僕の『秘密』

からむますたー

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〇水の中
  僕はある『秘密』を抱えている
  あなたは僕の抱えている『秘密』に
  気づけるだろうか?

〇新幹線の座席
  僕はこの春、東京の大学に進学した。
  周りには背の高いビルやたくさんの人で、自分のいた町とは大違いだ。
  東京での一人暮らしに親はとても心配していたが、その反対を押し切って来た。
  (憧れの東京に出てきたんだ!頑張るぞ!)
  初めての東京に僕はとても浮かれていた
  この後、都会の洗礼を受けるとは知らず・・・

〇広い改札
  まず、最初の洗礼は乗り換えだった。
  (どれに乗ればいいんだ・・・・・・)
  電車の数と種類が多すぎて、僕はとても混乱した。
  (参ったな・・・どの電車に乗ればいいのか分からないや)
  ポケットからスマートフォンを取り出して
  東京駅からこれから住む学生寮の最寄り駅までの電車を検索した。
  (えっと、中央線という電車に乗るのか・・・どれだ?)
  周りをきょろきょろして、案内板を探す。
  (あった、これか・・・・・・)
  僕は中央線のりばと書かれたホームを目指した。

〇駅のホーム
  (えっ、こんなにも沢山の電車が走っているのか)
  見れば5分に1本の電車が出ている。
  (僕のいた町は1時間に1本だったぞ・・・。すごいな、東京は・・・)
  ホームに行くと、電車が2つも止まっていた。
  どうやら、もうすぐどちらかの電車が出るようだ。ホームにいる人の動きが慌ただしい。
  (どっちの電車が早く出るんだろう?)
  僕は発車時刻の書かれている電光掲示板を見た。
  どうやら、向かって右側のホームに止まっている電車が先に出発するようだ。
  (もう発車の時間じゃないか、急がないと・・・あっ・・・)
  乗ろうと思った矢先に、電車のドアが閉まってしまった。
  (まぁ、いいか。次の電車はすぐだし)
  こういうところは都会の電車の便利なところかもしれない。僕の地元の町だったら、次は1時間後になるのだから。
  (向かいのホームの電車に乗るか・・・)
  幸いにもその電車は空いており、座席に座ることができた。寮の最寄り駅までは約40分はかかるようだ。
  (せっかくだし、景色を楽しみながら着くのを待つか)

〇電車の中
  僕は初めての都内を走る電車からの景色にうきうきしていた。
  (わぁ、桜が綺麗だなぁ・・・・・・)
  途中から川沿いを走し始めた電車は、桜並木の横を駆け抜けていく。
  電車に揺られること15分—
  僕は車内の案内表示を見ると、どうやら新宿に着いたようだ。
  (ここが噂の新宿かぁ・・・・・・)
  初めての新宿にわくわくした矢先に、沢山の人が電車に乗り込んできた。あっという間に電車は満員になった。
  (こ、これが都会の通勤通学か・・・)
  僕は2回目の都会の洗礼を受けた。
  (このまま、あと25分か・・・立ったままだったら、きつかったなぁ・・・)
  僕は都会の大変さに少し不安を覚えた。

〇電車の中
  25分後—僕は電車が最寄り駅に着いたのを車内の案内板で確認した。
  僕は座席から立ち上がった。すると、モーゼの海割りのように人が左右に分かれて、道を開けてくれた。
  (東京、すごいな・・・・・・)
  さも自然な動きだった。
  僕はホームに降り、改札口へと向かった。

〇改札口前
  僕は電車を降りて、駅の改札口に向かった。
  僕は切符を入れていたポケットに手を入れた。
  (あれ、ない。切符がないぞ・・・)
  僕はとても慌てた。
  (どうしよう、どこに行ったんだろう)
  僕はポケットやカバンを探し始めた。
  (ない、どうしよう・・・・・・)
女の人「あのー、すみません!」
  (どうしよう、まずは駅員さんを探して・・・)
女の人「すみません!」
  (窓口はどこだろう?)
  焦っているところに肩を叩かれた。叩かれた方を振り向くと、女の人がいた。
女の人「これ、落とし物ですよ」
  その女の人は緑色の切符を手に持っていた。どうやら拾ってくれたようだ。
僕「“拾ってくれて、ありがとうございます”」
  僕はお礼を伝えた。すると、女の人はポカンとしていた。どうやら、状況を読み込めていないようだ。それもそのはず。
  僕は“ありがとうございました”と文字を打ったスマートフォンの画面を見せたのだから。
  女の人は状況を理解したらしく、スマートフォンで文字を打ち始めた。
女の人「“もしかして、耳が聞こえないのですか?”」
僕「“はい、そうです”」
女の人「“だから、声をかけても気づかなかったんですね”」
僕「“そうなんです。すみませんでした”」
女の人「“いえいえ、何とか切符を渡せてよかったです”」
僕「“こちらこそ、本当にありがとうございました”」
女の人「“それでは、お気をつけてくださいね”」
  僕は親切な女の人に深くお辞儀をした。
  そうです―僕は人の声が聞こえないという『秘密』を抱えています。

コメント

  • 都会の雑踏の中って、人に無関心なようで温かい部分がありますよね。
    その温かさをきれいに書き出した作品だと思いました。
    知らない土地でその温もりにふれた主人公は、たぶんこの街が好きになると思うんです。

  • 知らない土地で人波に揉まれながらも感謝の気持ちを忘れなかった主人公に拍手です。都会だと落とし物をしても気づいてもらえなかったりわざわざ声を掛けてくれる人が少ないイメージだったので優しい物語に心が洗われました。

  • 都会に初めて言った人の心情と、人間の温かみを感じる作品でした!
    私も東京に行った時に電車の多さ、誰に乗ればいいのかわかりませんでした…。
    今でもとりあえず山手線に乗ればいいや感覚です笑

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