加工の君(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
桜井ひより(はぁ、緊張する〜・・・・・・)
大学2年になって、
初めてマッチングアプリを使った。
私はずっと、自分に自信がなかった。
そんな自分を変えたかった。
”恋”をすれば、
人は変われるって言うし・・・・・・
そんな想いで、マッチングした同い年の人と会ってみることにした。
通行人女性A「今通った子、超イケメンだった!」
通行人女性B「思った! モデルかな?」
桜井ひより「あっ!!」
黒木大地「・・・・・・」
桜井ひより(来た! 写真よりもすごくイケメン!)
桜井ひより(まるで、彫刻みたいに整った顔!)
桜井ひより「あの・・・・・・大地くんですか?」
黒木大地「は?」
黒木大地「写真と全然顔違うじゃん」
桜井ひより「えっ!?」
黒木大地「ふっ、ないわぁ〜」
黒木大地「パス」
スタスタスタ
桜井ひより「は、は、はぁ〜〜っ!?」
〇講義室
大宮大学。
「原田ゼミ」の教室。
ガラガラッ
桜井ひより「ったく、なんなの」
今日から新学期。
けれど、昨日あんなことがあって気分は最悪だった。
山下雪「おはよ〜ひより! こっちこっち!」
桜井ひより「あっ・・・・・・おはよ」
山下雪「ねぇ、マッチングアプリの人どうだった?」
山下雪「どーせ大した男じゃなかったんでしょ〜? ひよりのことだし」
雪は、中学の頃からの同級生。
人見知りで友達がいない私に、
いつも気さくに話しかけてくれた。
けれど、長く付き合う内に、
雪は私を見下すようになっていった。
そうわかっていながらも、
雪と上手く距離を置けずにいた。
桜井ひより「いや、それが・・・・・・」
ガラガラッ
黒木大地「・・・・・・」
桜井ひより「げっ!!」
桜井ひより(嘘!? あいつだ!)
桜井ひより(同じ大学だったなんて最悪!!)
山下雪「ん? ひより、何で顔隠してんの?」
黒木大地「・・・・・・」
スタスタスタ
女子A「かっこいい〜」
女子B「やばいね!」
ザワザワザワ
山下雪「ねぇ! ヤバい! あの子、超イケメンじゃない!?」
桜井ひより「あ、あの子なの。マッチングアプリの人」
山下雪「えーっ!! マジ!?」
〇ファストフード店の席
その日の放課後。
山下雪「あっ、あれ!」
桜井ひより「あっ」
黒木大地「・・・・・・」
山下雪「お疲れ〜! 大地くんって言うんだよね? ここのカフェよく来るの〜?」
桜井ひより「ちょっと、雪・・・・・・」
山下雪「いいじゃんいいじゃーん!」
桜井ひより「はぁ・・・・・・」
山下雪「何頼もうかな〜?」
黒木大地「・・・・・・加工詐欺」
桜井ひより「!」
山下雪「あ、あははっ・・・・・・」
山下雪「ひよりから聞いたよ〜」
山下雪「大地くん、ひよりのこと置いて帰ったんでしょー? まじウケるよね〜」
黒木大地「・・・・・・」
山下雪「大地くんってイケメンだしー、 面食いそうだもんねー」
山下雪「絶対モテるでしょ? なんでひよりなんか選んだのー? 遊び??」
桜井ひより「・・・・・・」
黒木大地「俺、お前みたいな奴嫌いだわー」
山下雪「は?」
黒木大地「常に上から目線の奴」
桜井ひより「ちょ・・・・・・」
黒木大地「帰るわ」
スタスタスタ
山下雪「うざ・・・・・・なんなの」
山下雪「ねぇ! ひより」
桜井ひより「・・・・・・」
山下雪「ひより?」
山下雪「えっ、ひよりもあいつと同じこと思ってた訳?」
桜井ひより「・・・・・・私も、帰る」
山下雪「はっ!? ちょっと・・・・・・!!」
〇川に架かる橋
桜井ひより「はぁ・・・・・・」
桜井ひより(やってしまった)
桜井ひより(でも、こうなって良かったのかもしれない)
桜井ひより「あっ」
黒木大地「・・・・・・」
桜井ひより(タバコ、吸うんだ・・・・・・)
桜井ひより「・・・・・・雪と、喧嘩しちゃった」
黒木大地「俺のせいって言いたいの?」
桜井ひより「違うよ!」
桜井ひより「あの・・・・・・ありがとう」
黒木大地「・・・・・・」
桜井ひより「私、雪に反抗したことなんか無かったから」
黒木大地「・・・・・・俺も、ああいうやつに反抗出来なかった時あったから」
桜井ひより「えっ、そうなんだ・・・・・・」
桜井ひより「あ、でも、この前いきなり帰ったのはひどいよ」
黒木大地「あぁ、あれは・・・・・・」
黒木大地「いや、お前の目、3倍ぐらいでかくなってたじゃん」
桜井ひより「さ、3倍って!!」
桜井ひより「まぁ、ちょっとは加工したけどさ」
黒木大地「ぷっ」
黒木大地「お前さ、もうちょっと自分に自信持っとかないと、あいつに潰されんぞ」
桜井ひより「え?」
スタスタスタ
桜井ひより「・・・・・・」
〇川に架かる橋
あれから2週間が過ぎた。
今日は大雨だ。
あの日以来、大地くんは1度もゼミに来ていない。
桜井ひより「え!?」
黒木大地「・・・・・・」
桜井ひより(大地くん!?)
