法被 vs 迷彩(脚本)
〇大学の広場
マモル「頼む! 僕の代わりに、地元の祭りに参加してくれ!」
アオイ「祭り?」
マモル「今年のお盆に、俺の村で四年に一度行う合戦祭りがあるんだ」
マモル「僕は役に立たないから行きたくないけど、若い奴が少なくて・・・」
マモル「お前が代わりに行ってくれないか?」
アオイ「合戦って、何をするんだよ?」
マモル「行けば、わかるさ」
マモル「俺のかわいい妹にサポートを頼んでおくから」
アオイ「いいけど、役に立つかは──」
マモル「お前なら即戦力だよ! よろしくな!」
〇山間の集落
当日
アオイ(列車とバスを乗りつぐこと十時間)
アオイ(祭りの開始時刻は過ぎてしまったが、やっと村にたどり着いた。でも──)
〇けもの道
アオイ「どういうことだよ、これは!?」
アオイ「何で法被を着た連中が、銃を持って追いかけてくるんだよ!」
アオイ(無言で怖いし! あの銃、本物?)
アオイ(くっ、追いつかれる!)
アオイ「ペイント弾!?」
マツリ「こっち!」
〇けもの道
マツリ「ここまで来れば、大丈夫かな」
マツリ「お兄の代理のアオイ兄ちゃんだよね?」
マツリ「あたし、マモル兄の妹のマツリ」
アオイ「あの法被の奴らは、何だったんだ?」
マツリ「あれは敵チーム」
マツリ「法被が目印だから、『ハッピーズ』って呼ばれているんだ」
アオイ「ずっと無言だし、ハッピーではなかったな・・・」
マツリ「敵チームは合戦中、喋らない決まりなんだ」
マツリ「生者と亡者の戦いだから」
アオイ「は?」
マツリ「あ、知らなかった?」
マツリ「これは四年分の村の所有権をかけた、亡者と生者の合戦祭りなんだよ」
マツリ「亡者に土地を奪われたら、生者は住めなくなる」
マツリ「だから責任重大だよ、アオイ兄ちゃん」
アオイ「はあ!?」
アオイ(マモルの奴、黙ってやがったな・・・)
アオイ(まあ、かわいい妹がいるのは本当だったけど)
アオイ「でも、何で合戦なんか──」
〇村に続くトンネル
マツリ「この辺りには、黄泉の入り口があってね」
マツリ「昔からたまに亡者が出てくるから、 祭りのとり決めをしたらしいよ」
〇けもの道
アオイ「これ、実際に殺されたりは・・・」
マツリ「大丈夫、ペイント弾だから。 死亡判定で退場するだけ」
アオイ「サバゲーみたいだな」
マツリ「本当は、お兄とも遊びたかったんだけどな」
〇古びた神社
マツリ「着いたよ。ここが、あたし達の陣地」
アオイ(神社と迷彩服って、えらくミスマッチな・・・)
マツリ「ハッピーズは、ここの真反対にある神社が陣地なんだ」
〇屋敷の一室
マツリ「着替え終わったね」
マツリ「祭りのルールを説明するよ」
マツリ「この合戦の勝利条件は、敵チームの殲滅か、陣地をとること」
〇怪しげな祭祀場
マツリ「陣地をとるっていうのは、この石をハッピーズの陣地にある祭壇に納めるの」
マツリ「そうすれば、兄ちゃんの勝ち。わかった?」
アオイ「何となく・・・」
マツリ「じゃあ、はい」
アオイ「へ?」
マツリ「兄ちゃんが持っていて」
アオイ「何で俺?」
マツリ「兄ちゃんが持っているなんて、誰も思わないでしょ?」
マツリ「リーダーの許可はとってあるし」
アオイ「けど──」
マツリ「大丈夫」
マツリ「あたしが守るから、安心して」
アオイ「普通、俺がいう台詞だと思うんだけどな」
マツリ「それと、相手に気どられないように、作戦は二人だけでやるからね」
アオイ「責任重大じゃないか・・・」
マツリ「じゃあ敵地を目指して、出発!」
〇森の中
マツリ「アオイ兄ちゃんは、お兄とは仲いいの?」
アオイ「そこそこかな」
マツリ「そっか」
マツリ「これからも、そこそこ仲よくしてやってね」
〇村の眺望
マツリ「あ〜畑だ」
