〇整頓された部屋（ハット、靴無し）
ルナ「ふふっ」
ルナ「おい」
ルナ「喜べ」
ルナ「敦輝とやら」
ルナ「このボクを」
ルナ「お前の家に住まわせてやろう！」
　　・・・
　　・・・少し、話をさせてほしい

〇通学路
　　それは、大学からの帰り道。
　　住宅街の角を、曲がろうとしていたときのことだった。
　　ガンッ！！
　　膝に鈍い痛みが走ったのと同時に、俺の前で、女の子が倒れた。
前田敦輝「だ、大丈夫か・・・⁈」
　　そう聞きながら彼女を見て、俺は、自分の身体が固まるのを感じる。
前田敦輝「・・・」
前田敦輝「・・・」
前田敦輝「・・・は？」
　　だって

〇通学路
ルナ「うぅん・・・」
　　あまりにも彼女の姿が、現実離れしていたから。
前田敦輝「え、えっと・・・」
　　ぱちりと目が合う。
　　真っ白な髪に、紅の瞳。
　　中学生くらい、だろうか。背は、俺よりもうんと低い。
　　そしてなにより
　　ウエディングドレス・・・
前田敦輝「えっと、立てそうか？」
前田敦輝（まさか、叫ばれたりしないよな・・・）
　　不安になりながらも、俺はおそるおそる手を伸ばす。
ルナ「・・・」
　　睨むように俺を見つめたものの、彼女は黙って俺の手を取り、立ち上がった。
ルナ「・・・」
　　あと、ひとつ
　　俺が、不審に思ったことがあって。
前田敦輝「えっと、きみは」
　　突然だが、俺は人の「隠し事」が分かる。
　　話を聞くのが上手いとか、粗探しが得意とかいうわけではない。
　　小さな頃から、人の顔をじっと見ると、その人がなにを隠しているかが分かるんだ。
　　まるでテレパシーみたいに、頭の中に響いてくる。
　　でも・・・
ルナ「・・・」
　　彼女のことだけは、怖いくらいに、全く分からなかった。
ルナ「はぁ」
　　少しいらつきを含んだ声で、彼女が告げる。
ルナ「ボクの名前は、ルナ」
ルナ「カトレール＝クロト王国の者だ」
前田敦輝「・・・はぁ？」
　　なに言ってんだこいつ。
ルナ「おいお前、ここはどこだ」
ルナ「ボクは戦っていたはずだぞ」
ルナ「お前が、ボクを攫ったのか」
　　俺にはもう、なにがなんだか分からなかった。
　　この痛い子は、なにを言っているんだろう
　　・・・ん？
前田敦輝（あれ？）
　　俺はこの子のことを
　　どこかで見たことがあるような気がする。
前田敦輝（あぁ！）
　　しばらく考えて、ようやく分かった。

〇荒野

〇通学路
　　今、人気のアニメ
　　『戦場の花嫁』に出てくるヒロインの１人に、そっくりなんだ。
ルナ「お前、ボクの質問が聞こえないのか？」
　　この高圧的な態度も、あのルナというキャラクターと瓜二つ。
　　でも
前田敦輝（いやいや、意味不明だろ）
　　確か、少し前にネットで話題になっていた。
　　「ルナが死んだ」
　　戦っているときに、敵の攻撃を浴びて・・・とかだった気がする。
　　つまり
　　この子は、アニメのヒロイン。
　　死んで、三次元に転生してきた。
　　いやいや
　　そんなこと、あるわけがない
　　きっと
　　コスプレかなにかの
ルナ「おい、聞いているのかと言っている！」
前田敦輝「ヒッ！」
　　目の前に突き出されたのは、どうみても本物の・・・
前田敦輝「とっ、とりあえず場所を移そう！」
　　こんなところを誰かに見られたら、たまったものじゃない。
　　なりふり構っていられなくなった俺は、彼女の手を取り、自分のマンションへと走りだした。

〇整頓された部屋（ハット、靴無し）
ルナ「・・・」
前田敦輝「・・・」
ルナ「・・・つまり」
ルナ「ボクは死んで、元とは別の世界にきた」
ルナ「そういうことか」
　　俺を睨み付けながら、ルナは低い声を漏らす。
前田敦輝「そ、そうだと、思う」
　　ここまで話すのに、いったい何時間かかったんだろう。
　　考えると、頭が痛くなってくる。
前田敦輝「信じてくれた、か？」
ルナ「・・・」
ルナ「この状況だ」
ルナ「信じないわけにもいかないだろう」
　　その言葉に、俺は静かに息を漏らした。
　　それにしても
前田敦輝「きみも、災難だったよな」
前田敦輝「死んだだけじゃなくて、こんなことになるなんて」
前田敦輝「友達とか、会いたいんじゃないのか」
ルナ「・・・トモダチ？」
　　彼女の眉が、ピクリと動く。
ルナ「戦場は、命を懸けた者が集う場所だ」
ルナ「そこにいたボクが、トモダチなど必要とするはずがないだろう」
ルナ「現に、１人もいなかったよ」
前田敦輝「・・・」
　　ルナが溜め息を吐く。
　　同時に、外から、子供の笑い声が聞こえた。
　　見ると、両親らしき２人と、手を繋いで歩いている。
　　しかし
ルナ「それにしても」
ルナ「この世界は、ずいぶんと平和だな」
前田敦輝「・・・」
ルナ「どうした」
前田敦輝「・・・そんなこと、ない」
ルナ「は？」
　　気付けば、俺は口を開いていた。
前田敦輝「あの奥さんは、浮気してる」
前田敦輝「それに、旦那の方は借金まみれだ」
前田敦輝「そのことを、あの子はなにも知らない」
ルナ「・・・」
　　ルナが、じっと俺を見つめた。
ルナ「知り合いか」
前田敦輝「いや、他人」
ルナ「なら、どうして」
前田敦輝「・・・」
　　俺は、自分の能力のことを、彼女に話すことにした。
　　人の隠し事が分かってしまうこと。
　　そして
　　ルナのそれだけが、全く分からないということも。
　　彼女は、黙って聞いていた。
　　しかし
ルナ「ふふっ」
　　話し終えたとたん、どこか不気味な笑みを浮かべた。
ルナ「そういえばお前、名前を聞いていなかったな」
前田敦輝「え？」
ルナ「名乗れ」
前田敦輝「あ、敦輝だけど」
　　ニヤリ、と上がった口角に、なぜか嫌な予感がする。
ルナ「おい」
ルナ「喜べ、敦輝とやら」
ルナ「このボクを、お前の家に住まわせてやろう！」
前田敦輝「・・・は？」
ルナ「お前は、ボクがこの世界に馴染むのに都合が良い」
ルナ「その能力は、ボクのために使え」
ルナ「それに」
ルナ「ボクには、隠し事などないからな」
ルナ「つまり、お前は、ボクの弱みを一切握れない！」
ルナ「良い条件だろう！」
　　満面の笑みを浮かべる彼女に
　　とりあえず文句のひとつでも
前田敦輝「・・・っ」
　　脳が、震えた。
　　瞬間で分かる。
　　彼女の、隠し事だ。
前田敦輝「・・・」
　　いや
　　少し、違うかもしれない。
　　彼女の願い
　　それは
　　「この世界で、トモダチが欲しい」
前田敦輝「・・・」
前田敦輝（へぇ）
ルナ「おい、そんなにニヤニヤして、どうした」
　　じっと俺を覗き込む彼女に、俺はまた、自分の口角が上がるのを感じた。
前田敦輝「・・・」
前田敦輝「秘密」