読切(脚本)
〇綺麗な図書館
日野 湊(思えば、高校に入学してからずっとあいつに振り回されてきた気がする・・・)
本を読んでいる湊が、いきなり話しかけられる。
相沢 結月「ねえ、あんた、名前は?」
日野 湊「・・・なんだ、いきなり?」
相沢 結月「いいから。名前聞いてんの」
日野 湊「・・・日野湊。クラスの自己紹介のときに言っただろ」
相沢 結月「クラス紹介のときなんて30人近くいたのよ。いちいち覚えてられるわけないじゃない」
相沢 結月「そういうあんただって、私の名前、憶えてるの?」
日野 湊「・・・・・・」
相沢 結月「ほらみなさい。相沢結月よ。よろしくね」
日野 湊「てか、どうして俺なんかに話しかけてくるんだ?」
相沢 結月「あんたさ、クラスでも、いーっつも一人じゃない」
相沢 結月「昼休みだって、いつも図書室に閉じこもってさ。友達いないんでしょ?」
日野 湊「うるさいな・・・」
相沢 結月「だから私が友達になってあげるって言ってんの」
日野 湊「あげるって・・・」
相沢 結月「じゃあ、さっそく行くわよ」
日野 湊「行くってどこにだよ?」
相沢 結月「とにかく図書室から出るわよ。ここじゃろくに話すこともできないわ」
日野 湊「いや、俺はお前と話す気は・・・」
相沢 結月「ほら、さっさと立つ!」
日野 湊「あ、ああ・・・」
湊が立ち上がる。
相沢 結月「ついてきなさい、湊!」
日野 湊「いきなり名前を呼び捨てかよ・・・」
〇田舎の学校
日野 湊「・・・結月。別にいいって」
相沢 結月「つべこべ言わないで、さっさと蹴る!」
日野 湊「はいはい・・・」
湊がボールを蹴る。
相沢 結月「ちょっと、どこ蹴ってんのよ!」
日野 湊「だから、下手だって言っただろ」
相沢 結月「こんなの練習すればすぐに上手くなるわよ」
日野 湊「そもそも、練習なんていいって。俺、サッカー部でもないんだしさ」
相沢 結月「ダーメ! あんた、この前の体育でミスして、みんなにバカにされてたでしょ」
日野 湊「・・・別に、お前には関係ないだろ」
相沢 結月「はあ? 大ありよ! 下僕のあんたがバカにされてたら、主人の私の顔が立たないっての!」
日野 湊「・・・いつの間に、俺はお前の下僕になったんだ?」
相沢 結月「ほら、練習再開するわよ!」
日野 湊「はいはい・・・」
〇公園のベンチ
相沢 結月「・・・暇ね」
日野 湊「・・・用事もないのに、呼び出すなよ。夏休みくらい、ゆっくりさせてくれ」
相沢 結月「何言ってんのよ! あんたは私の下僕なんだから、主人の私を楽しませなさい!」
日野 湊「だから、お前の下僕になったつもりはねーよ」
日野 湊「・・・って、そうだ。水族館でも行くか? 前に家のチラシに挟まってたんだ」
相沢 結月「ふーん。割引券か・・・。無料券の方がいいわ」
日野 湊「無茶言うなよ」
相沢 結月「ま、いいわ。暇を持て余すくらいなら、魚でも眺めながら涼んだ方がいいわね」
日野 湊「よし、じゃあ、行くか」
相沢 結月「ちょっと! 何、あんたが仕切ってるのよ!」
〇噴水広場
相沢 結月「・・・暇ね」
日野 湊「・・・だから、用もないのに連日呼び出すなよ」
相沢 結月「湊。あんた、ちょっと芸でもやって、私を喜ばせなさい」
日野 湊「・・・一回、殴るぞ」
相沢 結月「んー。何がいいかしらね。道具を使わないで、すぐできる芸・・・」
相沢 結月「あ、そうだ! パントマイムがいい」
日野 湊「・・・いや、パントマイムがいいって言われてもな」
相沢 結月「ほら、早くやる!」
日野 湊「はあ・・・。はいはい。・・・こうか?」
湊が壁のパントマイムをする。
相沢 結月「・・・ドヘタね」
日野 湊「やったことないんだから、仕方ないだろ」
相沢 結月「いいわ。お手本を見せてあげる。こうよ!」
結月が壁のパントマイムをやる。
日野 湊「おお。何気に上手いな」
相沢 結月「さ、やってみて」
日野 湊「え? まだ続けんの?」
相沢 結月「当たり前でしょ! 私を楽しませるくらいのレベルになるまでやってもらうわ」
日野 湊「・・・はあ」
〇噴水広場
日野 湊「・・・よっ! ほっ・・・」
湊が重い物を持つパントマイムをする。
相沢 結月「あはははは! 上手い、上手い!」
