読切(脚本)
〇二人部屋
俺の名前は坂上秀斗。
成績優秀。スポーツ万能。容姿端麗。
一言でいうなら【完璧】だ。
そんな俺には可愛い弟がいる。
坂上瑛斗。一卵性の双子だ。
彼を見て、100人いたら150人が「顔が良い」と答えることだろう。
実際に顔が良いから仕方ない。何なら性格もいい。perfect boyだ。
この様子から察する通り、俺は弟を溺愛している。
坂上 秀斗「瑛斗が弟で本当によかったなぁ」
そんな弟が、先程ため息を吐きながら部屋に帰ってきた。
坂上 瑛斗「はぁあ・・・」
坂上 秀斗「どうしたんだよ瑛斗」
俺はその非常事態に眉をひそめた。
坂上 瑛斗「兄ちゃん・・・」
坂上 秀斗「ため息を吐く時間があるなら、その時間で俺と話そう」
瑛斗はベッドの1段目に腰をかけると、上目遣いで俺のことを見る。
坂上 瑛斗「実は今日好き・・・あっ」
坂上 瑛斗「ただのクラスの友だちと遊ぶって言ったじゃん?」
坂上 秀斗「あぁ。”ただの”クラスの友だちとな」
彼としては秘密にしておきたかったのだろう。
明らかに『好きな子』と言いかけていたが、俺もあえてスルーする。
いくら大切な弟に好きな人ができたとはいえ、不要な詮索をしたりはしない。
相手が釣り合うならそれで良い。
坂上 瑛斗「実はその子とすごくいい感じになったんだけどね・・・あっ!」
坂上 秀斗「うん・・・うん、気にするな」
【ただのクラスの友だち】という設定をもう忘れ
設定を守って聞いていた俺だけを置いて、勝手にいい感じになってしまった。
仕方がない誰にでも口が滑ることはある。そんな所も可愛い。
坂上 瑛斗「えーっと、そっ、それでね!」
坂上 瑛斗「何か急に「用事ができた!貴方とはもう遊べない!じゃあね!!」って言われて」
坂上 瑛斗「そのまま走って帰っちゃったんだ・・・」
坂上 瑛斗「俺なんかしちゃったかなぁ?」
坂上 秀斗「なんて女だ」
俺の大事な弟よりも優先させることがあるとはどういうことだ!
そんな女ではどの道、破綻まっしぐらだ。むしろ早く知れてよかった
俺は涙目になる弟の頭をよしよしと沢山撫で回した。
すると、何か意を決したように頷く。
坂上 瑛斗「ありがとう兄ちゃん。俺、決めた」
坂上 秀斗「何をだ?」
坂上 瑛斗「俺、マッチングアプリやる!」
坂上 秀斗「??????????????????????????????????」
予想だにしなかった発想に思わず脳みそが宇宙に飛び立つ。
それから俺と瑛斗の奇妙なアプリ生活が始まった。
〇電脳空間
それから俺は
”シュウコ”と名乗ってマッチングアプリを始めた。
瑛斗のタイプの女性くらい把握している。
フリー写真だと気が引けたので、俺が女装してなりきった。
そっちの方が早かったからだ。
予想通り超可愛い。
俺は早速アプリで弟を見つけ出し、いいねを押す。
すると予想通りいいねが返ってきた。
シュウコ(マッチング成功だ)
坂上 瑛斗「こんにちは!初めまして!僕、天最学園の坂上瑛斗といいます!」
坂上 瑛斗「最近好きな人に振られたので始めました!宜しくお願いします!」
個人情報がダダ漏れ過ぎる!
学校の名前まで言わんでいいわ。
危ないから、今度不振がられない程度に個人情報の大切さを教えなければ。
とりあえずは、俺も自己紹介をしておく。
シュウコ「こんにちは!マッチングありがとうございます。シュウコと申します」
シュウコ「私も好きな人に好きな人が出来て悲しかったので始めました」
シュウコ「これから仲良くなれたら嬉しいです!よろしくお願いします」
最初のうちは共通点を伝えること。
話題にもなるし、その事によって親近感が湧くからだ。
それから1日に数回、ゆったりとしたやりとりが続いた。
坂上 瑛斗「シュウコさんはお料理が得意なんですね! 俺、あんまり得意じゃないから尊敬します!」
シュウコ「ありがとうございます!最近は料理の幅を広げようと試みています」
坂上 瑛斗「チャレンジ精神も豊富ですごいですね」
最初の頃よりもだいぶ打ち解けてきた。
好感度が上がっているのも感じている。
そうして誰よりもいい女になる。
そこら辺の女にお前の彼女なんてつとまらない。
俺みたいな【完璧】な奴じゃないと。
そういえば俺に秘密でデートに行ったあの日。
なぁ、瑛斗。
あの女を帰らせたの、本当は俺なんだ
〇新橋駅前
瑛斗が友だちと遊びに行くと言う前から、あの女が既に他校に彼氏がいることを知っていた。
それなのに瑛斗に思わせぶりな態度を取った。
それが許せなかった。
だから、匿名で「これ以上瑛斗に近づくな」って彼氏とのヤバい写真添付して送ったら
案の定、お前を置いて逃げ出したよ。
瑛斗に変な虫は寄らせない。
これからもずっと俺の大切な弟で
坂上 秀斗(俺が”完璧”な、お兄ちゃんだから)
これは不要ではなく必要な詮索。
そしてこの事は、ずっとあいつといるための小さな秘密。
坂上 秀斗「これからも、ずっと一緒にいような」
〇二人部屋
ねぇ兄ちゃん。
あの日、本当は全部兄ちゃんの仕業だって
俺、気付いてたよ。
それから
坂上 瑛斗(シュウコが兄ちゃんだってことも)
生まれた時からずっと完璧で、だからこそ
「こいつは俺がなんとかしなきゃ」って無意識に思ってる。
だから気付けないんだよ。
本当はその秘密が全部バレてるってことに。
あー、俺たちってホント
坂上 瑛斗(どうしようもなく双子だね)
いつか完璧じゃない兄ちゃんを見た時に、俺たちの秘密の答え合わせをしようね。
それまではまだ、お互いに秘密の関係で。
坂上 瑛斗「その時までは、ずっと一緒にいようね」
坂上 瑛斗「お兄ちゃん」
兄弟のやりとりが可愛らしくて,楽しく読ませていただきました!現実,簡単にマッチングアプリを利用する人が増えた時代,こういうことってありそうですね!
弟くんを年下の可愛い可愛い弟、学校名までいっちゃうんだからちょっと抜けてる天然な弟かと思っていたけれど、双子でしたか、、。しかも天然なのももしかしてフリだったの!?もしや弟のほうが上手!?それにしても兄弟愛が強くてお互いに大好きなのが伝わってきましたよ。
弟さんも完璧なんですね…さすがです!お兄さんから見て完璧な人でも振られちゃうんだな、と思って読んでましたが、二人ともまさかの秘密でした。お兄さんの語りを読んでいたのに、お兄さんの秘密には全然気づかなかったです。もちろん弟さんもです。校名を出したのも惹き付けるためのトリックなんでしょうか?相手のために行動してるのに高度戦が始まっちゃうのが面白いです。