民事介入刑事クジョウ

犬項望

車の価値は人間の価値?(脚本)

民事介入刑事クジョウ

犬項望

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〇住宅街
塩崎朝香「やほー! 筋斗雲での初出勤だ!」
母「朝香、筋斗雲って何?」
塩崎朝香「夕べ届いた車の名前だよ」
母「ニックネームってこと?」
塩崎朝香「高かったけど一生懸命に働いて買ったんだ 愛着も湧くよ!」
母「朝香は本当に車が好きねえ」

〇駐車車両
塩崎朝香「おーい、筋斗雲―!」
塩崎朝香「筋斗雲よぉーい?」
塩崎朝香「あれ、ない! 筋斗雲?」
塩崎朝香「まさか、盗まれた!? 鍵は家の中に置いておいたのに!?」
塩崎朝香「とりあえず警察に通報!」
塩崎朝香「はい、そうです! 車種はそれです!」
塩崎朝香「え、もう見つかった!?」

〇学校脇の道
塩崎朝香「筋斗雲・・・?」
久城巡査「無惨なお姿に」
美濃警部「典型的な自爆事故だな」
久城巡査「運転手が無事なのは奇跡ですわね」
塩崎朝香「うぅ・・・筋斗雲 まだ出会ったばかりだったのに」
久城巡査「この車の所有者は朝香様」
久城巡査「それが盗まれたあげく 事故に遭ったのですわね?」
塩崎朝香「はい」
塩崎麻夜「人聞きの悪いこと言わないでよ!」
塩崎朝香「麻夜姉さん!」
久城巡査「彼女が事故時の運転手です」
塩崎朝香「姉さんが盗んだの?」
塩崎麻夜「盗んでなんかいない、借りただけよ!」
塩崎朝香「私に一言も断らずに!?」
塩崎麻夜「家族のものなのに断る必要があるの?」
塩崎朝香「一生懸命に働いて ようやく買えたんだよ! 弁償して!」
塩崎麻夜「あんたの車なのに 何で私がお金を出すのよ?」
塩崎麻夜「甘えないで! 自分で何とかなさい!」
塩崎麻夜「そしたらまた借りてあげるわ」
塩崎朝香「姉さんは いつもそうやって!」
塩崎朝香「これって弁償が義務ですよね おまわりさん!」
美濃警部「悪いな、これは家族間トラブル 警察は介入できねえんだ」
塩崎朝香「そんな」
久城巡査「・・・」
美濃警部「久城 お前まさか」
塩崎朝香「どうしたんです?」
美濃警部「この久城って女は 異常におせっかいなんだ」
美濃警部「警官が首突っ込んじゃいけない案件に やたら突っ込みたがるんだよ」
久城巡査「民事介入いたします!」
美濃警部「やっぱりか」
塩崎麻夜「何よ?」
久城巡査「”盗んでいない勝手に借りただけ” そうおっしゃっていましたわね?」
久城巡査「それって泥棒の常套句」
久城巡査「周囲からの信頼をなくす 呪いの言葉ですわ」
塩崎麻夜「私を泥棒扱いするの!?」
久城巡査「人としての誇りがあるなら 二度と口にしないほうがよろしくってよ」
塩崎麻夜「くっ、この婦警!」
塩崎麻夜「どこの署? 名前と階級を言いなさい!」
塩崎麻夜「あんたのとこの署長に 苦情を言ってやるから!」
美濃警部「こんな感じだ、苦情まみれの 久城(クジョウ)ってな」
塩崎朝香「はぁ」
美濃警部「あと朝香さん あんたも少し無防備だぜ」
美濃警部「手癖の悪い家族と暮らしているなら 気を付けな」
塩崎朝香「反省します・・・ 新車に浮かれて油断してしまいました」
塩崎朝香「けど姉を警戒する生活ももう少しです」
美濃警部「何かあるのか?」
塩崎朝香「結婚して実家を出るんです」
久城巡査「まあ、おめでとうございます!」
塩崎朝香「ありがとうございます」
塩崎朝香「新車が無惨な姿になった前で 祝われると、微妙ですけど」

