公爵令嬢は謀殺された婚約者を愛し続ける

天音

第四話(脚本)

公爵令嬢は謀殺された婚約者を愛し続ける

天音

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〇教会の中
エリス「【唯一神アノー】の御名において。 光よ、この者の傷を癒したまえ」
農民「おお! オラの右腕が治っただよ」
農民「確かに骨が折れてたはずなのに」
エリス「よかったですね」
農民「ありがたやー 聖女様、ありがとうございますだ」
エリス「感謝の言葉は神様にお願いします」
エリス「私は神様のご慈悲をあなたに届けただけなので」
農民「神様にも聖女様にも感謝しますだ。 ありがたやー」
エリス「うふふ、ありがとうございます」
司祭「次の方、こちらへどうぞ」
  司祭の声に従って、治療を終えた農民のおじさんが部屋を出ていき、次の患者さんが入ってくる。
  私が聖教会に滞在するようになってから三日が過ぎた。
  私は聖女のお務めとして、光魔法での怪我人の治療を毎日行っている。
エリス「ふぅ」
  治療を求めて教会にやってくる人の数はけっこう多い。
  毎日、午前中はひっきりなしに治療を行っている。
大司教「お疲れ様です。聖女様」
  お昼の鐘が鳴り、本日最後の患者さんの治療が終わった頃、大司教が部屋に入ってきた。
エリス「大司教様、こんにちは」
大司教「毎日、大変でしょう。 治癒の魔法を使い続けて疲れてませんかな?」
エリス「今日は軽症の方ばかりだったので初級の魔法しか使っていませんし平気です」
大司教「それにしても驚きましたな。 まさか聖女様が稀少な光属性の魔法を使えるとは」
  聖教会で聖女としての仕事をするにあたって、私が治癒魔法による医療行為を行いたいと申し出ると、
  聖教会側からとても驚かれた。
  それはそうだろう。
  私はゼクスが聖教会に賄賂を贈って【聖女】の称号をお金で買った、
  名ばかりの聖女だと思われていたのだから。
  まさか使える者が非常に少ない光属性の魔法の使い手だとは思っても見なかっただろう。
  聖教会の予定としては、私には聖女として形だけ神像の前で祈りを捧げる儀式を行わせる予定だったらしい。
「うふふ。 お役に立てて光栄です」
大司教「いやはや、これではまるで本物の・・・・・・い、いやさすが聖女様ですな」
エリス「ありがとうございます」
  大司教は『まるで本物の聖女のようだ』と言いたかったのだろう。
  光属性の魔法を使えるというのはそれだけ特別視される人間なのだ。
  だからこそ、父は・・・・・・ノエル公爵家は私が光属性の使い手であることを公表しなかった。
  世間から注目されて私の地位が向上することを恐れたのだと思う。
エリス「では、私はこれで失礼しますね」
大司教「ええ。 お疲れ様でした」
  私は大司教に一礼して部屋を後にした。

〇結婚式場のテラス
エリス「・・・・・・」

〇神殿の広間
エリス「・・・・・・」

〇洋館の廊下
エリス「・・・・・・」
  聖教会が治療を受付ているのは午前中だけ。
  お務めが終わると私は午後から自由行動になる。
  私は【最後の鍵】の手がかりを求めて毎日、聖教会の中を歩き回っていた。
  だけど・・・・・・

〇暖炉のある小屋
エリス「はぁ、今日も収穫なしか」
  私は自室に戻って来て机に突っ伏した。
  広い聖教会の中を当てもなく歩き回った所でなんの手掛かりも見つからない。
  そもそも【最後の鍵】が何なのかもわからないのだから当然といえば当然だ。
  結果が出ずに時間だけが浪費されていき気持ちが焦る。
エリス「どうすれば良いんだろう?」
エリス「うー、誰か助けてー」
  つい弱音が口からこぼれ出る。
ドロテア「まぁ、一度落ち着いてお茶でもいかがですか?」
エリス「ありがとー」
  机の上に置かれた紅茶の香りに疲れた心が癒される。
ドロテア「お茶請けには、かぼちゃのクッキーをご用意しました♪」
エリス「あまーい。おいしいー」
  紅茶の隣に置かれたクッキーを一つ口に運ぶと、優しい甘さが口の中に広がった。
ドロテア「何かお悩みのようですが私でよろしければ力になりましょう」
エリス「ありがとう。 助かるわ・・・・・・って、え?」
エリス「きゃあああ!!」
エリス「だだ、誰? どうして私の部屋にいるのよ!?」
  ぼーっとしていて部屋の中に知らない人がいるのに気がつかなかった。
  それどころか、その人が用意したクッキーを口に入れてる!!
  我ながらお馬鹿すぎる。
エリス「誰か来てー!! 不審者よー!!」
ドロテア「不審者? お任せください」
ドロテア「私が速やかに排除致します」
エリス「あなたのことよ!!」
ドロテア「なんと? 私は不審者ではありませんよ?」
エリス「いつの間にか人の部屋に入って来てる時点で不審者でしょうが!!」
ドロテア「私はエリス様にお仕えするために王宮からやって参りました」
エリス「王宮からって・・・・・・え?」
  驚きが強すぎて相手の顔をよく見てなかった。
  改めて部屋の中にいた不審者の顔を見て・・・・・・驚く。
エリス「どうして貴女がここに・・・・・・?」
  私の目の前にいるのは、ルクスを裏切って陥れた側近の一人・・・・・・