桜井ひより「ちょっと! 何してんの!?」
桜井ひより「ほら、傘入って!」
黒木大地「・・・・・・」
桜井ひより「えっ」
桜井ひより(目が、赤い・・・・・・)
桜井ひより(泣いてた・・・・・・?)
〇住宅地の坂道
私達は一言も話さず、しばらく歩いた。
黒木大地「・・・・・・お前にだけ、言うけどさ」
桜井ひより「?」
〇教室
3年前。
牛瓦「よおー! 大地ぃ〜」
牛瓦「ヒャハハ!! めっちゃ髪切ってんじゃん!」
牛瓦「お前のそのブサイクな顔じゃ似合わねーよ!!」
牛瓦「なぁ?」
クスクスクス
〇住宅地の坂道
黒木大地「俺、」
黒木大地「整形してんだよね」
桜井ひより「えっ!!」
黒木大地「顔のほとんど全部」
桜井ひより「・・・・・・」
黒木大地「鏡で自分の顔見てたら、 たまにさっきみたいに、」
黒木大地「どうしようもなく不安定になる時がある」
桜井ひより「そう・・・・・・だったんだ」
黒木大地「お前と初めて会った時、すぐ感じたんだよ」
黒木大地「自分に自信ねぇんだな、って」
黒木大地「俺と、一緒だなって」
桜井ひより「・・・・・・」
黒木大地「お前見てたら、昔の自分見てるみたいで」
黒木大地「色々思い出して・・・・・・だから」
黒木大地「いきなり帰ったりして、悪かった」
桜井ひより「・・・・・・」
黒木大地「この辺でいいよ」
タッタッタッ
桜井ひより(何か言わなきゃ・・・・・・)
桜井ひより(大地くんは、私の為に雪に怒ってくれたのに・・・・・・)
桜井ひより(私にだけ、秘密を打ち明けてくれたのに・・・・・・)
桜井ひより(何か・・・・・・!!)
桜井ひより「まって!!」
黒木大地「?」
桜井ひより「あ、明日、ちゃんとゼミ来なよ!」
桜井ひより「じゃっ」
タッタッタッ
黒木大地「・・・・・・」
黒木大地「フッ」
桜井ひより(はぁ・・・・・・)
桜井ひより(もっと、気の利いたこと 言えれば良いのに・・・・・・)
〇講義室
翌日。
桜井ひより(やっぱり、来ないよね・・・・・・)
ガラガラッ
黒木大地「・・・・・・」
桜井ひより「あっ」
桜井ひより(大地くん!!)
スタスタスタ
ドスッ
桜井ひより(な、なんで私の隣に!?)
ザワザワザワ
山下雪「・・・・・・ちっ」
桜井ひより「・・・・・・」
黒木大地「何?」
桜井ひより「いや・・・・・・おはよ」
黒木大地「お前が言ったから」
桜井ひより「えっ?」
黒木大地「ちゃんとゼミ来いよって」
桜井ひより「!」
桜井ひより「・・・・・・クスッ」
大地くんと居れば、
自分を好きになれる気がした
<end>
若い時って外見に自分の価値を求めすぎたりしますよね。二人が出会った事で、お互いに内面の良し悪しを再確認できたようで、この後恋愛につながれば、もっと精神的に高め合う事ができそうですね。
ゼミにちゃんとやってきて迷いなく隣に座ってくるところにきゅんきゅんしました。本当は整形なんかしなくたって素敵な青年だったんだと思います!
すごく素敵な小説でした。自分に自信がない人は多いと思います。特に顔に自信があると言える人はとても少ないのではないでしょうか。でも今の時代、写真加工は簡単にできるので、ちょっとした写真を加工することはよくあります。でもそんなことを繰り返すくらいなら、美容整形をして自分に自信を持つというのもいい方法かなと思いました。自信を持てば、言いたいこともすっきり言えるし、素敵な恋愛ができそうです。