〇住宅街
  半年後
  私が塩崎朝香から甘木浅香になって
  初めての里帰り
甘木朝香「懐かしき実家!」
甘木朝香「姉さんは同窓会だって 母さんに聞いたし」
甘木朝香「安心して里帰り・・・」
甘木朝香「ね、姉さん!?」
甘木朝香「今日は同窓会じゃないの?」
塩崎麻夜「待っていたのよ あんた車マニアでしょ?」
塩崎麻夜「また良い車に乗ってきたら 借りようと思ってね」
甘木朝香「貸さないよ! 筋斗雲のこと忘れたの!?」
甘木朝香「当分は欲しい車なんて買えない! 今は中古の軽自動車だよ!」
塩崎麻夜「使えない子ね」
塩崎麻夜「けどあなたにはボロ車がお似合いよ」
甘木朝香「筋斗雲を壊しておいて、よくも!」
塩崎麻夜「いい? 真理を教えてあげる」
甘木朝香「何の?」
甘木朝香「車で人は解る 乗っている車が、人間の価値なの」
甘木朝香「はあ?」
塩崎麻夜「相応しくない人間が持ち主になったから」
塩崎麻夜「あの車は自責の念に駆られて 自爆してしまったのよ!」
甘木朝香(何、その超理論)
塩崎麻夜「分不相応な車を買ったあんたが悪いの! 私のせいにしないで!」
塩崎麻夜「あら、素敵な車!」
塩崎麻夜「ああいう車には 必ずハイクラスな人間が乗っているの!」
塩崎麻夜「あの車なら 同窓会にエスコートしてもらってもいいわ」
甘木朝香「あの車って赤兎馬のこと?」
塩崎麻夜「赤兎馬?」
甘木朝香「私の旦那の愛車のニックネームだよ」
塩崎麻夜「え?」
甘木朝香「そういえば姉さんは 宗幸さんに会ったことなかったね」
甘木朝香「妹に先を越されたのが悔しくて 結婚式にも出てくれなかったから」
塩崎麻夜「嘘、あんたの夫がハイクラス!?」
塩崎麻夜「いや、でも、そんな!?」
塩崎麻夜「いやぁぁぁ」
甘木朝香(見下していた妹に幸せを見せつけられ ショックだったみたいね)
甘木朝香(本当は年収は並で、私と同じく車に 全力投球しているだけなんだけど)
甘木朝香(黙っていれば姉さん 大人しくなってくれるかも)
塩崎麻夜「・・・」
塩崎麻夜「ふふん、朝香 マウントとっていられるのは今だけよ」
塩崎麻夜「私、結婚相手が決まったから!」
甘木朝香「え? おめでとうございます」
甘木朝香「どんな人?」
塩崎麻夜「あの車に乗っている男よ」
甘木朝香「・・・」
甘木朝香「私の夫ですけど?」
塩崎麻夜「貰ってあげる」
甘木朝香「?」
塩崎麻夜「だーかーらー」
塩崎麻夜「あんたの夫を 私が貰ってあげるって言っているの!」
塩崎麻夜「あの車に乗っているんだから 高年収イケメンでしょ」
塩崎麻夜「それって私の理想の男だから」
塩崎麻夜「持ち主が私のものになるんだから あの車も私のものよね♪」
甘木朝香(昔から“欲しい”と思った瞬間に 脳内で所有権が自分に移る癖があったけど)
甘木朝香(私に結婚の先を越されてから ますますおかしくなってる)
塩崎麻夜「家族間なら盗んでも逮捕されないのは 前回で実証済!」
塩崎麻夜「朝香の夫を寝取っても 問題にならないってことよね!」
「朝香、その方は?」
甘木朝香「あ、幸宗さん こちらが姉の麻夜です」
甘木幸宗「はじめまして麻夜さん 朝香の夫の幸宗です」
塩崎麻夜「・・・」
塩崎麻夜「こ、こっ」
塩崎麻夜「この泥棒!」
甘木幸宗「泥棒!?」
塩崎麻夜「ブサメンが こんな良い車に乗れるわけがない!」
塩崎麻夜「イケメンから盗んだんでしょ!」
甘木幸宗「酷い・・・ 自分が不細工なのは知っていたけど」
甘木幸宗「朝香とドライブしようと 頑張って働いて買ったのに」
甘木朝香「姉さん、謝って! 幸宗さんは繊細なんだよ!」
塩崎麻夜「黙れ! 泥棒夫婦が!」
塩崎麻夜「鍵をよこしなさい!」
甘木幸宗「あ!」
塩崎麻夜「本来の持ち主に返してあげるわ!」