〇黒
  ドロテア=サドだった。

〇暖炉のある小屋
ドロテア「改めて自己紹介を。 サド侯爵家のドロテア=サドでございます」
  ドロテア=サドは優雅なカーテシーをしながらそう名乗った。

〇黒
  ドロテア=サド。
  ソレンヌ王国において代々宰相を務めるサド侯爵家の令嬢であり、現宰相ロベール=サドの一人娘。
  女性の身でありながら、その能力はサド侯爵家歴代最高の頭脳と噂され【神算鬼謀】の異名を持つ天才。
  ただし、その性格は極めて変人。
  いつも使用人用のメイド服に身を包み、素顔を仮面で隠している突拍子もない人物だ。

〇暖炉のある小屋
エリス「それで? 貴女の目的は何?」
ドロテア「先程も申しました通りエリス様にお仕えするために参ったのですわ」
ドロテア「メイト兼護衛として、何なりとお申し付けください」
エリス「侯爵家の令嬢でありゼクスの側近である貴女が何でそんな仕事を?」
ドロテア「聖女であり王太子の婚約者でもあるエリス様が護衛もつけずに行動なさっているのが」
ドロテア「王宮内でも問題視されておりまして」
ドロテア「私が立候補させていただきました♪」
エリス「そう。ゼクスが私につけた監視というわけね」
ドロテア「いいえ? 全然違います」
エリス「え?」
ドロテア「ゼクス殿下に仕えるのには飽きたのでエリス様に鞍替えしたのですよ♪」
エリス「な、何を言っているの?」
ドロテア「言葉通りの意味ですよ」
エリス「そんな・・・・・・ だって貴女は、わざわざルクスを裏切ってゼクスの側についたんじゃないの?」
ドロテア「私は父に言われて王太子の側近を勤めているだけですよ?」
ドロテア「ルクス殿下が亡くなられたので、ゼクス殿下に仕えましたが、あの方はつまらないのでポイっです」
  ドロテアは平然とした顔でとんでもないことを言っている。
ドロテア「今、一番面白そうなのはエリス様なので・・・・・・」
ドロテア「私がお味方して差し上げることにしました♪」
エリス「それを・・・・・・私に信じろと?」
  ドロテアの言葉をすんなりと受け入れることは出来ない。
  さっきまで私はドロテアを敵だと思っていた。
  ルクスを裏切って、その死に関わった仇の一人。
  それをドロテアの言葉だけであっさりと味方になっただなんて思えない。
ドロテア「『最後の鍵は大聖堂の中に』」
エリス「なっ!?」
エリス「どうしてその言葉を?」
  あの手紙の存在は私以外に誰も知らない。
  内容を盗み見されないようにいつも懐に入れて持ち歩いている。
  それをどうしてドロテアが?
ドロテア「あれはルクス様が殺された日の夜に呟いていた言葉なんですよ」
エリス「え?」
ドロテア「あの手紙を書いたのは私です」
「そんな・・・・・・」
  手掛かりと思っていた情報が敵側のドロテアからのものだったなんて・・・・・・
ドロテア「ルクス殿下の死に関しては色々と謎が多すぎますからねー」
ドロテア「その謎を解き明かすのはとても面白そうです」
ドロテア「エリス様、私と一緒に謎を解き明かしませんか?」
  ドロテアはそう言ってにこやかに手を差し出した。

次のエピソード:第五話

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