読切(脚本)
〇小さいコンビニ
今やどこにでもあり、24時間営業している利便性の高い店。客層も品物も、幅が広い。広く浅く品物並べて、幅広い客層に売る。
それがコンビニエンスストア、略称──コンビニだ。
〇コンビニのレジ
大手コンビニにバイトとして働く留学生、ハオ・ロウは今日も今日とてうんざりした様子で店内を眺めていた。
竜大「こんにちはー、ハオさん。大丈夫?今にも倒れそうな顔してるよ」
ひょっこりとレジの下から顔を出す男の子に、今日も来たんだなあとハオは眉を下げた。彼は今日も元気なようだ。
ハオ・ロウ「こんにちは、竜大くん。今日もの間違いじゃないか?」
あははと苦笑いを浮かべて後ろを振り返る竜大の視線を、ハオは見ないふりをし、
竜大の持ってきた商品──先週販売した新商品のチョコレート菓子だ──にバーコードリーダーを当てる。
竜大「またお父さんに頼む?」
竜大は、首から下げたキッズケータイを揺らした。今日はどうやら彼の父親は来ておらず、彼は一人で来たようだ。
ハオはそれに対し、首を横に振った。
一ヶ月前のことである。ハオが目を背けている事が以前も起きた。偶々居合わせた彼の父は、腕っ節で解決した。
尤も、彼は普段は温厚である。
ハオ・ロウ「次やられたら店が半壊しそうなんだけど。っか、君の父親何者よ?」
竜大「自衛隊って聞いたよ!」
ハオ・ロウ(嘘つけ!絶対秘密組織のエージェントだろ、もしくはサイボーグだろ!)
なんともファンタジーの世界の様な言い方だが、なんでもありだ。それはこのコンビニを見ていればわかる。
竜大「それじゃあ、ハオさん、頑張って!何かあったら呼んでね!」
ハオは引き攣るような笑顔を浮かべてその背に手を振ると、もう一度、鬱屈の原因を見据えた。
ハオ・ロウ(まだやってる・・・・・・)
大きな溜息を吐くと、ハオはカウンターの引き出しから防犯マニュアルの上に置かれた一枚の紙を取り出した。
ハオ・ロウ「おい、"ヨハン"。私、客対応してくるからレジ交代しろ」
バックヤードに向けて声を掛けると、やや暫くしてくぐもった声で返事が来た。
ヨハン「ほい、これ」
それと同時に、少し物音がして監視カメラの部屋が開かれると、手だけが出てきた。
ハオ・ロウ「まじかよ・・・・・・」
ハオは渋々受け取った。
〇コンビニの店内
女子高生(客)「兄の仇!」
刀を持ったほうが、地面を蹴った。
女は、刀を持ち、男は、拳銃を手にしている。
男子高生(客)「・・・・・・」
先程取り出した紙を手に、ハオはアイスコーナーの前で騒ぐ"二人"に近づいた。
ハオ・ロウ「捕らえよ(カペレ)」
刹那、ハオの持つ一枚の紙が──正しくは、紙に描かれた"魔法陣"が輝き始めた。
鎖は、銃構えた二人を纏めて縛り上げた。あまりにも突然のことに、両名抵抗できずに拘束された。
ハオ・ロウ「お客様。店内、私怨持ち込み禁止でございます」
店内、私怨持ち込み及び戦闘行為禁止。注意の前に店員が実力行使致します可能性がございますので、ご了承下さい。
ハオ・ロウ「お二方、これで二回目ですよね。つい先日、お客様にご迷惑おかけした事をお忘れですか」
トドメのように畳み掛けるとまだハオよりも"随分と"若い二人はぐっと黙った。
ハオ・ロウ「・・・・・・それと、ここから先は大変なお節介ではございますが」
コホンと、態とらしい咳払いをして話を一度切る。先程、ヨハンから受け取った書類へと視線を落とした。
ハオ・ロウ「そこの可愛らしいお嬢さん。貴方のお兄さんは不意討ちに合い、お亡くなりになられたのですよね?」
女子高生(客)「ああ、そうだ」
女は、一緒に縛られている男を睨む。
ハオ・ロウ「こちらを見てくださいまし」
女はハオが押し付けた紙を読み、信じられないという表情を浮かべた。
書かれていた内容を要約すると、彼女の兄は別の奴に奇襲をかけられ、そこを助けたのが男だ。だがまあ、間に合わなかったという
ありていの話だ。
女のその態度を見て、男は悟ったように視線を外した。当然の態度である。ハオは二つで一組のアイスを一つ、
アイスケースから取り出した。
ハオ・ロウ「あとはお二人でお話し合いください。これでも食べながら」
良い口実ができた二人は顔を見合わせると、コクリと頷いた。
女子高生(客)「その、」
男子高生(客)「これ、買います」
すかさず、男がレジに向かっていく。女は視線を彷徨う。ハオはその様子に大丈夫だと判断して、立ち上がった。
ハオ・ロウ「購入、ありがとうございます」
ハオは、会計を済ませる。そして、二人の背中を見送った。
ハオ・ロウ「またのお越しを」
きっと、もう大丈夫だろう。
〇コンビニの店内
ヨハン「なぁ、”トリス”」
レジカウンターに頬肘をついていた店長は、隣のハオを呼び、アイスコーナーで燥ぐうら若き高校生を指差した。
ハオ・ロウ「なんだ、ヨハン」
ヨハン「あいつら、将来的にはくっつくやつじゃない?」
ハオはブフッと飲んでいた缶コーヒーを噴き出した。
チラリとその方向を見れば、二人は視線に気づいて女は手を降ってきた。
ヨハン「ヒュウ~、懐かれたねぇ」
ニヤニヤとこちらを見る店長に、この野郎と恨めしそうに見る。
ハオ・ロウ「厄介事を押しつけやがって・・・・・・!」
ハオは痛む頭を抑える。
ヨハン「アハハハ!」
コンビニのアルバイト定員、ハオ・ロウの苦難はまだまだ続きそうである。
コンビニが異世界の出入り口になっているというのはありそうでなかったナイスなアイデアですね。ハオ・ロウを中心にいろんなエピソードが展開しそう。「店内、私怨持ち込み禁止です」も流行語になりそうなくらいキャッチーだと思います。
コンビニという小さな舞台で繰り広げられる異世界バトル。アクティブで楽しいですね!キャラクターの個性とビジュアルが合って魅力的です。
ハオ・ロウとして登場させていただいたキャラクターのイラストレーターです。コンビニというありきたりな舞台に個性的な客や店員が出てくるという設定が意外性があり面白かったです!実は困り顔はかなり良く描けた表情なので、たくさん使っていただけて嬉しいです。素敵な物語の登場人物にしていただきありがとうございました!