ハンドルを握れば…(脚本)
〇車内
棗藤次「・・・しかし、意外やったなぁ。 絢音(あやね)免許持ってたやなんて」
棗絢音「殆どペーパードライバーだけどね。 でも、藤次(とうじ)さんのその足じゃむりでしょ? だから、がんばる!!」
棗藤次「絢音・・・」
〇車内
綺麗な秋晴れ日曜日。
藤次と絢音夫婦は、高速道路を使い、少し遠くの紅葉狩りに来ていた。
しかし、その最中、藤次が山中で道を踏み外し利き足を捻挫。
やむなく絢音が、帰り道を運転して帰ることとなった。
運転席で、震えながらもガッツポーズをする絢音にデレデレしながら、藤次は車のキーを彼女に渡すと、絢音はそれを鍵穴に差し込む
〇車内
棗絢音「よ、よし・・・!」
棗藤次「だ、大丈夫か?! む、無理ならホンマ・・・」
棗絢音「話しかけないで!!!」
棗藤次「は、はいっ!!!」
〇車内
普段聞いたことのない妻の怒声に瞬きながら、藤次はシートベルトを締め、こっそりと運転中の絢音の横顔を盗み見る。
棗絢音「えーっと、ナビだとこの交差点を右でー・・・ あ!赤!! び、びっくりしたー!! もういや〜 チマチマし過ぎこの道〜」
棗藤次「(や、やっぱりアカンか?もうすぐ高速やし、適当なPAで代わってやるか?)」
そう、藤次が心配していた時だった。
車は高速道路に差し掛かり、絢音はウィンカーを出し、難なく本線に滑り込む。
と、
棗絢音「・・・ここからは、もう、信号ないのよ・・・ね?」
棗藤次「へ?!」
〇車内
瞬間、絢音はクッと、アクセルを強く踏みしめたので、車は一気に加速する。
棗藤次「あ、絢音?!! いきなりどないした?!! そないスピード出したらあかん!! 高速道路にも法定速度言うもんが・・・」
棗絢音「うるさい!!!」
棗藤次「は、はい!!!!?」
棗絢音「今まで散々、チマチマした道走っててイライラしてたの!! こっからは、一気に捲るわよーーーーーー!!!」
棗藤次「ひ、ひぃっ!!!!」
〇車内
普段穏やかで優しい妻からは想像出来ない狂喜に満ちた表情でぐんぐんスピードを上げる絢音。
棗藤次「あ、ああっ絢音?!!に、160はアカン!! せめて100km!! わあ!! そない強引に割り込むな!!ぶつかる!!」
棗絢音「もーー! 一々五月蝿いなぁ〜! これくらいじゃあ事故りゃせんよ!! それより、しっかり捕まっときんさい! 飛ばすでー!!」
棗藤次「ひ、ひぃぃぃぃ!!!!!」
最早、生まれ故郷の広島弁になるほど豹変した妻の過激とも言える運転は、高速道路を降りる瞬間まで続いた。
〇郊外の道路
棗絢音「うーん・・・ 久しぶりに運転してスカッとしたぁ〜 藤次さん!これからは私にも運転させてね❤︎」
棗藤次「・・・かん」
棗絢音「ん?!」
棗藤次「アカン!! ずぅえったいもう運転はアカン!! どうしても言うなら富士急行き!! そこで思い切り絶叫したらええわ!!」
棗絢音「な、なによぅ・・・ 「ちょっと」高速道路でスピード出しただけじゃない。 おおげさねー」
棗藤次「「ちょっと」ぉ?! 160km届きそうな速度がちょっと?! おまけに強引な追い越しやらなんやら、 警察おったら即免停や!」
棗絢音「いなかったんだから良いじゃない」
棗藤次「よくない!!! とにかく、もう金輪際運転禁止!! 破ったら離婚や!! ええな!!!?」
棗絢音「な、なによぅ・・・ 離婚だなんて・・・ 藤次さぁん」
〇郊外の道路
不思議そうな顔で、レンタカー屋を後にする自分の後ろをついてくる妻
その可憐な顔に、あの高速道路の狂喜に満ちた顔がダブる。
棗藤次「・・・いつぞやのゴキブリの時と言い、ホンマに人は、見かけによらんな」
同棲から結婚して1年。
まだまだ自分の知らない一面が妻にはあるのかと思うと、いつまで経っても冷や汗の引かない藤次でした。
絢音さん、ワイルドな一面を隠そうとしないところがまたかっこいいですね。奥さんにメロメロな藤次の口から離婚の二文字が出るなんて、いろんな意味で相当怖かったんでしょうね。
ハンドルを握ると性格変わる人はよく居ますが…。
自称ペーパードライバーでここまで荒いとそれは心配にもなりますよね。お互いの命のためにも笑
奥さんの豹変ぶりがとても面白かったです。まだ結婚一年なら、これからもっとお互いに発見することがあるでしょうね。私は女性ですが、もともと気が強い方なので、こういう2面性のある女性にあこがれます!