日野 湊「・・・っと」
相沢 結月「んー、今のはいまいちね。・・・こうじゃない?」
日野 湊「いや、・・・こうだろ」
相沢 結月「やるじゃない。じゃあ、これは?」
日野 湊「ならこうだ・・・」
湊と結月がパントマイム合戦をする。
いつの間にか、二人の周りには人だかりができていて、拍手を始める。
相沢 結月「へ?」
日野 湊「な、なんで囲まれてるんだ、俺たち」
相沢 結月「・・・大道芸人か何かと間違われてるとか?」
日野 湊「どうすんだよ、すごい注目されてるぞ」
相沢 結月「・・・続けるしかないわね」
日野 湊「マジかよ・・・」
〇噴水広場
パントマイムのきめポーズをする湊と結月。
相沢 結月「ありがとうございました!」
日野 湊「ありがとうございました」
観客たちが去っていく。
相沢 結月「ふふっ・・・」
日野 湊「ぷっ・・・」
「あははははははは!」
「あはははははは!」
相沢 結月「意外と楽しかったわね」
日野 湊「そうだな」
〇学校の校舎
相沢 結月「・・・・・・」
日野 湊「結月、何してる・・・って、雨か」
相沢 結月「うん・・・」
日野 湊「お前、まさか、傘忘れたのか?」
相沢 結月「うるさいわね!」
日野 湊「しゃーねーな。ほら」
相沢 結月「あんたはどうすんのよ?」
日野 湊「そこまで大降りじゃないし、走って帰るさ」
相沢 結月「それであんたに風邪ひかれたら、私が悪いみたいじゃない!」
日野 湊「じゃあ、どうすんだよ」
相沢 結月「仕方ないわね・・・」
傘をバンと開く。
相沢 結月「特別に入れてあげるわ」
日野 湊「いや、元々、俺の傘だぞ、それ」
〇住宅地の坂道
相合傘で歩く二人。
相沢 結月「ちょっと、あんた、肩濡れてるわよ」
日野 湊「しゃーないだろ。元々、一人用の傘なんだから」
相沢 結月「だったら、もっとこっち来なさい!」
日野 湊「お、おう・・・」
沈黙のまま歩く二人。
日野 湊「そういえばさ。なんで、俺だったんだ?」
相沢 結月「何の話?」
日野 湊「お前が図書館で俺に、初めて声をかけたときのこと。・・・なんで、俺だったんだ?」
相沢 結月「あのとき、言ったでしょ!」
相沢 結月「・・・あんた、友達がいなさそうだったから、気を利かせてやったのよ」
日野 湊「そっか・・・」
相沢 結月「なによ? 迷惑だった?」
日野 湊「いや。感謝してるよ」
相沢 結月「ちょ、急に気持ち悪いわね」
日野 湊「お前があの時、声をかけてくれなかったら、俺は今でもずっと一人で本ばかり読んで過ごしてただろうなって」
相沢 結月「読書を否定するつもりはないけど、せっかくの学生生活なんだもん。楽しまなきゃ損じゃない?」
日野 湊「そうだな・・・」
相沢 結月「・・・実は私も感謝してる」
日野 湊「え?」
相沢 結月「・・・偉そうに言ってたけど、私も友達いなかったから」
相沢 結月「・・・だから、同じボッチのあんたなら、友達になってくれるかなって・・・」
日野 湊「へえ・・・」
相沢 結月「って、今のなし! 恥ずっ! 私、何言ってるんだろ!」
日野 湊「そんなに恥ずかしがることか?」
〇住宅地の坂道
相沢 結月「あ、雨止んでる!」
日野 湊「え? あ、ホントだ」
相沢 結月「見て、湊! 虹!」
日野 湊「おお・・・綺麗だな」
相沢 結月「うん・・・」
日野 湊「・・・・・・」
相沢 結月「さ、私、こっちだから」
日野 湊「おう。また明日な」
相沢 結月「うん。また明日」
結月が小走りで去っていく。
〇住宅地の坂道
日野 湊「・・・あ」
ポタっと、再び雨が降ってくる。
相沢 結月「きゃっ! もう、また?」
カバンの中から傘を出して、バンと開く結月。
日野 湊「・・・あいつ、傘持ってんじゃん」
日野 湊(きっとこれからも、結月に振り回される学園生活を送るだろう)
日野 湊(けど、まあ、それも悪くないかなと思っている)
終わり。
最後の傘持ってたところを見て、色々とすごく勇気出してたんだなぁって、すごく可愛らしくて見えました。
お互い暇といいつつ、青春していますねぇ。ニヤニヤ。
不器用だけど、どこか憎めない佑月に振り回されても一人よりは楽しい。友情が芽生え、気が付けばいつも一緒…ボッチ同士の青春話。