秘密(脚本)
〇警察署の廊下
坂本「あとはこの資料を鑑識に渡して・・・と」
阿久津「よう、坂本」
坂本「あ、阿久津さん!?」
阿久津「久しぶりだな! 見ねぇうちにすっかり刑事の背中しやがって」
坂本「いつこちらに?」
阿久津「本日付で捜査一課に復帰だ」
阿久津「また俺の尻拭い、よろしく頼むわ」
坂本「もう勘弁してくださいよー あの時は大変だったんですから」
阿久津「許せ許せ こっちだって島流しくらったんだ」
坂本「とにかく、 また一緒に働けて光栄です」
阿久津「おう」
阿久津「それでどうだ? 例の主婦」
坂本「取り調べに素直に応じています 事件当日の足取りはほぼ掴めました」
阿久津「そうか」
坂本「しかし・・・」
坂本「三島杏奈との関係については 一切話そうとしないんです」
阿久津「黙秘してるのか?」
坂本「いや、黙秘というか 一言だけ・・・」
阿久津「なんだ」
坂本「“いずれわかる“と言っています」
〇黒
“いずれ私の家族が真実に辿り着く”
と・・・。
〇警察署の廊下
阿久津「家族、か・・・」
坂本英二「被害者は岡部家と何か深い関係があったのでしょうか?」
阿久津「まずは二人の関係性を徹底的に調べる必要があるな」
坂本英二「今、所轄が聞き込みを行なっています」
阿久津「よし、俺たちも向かおう」
坂本英二「刑事は足で捜査する、でしたね」
阿久津「よく覚えてるじゃねぇか」
坂本英二「もちろんです」
阿久津「お前、いつ履き潰れてもいいように 何足か靴買っておけよ」
阿久津「この事件、そんじょそこらの殺人とは違うにおいがする・・・」
坂本英二「どこにでもいる平凡な主婦と 一世を風靡した人気女優・・・」
坂本英二「普通に考えたら 接点なんてなさそうですけどね」
阿久津「そんなことないさ」
阿久津「お前も俺も、オギャーと生まれた瞬間から刑事だったわけじゃねぇだろ?」
坂本英二「はぁ・・・そうですが」
阿久津「刑事ヅラして青春時代をおくってたか?」
坂本英二「まさか! 刑事という仕事に憧れはありましたけど」
坂本英二「学校サボったり、夜遊びして補導されたり・・・刑事になった今じゃ胸を張って言えないことばかりです」
阿久津「俺もそうさ バイクにケンカ・・・ヤンチャのかぎりを尽くしたもんだ!意外だろ?」
坂本英二「いえ・・・想像通りというか」
阿久津「とにかく」
阿久津「人には昔の顔があるってことさ」
そいつを捨てながら人は生きている
昔の顔を捨てたから、今の自分がいるんだ
阿久津「だから彼女たちにもあるはずさ」
〇黒
岡部明日香には
主婦になる前の顔が
三島杏奈には
女優になる前の顔が
捨てたはずの昔の顔が・・・
〇警察署の廊下
阿久津「それを見つけることが 事件解決につながる」
坂本英二「はい!」
〇ダイニング
岡部明日香、出頭の2時間前...。
岡部明日香「じゃあお母さん行くから 後のことはよろしくね」
岡部遼平「母さん、マジで出頭するの?」
岡部明日香「よく考えたら捕まるのは時間の問題だと思って」
岡部明日香「もし朝早くにパトカーが来たりしたらご近所迷惑でしょ」
岡部明日香「遺体もそろそろ見つかるんじゃないかしら」
岡部遼平「・・・」
岡部明日香「スコップはガーデニン用のしか持ってないから、上に土をかぶせただけで帰ってきちゃったのよ」
岡部明日香「今ごろ、顔くらいは出ちゃってるわね」
岡部勇作「お・・・お前というやつは・・・!」
岡部明日香「だって、これだけのためにスコップ買うなんてもったいないじゃない」
岡部明日香「それとも、あなたの秘密の口座から買えばよかったかしら?」
岡部遼平「秘密の口座? それってヘソクリ?」
岡部勇作「い、今はそう言うことを話してるんじゃない・・・!」
岡部節子「んんーっ!夕飯はまだかね!」
岡部真里奈「おばあちゃんさっき食べたでしょ?」
岡部勇作「お前、罪を犯す前に俺たち家族の顔は浮かばなかったのか? 真里奈も遼平の将来は?俺の仕事は?」
岡部勇作「母さんは何をするにも介助が必要で、少し前から認知症も出ている」
岡部勇作「お前の勝手な行動で、どれだけみんなに迷惑かかると思ってるんだ!」
岡部真里奈「もういや!最悪よ!明日から学校も行けない!」
岡部遼平「俺だって友達になんて言われるか・・・!」
岡部明日香「ふふふ・・・」
岡部勇作「明日香!何がおかしいんだ!」
岡部明日香「あなたたちったら やっぱり自分の心配ばかりなのね」
岡部勇作「当然だろ!俺が仕事の心配をして何が悪い! 金がなけりゃ生活できないだろ!」
岡部明日香「あら変ねぇ あなたに秘密の口座には、愛人に送金するほどお金があるのに?」
岡部遼平「え? お父さんに愛人ってどういうこと??」
岡部勇作「ご、誤解だ!」
岡部真里奈「サイテー・・・」
岡部明日香「真里奈は学校なんてほとんど行ってないじゃない パパ活って随分忙しいのね」
岡部真里奈「!?」
岡部遼平「マジかよ、姉貴」
岡部真里奈「い、いや!違うの!」
岡部明日香「遼平に本当の友達なんているのかしら みんなは遼平のお金が目当てなんじゃない?」
岡部遼平「な、なんのことだよ・・・」
岡部明日香「あの”先生”から、いくら騙し取ったの?」
岡部遼平「なんで・・・それを・・・」
岡部明日香「お母さんね、みーんな知ってるの あなたたちの秘密」
岡部真里奈「・・・」
岡部遼平「・・・」
岡部勇作「・・・」
岡部明日香「こんな家族・・・」
岡部明日香「もう、うんざり!」
岡部勇作「お前・・・」
岡部遼平「母さんがそんなふうに思ってたなんて・・・」
岡部明日香「でもね 心の底から軽蔑できなかった」
岡部明日香「裏切りも嘘も、憎めなかった」
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前話での家族団欒シーンが表層的なものであうえ、家族それぞれに疚しい秘密があるという暴露、背筋がゾッとしました。母親の静かなる狂気、恐るべしです!