公爵令嬢は謀殺された婚約者を愛し続ける

天音

第三話(脚本)

公爵令嬢は謀殺された婚約者を愛し続ける

天音

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〇華やかな裏庭
  大聖堂でルクスとの婚約者破棄を宣誓した翌日。
  私は新たな王太子となったゼクスに呼び出されて王宮の中庭でお茶を飲んでいた
ゼクス「くくく。 どんな気分だ?」
  ルクスを蹴落として王太子になるという望みを叶えたゼクスはこの上なく上機嫌だった
  ニタニタと下卑た笑みを浮かべながら私の顔を覗き込んでくる。
エリス「どんな気分、とは?」
ゼクス「婚約者であったルクスを裏切って、その政敵であったオレの婚約者となった気分だよ」
エリス「・・・・・・くっ」
  今はまだ従順なふりをしなくてはいけない・・・・・・
  わかっているのに怒りと屈辱で表情が歪む。
  ゼクスを睨み付けたくなる衝動を必死に抑え込んで目を伏せる。
ゼクス「隠さなくてもいいぞ」
エリス「え?」
ゼクス「お前はルクスのことを想い続けたままルクスの敵であるオレのものになる」
ゼクス「そしてルクスを愛しながらオレに抱かれるのだ」
ゼクス「その時の屈辱にまみれるお前の表情を想像するだけでゾクゾクする」
エリス「・・・・・・下衆な」
ゼクス「だったらどうする? オレとの婚約を取りやめるか?」
ゼクス「公爵家に戻ってもお前の居場所などないぞ」
ゼクス「また虐待の日々に戻りたいのか?」
エリス「・・・・・・・・・・・・いいえ」
  ルクス死亡の報せを受けた後、私に接触してきたゼクスが示した条件が公爵家からの保護だった。
  私はルクスの後ろ楯を失った。
  ノエル公爵家の面々は、再び私を虐待するだろう。
  それが嫌ならばルクスの名誉を穢してゼクスが王太子の座を手に入れる手助けをしろ。
  そうすれば新たな王太子の名のもとに公爵家の虐待から守ってやろう、と。
ゼクス「ふっ。 自分の立場がわかっているじゃないか」
  ゼクスは席を立って私の側まで近づいてきた。
エリス「い、いやっ」
  ゼクスは強引に私を立たせて、肩を抱こうとする。
  思わず拒絶の言葉が出た。
  ゼクスは構わずそのまま私を腕の中に引き寄せる。
ゼクス「今夜からオレの寝室に来い」
エリス「なっ!?」
  ゼクスに協力することを受け入れて以来、私はノエル公爵家を離れて王宮内の客室を与えられていた。
  それがゼクスの寝室に来いということは・・・・・・
ゼクス「たっぷり可愛がってやる」
  ゼクスが私の顎を持ち上げて、口づけしようと唇を近づけてくる。
エリス「やめて!!」
  私はゼクスを突き飛ばして腕の中から逃れた。
ゼクス「逆らうのか?」
エリス「たとえ婚約者といえど正式に結婚するまでは、ベッドを共にすることは許されません!!」
エリス「聖教会の法によってそう定められています」
ゼクス「オレは王太子でお前は聖女だ」
ゼクス「多少の法など破った所で誰も文句など言えん」
エリス「私が【聖女】だからこそ・・・・・・」
エリス「聖教会の法をほんのわずかでも破るつもりはありません!!」
ゼクス「ふん。 ルクスの名誉を穢すためだけに得た称号なのにか?」
エリス「くっ・・・・・・ なんと言われようと法は破りません」
エリス「もし力づくでも私の身体を奪おうというのならば・・・・・・」
エリス「私はその事を聖教会に告発します」
  しばらくの間、ゼクスと睨み合う。
  大丈夫。
  ゼクスは無理やり私に手を出すことは出来ない。
  ルクスに冤罪を着せて名誉を穢したからと言って、ゼクス自身の人気が上がった訳ではないのだ。
  元々素行が悪く国民に人気の無いゼクスが聖教会の法を破ったとなれば、
  その悪評は彼が王位を継承するのに大きな障害となるだろう。
  ゼクスもそれはわかっているはずだ。
ゼクス「ちっ」
ゼクス「今日の所は見逃してやる」
  ゼクスは舌打ちをして、忌々しげにそう言った。
  それから私の身体にいやらしい視線を向けて、
ゼクス「我らの婚姻は三ヶ月後だったな」
ゼクス「・・・・・・結婚式の夜を楽しみにしているぞ」
  それだけ言うと背中を向けて中庭から出て行った。
エリス「ふぅ」
  王宮の中に消えていくゼクスの背中を見つめながら短く息を吐く。
  なんとか危機を乗り切った。
  そう思って安心すると今度は沸々と怒りが込み上げてくる。
エリス「甘く見ないでよね」
  もう姿が見えなくなったゼクスのいる王宮へ向かって呟く。
エリス「私が公爵家からの虐待から逃れるためにルクスを裏切ったと本当に思っているの?」
エリス「私は自分の保身のためなんかにルクスを裏切ったりはしない」
エリス「私が貴方に従って婚約者にまでなったのは、」
エリス「貴方とその仲間に近づいてルクスに冤罪をかけた証拠をつかむためよ」
エリス「私はルクス以外の男性と結婚なんてしない」
エリス「結婚式の日までに必ず証拠を見つけてルクスの名誉を回復させて・・・・・・」
エリス「貴方達に復讐する!!」

