という、独裁国家の王のような組織が統べる最悪の街だった。
マシロは、ほとんど骨と皮だけのような状態の少女を見て拳を握りしめた。
奴隷の少女「・・・・・・・・・・・・助け、て」
か細い、助けを求める声が聞こえた気がした。
マシロ「──・・・良い加減に」
マシロ「しろッ!!」
小さな少女から放たれた怒号に、ギョッとした周囲の野次馬たち。
少女の背後から真っ白な粒子が、キラキラと瞬いたと思うと、それは一つに集合して、大きな狼の姿に変貌した。
マシロ「ああもう、馬鹿馬鹿しい!」
通行人C「なんだ、あれ・・・・・・」
通行人D「もしかして、魔法使い、か?」
マシロは少女を起こすと、わん公が異変を察知してマシロの元へ走ってきた。
わん公の背に少女を乗せると、自らもわん公の背に乗った。
学者、魔法使いなど、”彼ら”にとって都合の悪い存在は、歴史から排除されてきた。
身勝手な理由で、多くの犠牲者が出た。
マシロも、その一人だった。
〇城の会議室
サルウァトルシティー、氷の城《グラキエス・カストルム》内の円卓会議室。
黒い衣装に身を包んだ少女が上座に座って、部下たちの報告を聞いていた。
アーテル「・・・そうか」
アーテル「脱走したところで、我々から逃げられるわけがないが・・・・・・」
アーテル「・・・ディッティー」
ディッティー「あはっ、お仕置きの時間?僕の出番?」
この組織の中で、最も危険人物だと思われる青年、ディッティー。
”彼女”は組織から反く人間に罰を与える役目を担っている。性別も年齢も不明とはいえ、現在は男性の姿をしていた。
アーテル「任せるが、期待はしない」
ディッティー「分かってる。分かってるよキティ」
彼女の、どこか間延びした声色は緊張感が感じられない。
ディッティー「脱兎を捕獲すれば良いんだろ?捕獲したらどうする?僕がどうにかしていいの?」
アーテル「まあ、そうだな。すぐ壊れるだろうから、・・・・・・」
ヴェローゼ「ぼくが代替品探しとくー、そこら辺に落ちてるので良いー?」
自身の爪を赤く塗りながらヴェローゼは答えた。
アーテル「・・・・・・構わない」
ヴェローゼ「おっけ〜」
ディッティー「じゃあ僕はお楽しみの時間に行ってくるよぉ♪」
ヴェローゼ「じゃあぼくも〜」
ディッティーは浮かれた様子でスキップをしながら会議室を出ていった。それに続いて髪を揺らしながらヴェローゼも退室。
アーテル「・・・・・・魔女の行方も、追わなければならないな」
「わふっ」だけで様々な感情を表現するわん公に心を持っていかれました。マシロとのコンビも最高ですね。独裁組織の面々の胸糞悪さの描写は筆が冴え渡っていました。アーテルたちがマシロにボコボコにされる日が来るといいのだけれど。
音楽や芸術は、それぞれの文化に合ったもの、と勘違いしがちですが、この作品の通り、芸術が街を表しているような表現がとても好きです。
色々な文化に触れてみたいと感じました!
現代を生きる私達にとっては、彼女たちが遭遇した世界はとても魅力的で、厳しさの中に沢山の可能性が秘められているように感じました。その世界で、一匹と一人がどのようにたちむかっていくのか楽しみです。