運命を変える一撃!

郷羽 路

読切(脚本)

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郷羽 路

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〇高い屋上

〇幻想空間
  ──き・・・
  ──菜月!
  これ、起きんか!菜月!!
菜月「──ん」
菜月「・・・誰?」
  誰ではない、サッサと起きぬと本当に死んでしまうぞ!?
菜月「だって、私は死んだ筈だもの・・・」
菜月「学校の屋上から、飛び降りて・・・」
  すまん、言い方が悪かった
  お主はまだ死んでおらぬ、目を開けてくれんか?
菜月「・・・え?死んで・・・ない?」
「やぁ~っと気ぃついてくれたか」
稲荷さま「菜月、妾がわかるか?」
菜月「・・・・・・」
稲荷さま「何か突っ込んではくれぬのか?」
菜月「タヌキ?」
稲荷さま「妾はキツネじゃぞ・・・?」
稲荷さま「コホン!」
稲荷さま「妾はお主の守護精霊『稲荷さま』じゃ!」
菜月「『稲荷』?」
稲荷さま「『さま』を付けィ! たくっ、最近の若いモンは・・・」
菜月「稲荷さま、ここはどこなの?」
稲荷さま「ここはお主の精神世界、妾は時間を止めてお主に語りかけておる」
菜月「時間を止める?」
稲荷さま「うむ、妾は守護精霊」
稲荷さま「ある条件を満たすと、妾が守護する者の前に現れる事が出来るのじゃ」
菜月「その条件って・・・」
稲荷さま「その者が死ぬ間際に現れるというものじゃ」
菜月「やっぱり死ぬんじゃない」
稲荷さま「まぁまぁ、お主の願い事一つで命が助かるやもしれぬのじゃぞ?」
稲荷さま「寿命や病死の際は、魂をあるべき場所へと 届けるだけじゃが」
稲荷さま「事故や自害、障害による不慮の死ならば」
稲荷さま「こうしてお主を助ける事が、可能になるのじゃ」
菜月「命なんて、助からなくていい」
菜月「私は死ぬつもりなんだから」
稲荷さま「あくまで『死』を望むか・・・」
稲荷さま「しかし妾は守護精霊、対象者を救わねばならぬ」
稲荷さま「どうせ、時間が動けば死ぬのじゃ」
稲荷さま「その理由を聞かせてはくれぬか?」
菜月「・・・・・・」
稲荷さま「まぁ言いたくないのも、無理ないか」
稲荷さま「惚れた男に捨てられたなんてのぅ?」
菜月「!?」
稲荷さま「しかもその理由は」
稲荷さま「他のおなごを好いとるという、戯けた理由」
菜月「なっ・・・何故・・・」
稲荷さま「それは妾が、お主の『守護精霊』だからじゃよ」
稲荷さま「守護精霊は、人の子がこの世に生を受けてから」
稲荷さま「対象者の人生を見守る役目があるのじゃ」
稲荷さま「守護精霊は必ず一人付いておる」
菜月「稲荷さま、本当に私の事を見守ってきたというなら」
菜月「私が死にたい理由が、わかりますよね?」
稲荷さま「だが、お主に『未練』があろう?」
菜月「!?」
稲荷さま「『未練』がなければ、妾がお主の前に語りかけることは、まずあり得ん」
稲荷さま「お主自身が『未練』を認めれば、妾はお主を救えるやもしれぬ」
稲荷さま「さぁ、話してみるがいい」
稲荷さま「さすればその『未練』、断ち切ることができよう」
菜月「・・・・・・」

〇学校の校舎
  ──私には『滉』という彼氏がいたの。
  私にとっては、初めての彼氏。
  彼とは中学の頃から付き合っていて、
  成人式を迎えたら、そのまま結婚しようと誓いあった仲だった。
  ──だけど

〇教室
滉「悪いけど別れてくれ」
菜月「え?」
滉「他に好きな奴ができた」
菜月「滉、それってどういう・・・」
美月「ごめん、菜月ちゃん」
菜月「美月っ!?」
  『美月』は私の双子の姉だ。
  昔から体が弱かったので、中学まで病院暮らしをしていたのだ。