〇教会の中
大司教「聖女様。 ようこそおいで下さいました」
エリス「お世話になります、大司教様」
  王宮の中庭でゼクスと別れた後、私は大聖堂に来ていた。
大司教「それにしても結婚式の日まで大聖堂に滞在して、聖女のお務めを果たしたいとは・・・・・・」
大司教「大変殊勝なお考えですな。 さすが聖女様です」
エリス「未熟者ですがどうぞ良しなにお願い致します」
  あの後、王宮内に与えられていた客室はゼクスによって取り上げられた。
  ベッドを共にしなかったことに対するせめてもの嫌がらせだろう。
  王宮の部屋を失えば、私は虐待する家族が待つ公爵家に帰るしかなくなる。
  ゼクスは私が泣きついて来るとでも思ったのだろう。
  だけど、私はゼクスの意図に反して聖教会に身を寄せた。
大司教「それにしても聖女様の方から打診をいただけるとは意外でした」
エリス「聖女の称号をいただいた以上は少しでも聖教会のお役に立ちたいと存じます」
大司教「ありがたいことですな」
大司教「実は教会としても何度もそのように王家にお願いしていたのですが・・・・・・」
大司教「第二王子・・・・・・いや今の王太子殿下に断られ続けておりまして」
大司教「聖女様の方からお越しいただいて助かりました」
  私に聖女の称号を与えたのは聖教会だ。
  【聖女】というのは【勇者】と並び聖教会にとって特別な称号。
  その称号を与えた聖女が聖教会の為に働かないとなると聖教会の面目は丸潰れになる。
  ただ私はルクスから【勇者】の称号を奪う為に無理やり仕立てあげられた聖女だ。
  それを仕組んだゼクスはボロが出るのを恐れて私が聖教会で働くのを阻止したかったのだろう。
エリス「それはご迷惑をおかけしました」
大司教「なんのなんの。 では、聖女様に滞在していただく部屋へ案内させましょう」

〇暖炉のある小屋
  案内役の司祭に連れて来てもらったのは簡素な見習いシスター用の個室だった。
  最初は貴賓室を用意されていたのだけれど見習いと同じ扱いで構わないと私が固持した。
  ゼクスの婚約者として権力を利用するなんてまっぴらごめんだ。
司祭「聖女様のお務めは明日からになります」
司祭「本日はこちらでゆっくりとおやすみ下さい」
エリス「ええ。 ありがとうございます」
司祭「では、わたくしはこれで」
  司祭が部屋から出ていくのを見送ってから、私は椅子に座って一息ついた。
エリス「さて。 これからどうしようかしら」
  ゼクスと私の結婚式は三ヶ月後に行われることが決定している。
  私はそれまでにルクスの無罪を証明する証拠を見つけなければならない。
  これから、どのように行動していくべきか思考を巡らす。
エリス「王宮を追い出されることになったのは痛手だけど、」
  お妃教育もあるし王宮に出入り出来なくなった訳じゃない
エリス「それに、どうせ聖教会のことは調べに来るつもりだったのだから、ここを拠点に出来るのは悪くないわ」
  そう。
  私はルクスの冤罪を晴らす手がかりがこの聖教会にあるという情報を掴んでいた。
  私は懐に隠していた一通の手紙を取り戻した。
  この手紙はルクスの死後いつの間にか私の部屋の机の上に置いてあったものだ。
  私は封筒から手紙を取り出す。
  手紙には無記名で短い文章が書いてある
エリス「『ルクス殿下はゼクス王子の罠に嵌められた。最後の鍵は大聖堂の中に』」
  たったそれだけの内容。
エリス「・・・・・・最後の鍵」
  それが何を意味するのか私にはわからない。
  だけど、戦場に向かう前にルクスが気にしていたことと重なる気がする。
エリス「まずは最後の鍵から探してみよう」
  そこに真実への手がかりがあると信じて。

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