真夏の人間日記「僕達は悪魔で機械な青春が死体!」

不安狗

35/ウツボカズラ(脚本)

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〇電車の中
  「ちょっと、待って!」
星木ミウ「・・・・・・」
  「・・・・・・ミウさん、ほ、本当は?」
星木ミウ「・・・・・・本当?」
  ミウさんは返事はしてくれたものの、扉のそばの手すりに掴まり飛び降りる準備を進めているように見える。
  「ま、待ってミウさん!」
  「よくわからないけど、ミウさんが悪魔になろうとしてるっていうのはわかった」
  「ミウさんが他の人達より、悪魔になりやすい環境に生きてるっていうことも」
星木ミウ「・・・・・・」
  「でも、それってただの事実でしょ?」
  「ミウさんは? ミウさんは本当は、どう思ってるの?」
  「確かにミウさんは悪魔になるのに向いてるのかもしれない」
  「でも向いてるからって、絶対にならなきゃいけないわけじゃないでしょ?」
  「ミウさんは、本当に悪魔になりたいの?」
星木ミウ「・・・・・・」
  「・・・・・・」
  ミウさんが、その場で振り返った。
星木ミウ「・・・・・・それって本当は、私は悪魔になりたくないんじゃないかってこと?」
  「・・・・・・」
  そうであってほしいと、僕は思っていた。
星木ミウ「それは、あなたの願望でしょ」
  多分心を読まれたわけじゃない。
  見透かされたんだろう。
  「・・・・・・」
  僕にも、薄々わかってはいたことだった。
  本当という言葉を僕が他人に対して使う時、俺が本当を求める時、それは僕がその事実に納得がいっていないだけ。
  ミウさんの言う通り、それは僕の、願望でしかなかった。
星木ミウ「私は、悪魔になる」
  ミウさんが背を向けたので、僕はまた慌てて呼び止める。
  「ま、待って!」
「・・・・・・」
  「・・・・・・また、会えるよね?」
  「えっ」
  僕の口が開く前に、僕の後ろから、僕の声が聞こえた。
  振り返ると、コクノがコクノの姿のまま、僕の声でニッコリと微笑んだ。
  「・・・・・・独りには、ならないでね」
「・・・・・・」
  ミウさんは振り返ることなく、そのまま電車から飛び降りた。
  静かに、その扉が閉まる。
コクノ「大丈夫よ、お兄ちゃん」
  コクノが近づいてきて、僕の横に立った。
  「大丈夫、って・・・・・・?」
コクノ「あの子はお兄ちゃんから逃げられない」
コクノ「コロンがお兄ちゃんのハエトリグサなら、お兄ちゃんはウツボカズラなの」
コクノ「一度入ると出られない、一度会ってしまったら、二度と忘れることはできないわ」
  「えっと、僕ってそんなに、かっこいいってこと?」
  自分で言ってて恥ずかしくなってくる。
  でもコクノが言ってるのは、そういうことに聞こえた。
コクノ「ええ、そうね」
コクノ「死ぬ前のお兄ちゃんはそうでもなかったのかもしれないけれど、」
コクノ「甦らされたお兄ちゃんは、きっとそういう風にできているのね」
  「そういう風・・・・・・?」
  その時、電車が速度を落とし始めたのが体感でわかった。
コクノ「続きはまた今度ね」
  コクノがどこからか、見慣れたうさ耳のカチューシャを取り出した。
  「それ・・・・・・」
  僕の身体が、勝手にコクノの方を向いて膝をついた。
コクノ「お兄ちゃん」
コクノ「これからも私達の事、よろしくね?」

〇古いアパートの一室
  コクノが僕の頭にそのカチューシャを付けたその瞬間、僕はベッドの上で目が覚めた。
  仰向けになったまま頭の方に手を持っていくと、確かにカチューシャのうさ耳が、指に当たった。
  「・・・・・・ほんとだ」
  僕は昨晩、うさ耳のカチューシャをつけたまま、爆睡してしまったようだった。

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