〇高級住宅街
甘木幸宗「俺の赤兎馬―! 返せー!」
甘木朝香「警察に通報しないと!」

〇学校脇の道
  そして悲劇は繰り返された
甘木幸宗「赤兎馬ぁぁぁ!」
久城巡査「無惨なお姿に」
美濃警部「典型的な自爆事故だな」
久城巡査「運転手が無事なのは奇跡ですわね」
久城巡査「また“無断で借りた”ですか? 麻夜様?」
塩崎麻夜「嫌なことを覚えているわね この婦警!」
塩崎麻夜「あんたに泥棒扱いされたから その台詞は二度と使わないわよ!」
塩崎麻夜「あんたたちは誤解しているわ 今回は盗んでも借りてもいない」
塩崎麻夜「本来の持ち主に返そうとしただけなの!」
甘木朝香「返すって誰に? 幸宗さんの車ですよ?」
塩崎麻夜「イケメンに、よ!」
塩崎麻夜「同窓会に出席するイケメンたち 医者や弁護士になった人もいるわ」
塩崎麻夜「彼らの中で 一番似合う男に車を貢ぐの!」
塩崎麻夜「きっと喜んでくれる! それで私と結婚決定!」
塩崎麻夜「相手は嬉しい、私は幸せ! 朝香とブサメン夫は文句を言えない!」
塩崎麻夜「皆が得する 完璧なシナリオでしょ♪」
甘木朝香「妄想がひどすぎる」
塩崎麻夜「あー、もうこんな時間!」
塩崎麻夜「同窓会に急がないと イケメンを盗られちゃう!」
久城巡査「お待ちください 事情聴取はこれからです」
塩崎麻夜「しつこいわね!  去年署長に苦情を言ったのに 何であんたクビにならないの!?」
塩崎麻夜「けど今度でトドメよ! 結婚の邪魔をしたって言いつけてやる!」
塩崎麻夜「クビが嫌なら私を解放しなさい!」
久城巡査「お断りしますわ」
塩崎麻夜「ん? あんた金持ちっぽい喋り方ね?」
久城巡査「久城家の人間としての嗜みです」
塩崎麻夜「都合がいいわ! 紹介しなさい」
久城巡査「紹介?」
塩崎麻夜「車の値段は1000万円以上! 男は年収1000万円以上!」
塩崎麻夜「1000万クラスの車で 1000万クラスの男にエスコートされて 同窓会に会場入りしたいの」
塩崎麻夜「同窓生たちに 羨ましがられるわ!」
塩崎麻夜「それができたら 泥棒扱いしたことは許してあげる!」
甘木朝香「姉さん、何を馬鹿な」
久城巡査「1000万円クラスの車、1000万円クラスの男性のエスコートですか?」
久城巡査「そうですねえ、心当たりは・・・」
甘木朝香「久城さん 真面目に考えないで!」
久城巡査「分かりました、ご用意いたしましょう」
久城巡査「ご希望通りに用意したら 事情聴取に応じていただけますか?」
塩崎麻夜「いいわよ どうせ少し話せば終わりでしょ?」
塩崎麻夜「去年と同じで 車の弁償もしなくてすむものね」
甘木幸宗「弁償してもらえないの?」
甘木朝香「私は踏み倒されました」
美濃警部「まあ見てなよ、新婚さんたち 世の中そう絶望したもんじゃないぜ」

〇開けた高速道路
塩崎麻夜「何よ、この車!?」
久城巡査「麻夜様ご希望のお車ですわ」
久城巡査「我が警視庁の誇る高額車 選ばしものしか乗ることのできない車」
久城巡査「世にも名高きその名は」
久城巡査「護送車!」
  注意:あくまでイメージであり
  実際の護送車とは異なります
久城巡査「価格は約1200万円!」
塩崎麻夜「割と高い!」
塩崎麻夜「けどそうじゃない!」
「まあそう言うなよ お望み通にエスコートしてやるから」
塩崎麻夜「誰?」
久城巡査「我が署の水鏡署長です」
水鏡署長「警察署長は年収1000万クラスだ お望み通りだろ?」
水鏡署長「事情聴取ついでに 護送車で会場にエスコートしてやる」
「名誉棄損よ! 犯人でもないのに護送車に乗せるなんて」
塩崎麻夜「どうせ前と同じで 逮捕できないくせに!」
久城巡査「ええ、前回は家族間の問題で 処理されてしまいましたわね」
久城巡査「けれど今、妹様は結婚されて 別家族になっておられます」
久城巡査「まして所有者はその配偶者様! 麻夜様とは他人です!」
久城巡査「お逮捕させていただきます! 麻夜様は犯罪者様ですわ!」
塩崎麻夜「いやあ!」
甘木朝香「赤兎馬は しっかり弁償してもらいますよ!」
塩崎麻夜「助けてお母さんー! 警察と朝香がいじめるのー!」
母「あんた家の金も使い込んでいたね」
母「娘だと思って見逃していたけど 今回のことで愛想がつきた」
母「絶縁だよ!」
塩崎麻夜「うあああ!」

〇テラス席
水鏡署長「同窓会はこの店だな?」
水鏡署長「同窓生に護送車から降りてくる 君を見てもらえ」
同窓生A「何だ、あれ護送車か?」
同窓生B「あれ麻夜じゃないか?」
同窓生C「性格悪かったもんね いつかやると思ってた」
塩崎麻夜「いや! いや! 見ないで!」
水鏡署長「みんなの注目の的だ! マウントがとれるぜ!」
塩崎麻夜「いやぁぁぁ!」
水鏡署長「その分だと余罪がいろいろありそうだ 皆に事情聴取してやる」
塩崎麻夜「やめて これ以上は・・・」
水鏡署長「車の価値が人間の価値なんだろ?」
水鏡署長「護送車が似合うレディさん?」

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