〇学校の校舎
  中学卒業時に美月は退院して、
  私と同じ高校に入学したの。
  美月自身は元々人見知りだったので
  いつも私の傍にいたのだ。

〇一戸建て
菜月「滉、紹介するね!双子の姉の美月だよ」
滉「え?菜月って双子だったのか?」
菜月「ビックリしたでしょ?」
美月「初めまして、滉くん」
美月「菜月ちゃんの姉の美月です」
美月「妹共々、これからよろしくお願いします」
滉「お、おう・・・よろしく・・・」
  まさか滉が、あの後美月に乗り換えるなんて
  思いもよらなかったの。

〇幻想空間
菜月「他の人ならまだしも」
菜月「同じ顔した姉に彼氏を奪われるなんて・・・」
稲荷さま「いてもたってもおれずに、身投げしたということじゃな」
菜月「自分をフッた男に対して、」
菜月「将来『義兄さん』と呼ぶくらいなら、死んだ方がマシよ・・・」
稲荷さま「あいわかった」
菜月「『愛は勝った』ですって!? アンタ、何様──」
稲荷さま「『稲荷さま』じゃっ!!」
稲荷さま「『あいわかった』は、『理解した』という意味じゃ!無礼者!」
菜月「あ、ごめんなさい・・・」
稲荷さま「たくっ!」
稲荷さま「話を聞く限り、男の方を懲らしめるべきと妾は思うがどうじゃ?」
菜月「滉を?美月は・・・」
稲荷さま「姉君はまだ世間知らずの小娘じゃ」
稲荷さま「男に利用されているのにも気付いておらぬ」
稲荷さま「お主たちは男にとって、ただの玩具」
稲荷さま「お主をフッたのは単に飽きただけじゃ」
稲荷さま「次は姉君が捨てられる・・・」
菜月「どうすればいいの?」
稲荷さま「妾が時間を戻してやろう」
稲荷さま「フラれる前にフッてやればよい」
稲荷さま「奴を身投げさせるのも一興じゃが」
菜月「・・・殺人犯にはなりたくないわ」
稲荷さま「では、時を戻そう」
稲荷さま「自分が思う行動をすればよい」
稲荷さま「言っておくが、死ぬのを助けるのは 1度キリじゃからな」
稲荷さま「絶対死ぬなよ」

〇教室
菜月「・・・ここは?」
「菜月、ここにいたのか!」
菜月「滉・・・」
滉「ちょうど、お前に話したいことがあって・・・」
菜月「私に飽きたから、今度は美月と恋人になる気なの?」
滉「なんだと?」
菜月「美月、いるんでしょ?」
美月「菜月ちゃん・・・」
菜月「滉、アンタって最低ね!」
滉「いきなりなんだ!?俺は何もしてねえぞ!」
菜月「私がいながら、美月とも付き合っていたのでしょう?」
滉「な、何言ってんだよ?俺は菜月一筋だぜ」
美月「滉くん、私のことは遊びだったってこと?」
滉「み、美月・・・」
菜月「ハッキリしない男ね!」
滉「──いってぇ・・・」
菜月「美月、こんな男と付き合いたいなら勝手にすればいい」
菜月「次に傷つくのはあなただけどね」
美月「菜月ちゃん・・・」

〇幻想空間
稲荷さま「──どうやら決着ついたようじゃ」
稲荷さま「美月の方もあの男を見限れただろう」
稲荷さま「妾も守護精霊として、また『姉妹』を見守ろう」
稲荷さま「引き続き、菜月を頼むぞ『妹』よ」
稲荷さま「そちらも美月のことよろしく頼むぞ 『姉者』」
  妾は、『守護精霊』。
  ずっと見守っておるからな・・・

コメント

  • 衝動的な自殺も多いと思うので、このように守護霊が語りかけて時間を戻してくれるシステムが本当にあったらどんなにいいかと思います。稲荷さまと菜月の会話も、有能なカウンセラーと今時の高校生という感じで微笑ましかったです。

  • 守護霊はいると私は思っています。というかそう思いたいのかもしれませんが…。
    自分から命を投げ出すのはちょっと…とは思いますが、双子の姉に、となると気持ちもわからないでもないですね…。

  • 自死したらダメ…いうのは簡単だけど理由は様々。その時は辛くてどうしようもなかったんだろう。でも、考え直してくれてよかった。今度は誠実な人を見つけて姉妹仲良く。

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