マツリ「ここを突っきるのが近道だけど、見晴らしがよすぎるね。迂回しようか」
アオイ「ちょっと待て。あれ・・・」
マツリ「あ、ハッピーズ!」
マツリ「隠れもせず、そのままこっちに来る」
アオイ「ちょうどいい。狙撃しよう」
マツリ「できるの?」
アオイ「まあ見てろ」
マツリ「すごい!」
アオイ「こう見えても、大学の部活でライフル射撃をやっているからな」
アオイ「標的射撃だから、動く的を狙ったことはないけど」
マツリ「さすが、お兄が選んだ助っ人だね!」
アオイ「マツリも、マモルと仲がいいんだな」
マツリ「まあ、そこそこ?」
〇けもの道
敵陣地への道中は、概ね順調だった。
トラブルもあったが。
〇林道
〇けもの道
たまに襲撃もされたが、
マツリと二人なら難なく倒せた。
マツリ「あ、敵陣地が見えてきた」
〇神社の本殿
マツリ「気をつけて。見張りのあいつ、強いよ」
アオイ「確かに、一筋縄ではいかなそうだ」
マツリ「あたしが、囮になる!」
アオイ「あっ、おい!」
マツリ「こっちよ!」
マツリ「う〜無念・・・」
アオイ「マツリ!」
アオイ「くそ、お前の犠牲は無駄にしない!」
〇畳敷きの大広間
アオイ(ヤバイ! ここで亡者に撃たれれば、終わりだ!)
アオイ「祭壇はどこだ!?」
〇祈祷場
アオイ(あった、祭壇!)
アオイ「これで、俺達の勝ちだ!」
〇白
アオイ「ここは・・・」
マツリ「兄ちゃん!」
アオイ「マツリ、勝ったぞ!」
マツリ「うん、おめでとう!」
アオイ「ここは、どこだ?」
アオイ「お前・・・何で透けているんだ?」
マツリ「ごめん。兄ちゃんのこと、騙していた」
マツリ「本当の勝利条件は、敵チームの石を自陣にもち帰ること」
アオイ「は?」
マツリ「兄ちゃんは生者チームだから、あたし達亡者チームの石をもって帰ることで、勝ったの」
アオイ「ま、待ってくれ。マツリが亡者?」
マツリ「昔の亡者は村を狙っていたみたいだけど、」
マツリ「最近は本当に村を奪おうだなんて、思ってないよ」
マツリ「ただ、皆んなと遊びたかっただけ」
アオイ「マツリ・・・」
マツリ「でも、今年の生者は弱くって!」
マツリ「少し張りきっただけで、一時間で半数が退場しちゃった」
マツリ「だから、兄ちゃんを頼ることにしたの」
アオイ「・・・・・・」
マツリ「ちなみに、最初に兄ちゃんを追いかけていたハッピーズは、」
マツリ「合戦が始まったから兄ちゃんに声がかけられなかったみたい」
マツリ「銃を見た兄ちゃんが逃げて収拾がつかなくなっていたから、あたしが助けたの」
マツリ「法被を着た人以外、兄ちゃんが出会ったのは皆んな亡者だったんだよ」
アオイ「お前はもう、死んでいるのか?」
マツリ「うん。もう行かなきゃ」
マツリ「ありがとう、アオイ兄ちゃん。 また遊ぼうね!」
〇墓石
マモル「僕には妹が二人いた」
マモル「マツリは合戦祭りを楽しみにしていたけど、一年前に事故で亡くなったんだ」
マモル「まさか、亡者チームで参加していたとは・・・」
アオイ「マツリは、お前に会いたがっていたぞ」
マモル「運動は苦手だけど、次回は僕も参加しようかな」
アオイ「俺も。四年後もまた遊ぼうな、マツリ」
お兄さんについて話している時の感じから、いい兄妹関係なのだろうなぁと思っていたので、ラストの展開は、グッと胸に来るものがありました❗️
亡者と生者がサバゲーをすると聞くとホラーなのかと思いきや、実は遊びたいだけという純粋な気持ちにラストはキュンときますね。
来年もきっと、一緒に!
すごくワクワクしながら一気読みしてしまいました。田舎、伝承、祭り、サバゲ―、どれも大好きな設定ですので!
そしてラストにもう一要素を加えているのにはやられました。切なさとほろ苦さも加わって、物語が一層魅力的に感じられました!