宮廷へ(脚本)
〇西洋の城
〇大広間
アーサー「・・・ふう」
サント帝国 17代皇帝
アーサー=カラム=サント
ストラ侯爵「浮かぬ顔ですな、陛下」
ストラ侯爵「せっかくの舞踏会ですのに」
ストラ侯爵「少し踊ってきてはいかがです? ちょうどそこに私の娘が・・・」
ベルーナ子爵「いやいや陛下!!」
ベルーナ子爵「今宵こそは我が娘、アンナとぜひ!!!!」
アーサー「・・・ん?」
アーサー「・・・あの娘は?見ない顔だ」
アーサー(・・・いや・・・ どこかで会った・・・か・・・?)
ベルーナ子爵「ああ・・・確かノルド男爵の一人娘だとか」
ベルーナ子爵「病がちで社交界には出られないと聞いていましたが・・・回復したそうです」
アーサー「それは何よりだ」
アーサー「祝ってやらねばな」
ベルーナ子爵「は!?」
ストラ侯爵「陛下!?」
〇大広間
ティナ(これが社交界・・・ これが宮廷・・・)
ティナ(幼い頃には憧れていた世界だけど・・・)
ティナ(いざ立ってみると・・・ まあ、欲望のるつぼってところね)
ティナ(ストラ侯爵・・・見てなさい)
ティナ「絶対に・・・そこから引きずり下ろしてみせるから・・・」
アーサー「ノルド男爵令嬢」
ティナ「・・・!!」
ティナ「皇帝陛下」
アーサー「病魔に打ち勝ったとのこと、おめでとう」
アーサー「男爵もさぞお喜びだろう」
ティナ「勿体ないお言葉にございます」
「まあ・・・誰なの?陛下がわざわざ声をおかけになるなんて・・・」
貴族「陛下もなんと軽はずみな・・・」
貴族「まだお若いですからなあ・・・」
アーサー「・・・またやってしまったようだ」
アーサー「失礼したね、引きつづき楽しんで」
ティナ「・・・ちっとも楽しくありませんわ、こんな舞踏会」
アーサー「え?」
ティナ「陛下が楽しませてくださいませ」
アーサー「・・・」
アーサー「あはは!!」
アーサー「・・・それでは一曲」
アーサー「踊っていただけるかな、レディ」
ティナ「喜んで、陛下」
ティナ(・・・驚いた)
ティナ(この皇帝、いくらなんでも短慮すぎる)
ティナ(・・・おかげで良いスタートを切れそうだけど)
カイン「・・・」
〇英国風の部屋
ティナ「・・・皇帝の、妃? 冗談はやめてちょうだい」
カイン「お前には新しい身分をやる」
カイン「先日、一人娘を亡くしたばかりのノルド男爵と取引してある」
ティナ「『一人娘』になり済ますわけ? 馬鹿馬鹿しい・・・」
カイン「皇妃になれば、絶大な力が手に入るぞ」
ティナ「興味ないわ」
カイン「あの粛清の、首謀者たちをあぶり出すことだってできる」
ティナ「・・・」
カイン「今のお前では『力』を使ったところで、狙える相手はたかが知れてる」
カイン「あの事件の首謀者たちに近づくすべがなくて、困ってたんじゃないのか?」
ティナ「・・・」
ティナ「ストラ侯爵は今や宰相閣下だものね・・・次男坊のあなたでさえ騎士団の隊長さま」
ティナ「確かに・・・隙がないとは思っていた」
ティナ「・・・あなたの目的は?」
カイン「父の失脚」
カイン「そして俺を要職に取り立てることだ」
ティナ「父親を売るわけ?」
ティナ「それで、自分だけは助かりたいって?」
カイン「そんなところだ」
カイン「どうだ?悪くない取引だろう」
カイン「お前はモントルーの名を伏せたまま、奴らに内側から近づくことができる」
カイン「皇妃になれば、堂々と断罪することもできる」
カイン「叩けば埃が出る奴らばかりだからな」
カイン「一瞬で終わる苦しみではなく・・・」
ティナ「・・・家も名誉も家族も・・・ すべてを奪い、這いつくばらせる」
カイン「そうだ」
ティナ「──アハハ!!」
ティナ「・・・正気じゃないわ、カイン」
ティナ「私があなたを売るかもしれないわよ?」
カイン「・・・できるものならやればいい」
カイン「この手をとるか、とらないかだ」
ティナ「・・・」
〇大広間
ティナ(カインを信頼しきったわけじゃない)
ティナ「でも・・・利用できるものは利用させてもらうわ」
アーサー「え?」
ティナ「・・・いえ、」
ティナ「陛下と踊るなんて、他の令嬢の視線が怖いですわ」
アーサー「どうせこのあと何人もと踊るんだ」
アーサー「気にすることないよ」
ティナ(・・・本気で言ってるなら短慮どころかバカね)
ティナ(あなたの王妃候補とその父親が あんな顔してるのに・・・)
リリア=ラ=ストラ
──侯爵家長女
ティナ(・・・と、もう1人いたわね)
アンナ「・・・フン」
アンナ=ド=ベルーナ
──子爵家次女
ティナ(有力な妃候補は今のところ あの2人・・・だったわね)
アーサー「・・・お相手ありがとう」
ティナ「光栄にございます、陛下」
ティナ(ふう・・・)
ティナ(ダンスの特訓しておいてよかった・・・)
ティナ(・・・カイン?)
〇城の回廊
ティナ「・・・何? 誰かに見られたら困るでしょう」
カイン「わかってる」
カイン「・・・目立ちすぎだ」
ティナ「はあ? 仕方ないでしょう、まさかいち令嬢にあんなに気軽に声をかけてくるなんて思わないわよ」
カイン「・・・確かにな」
カイン「あの方らしいが」
ティナ「・・・変わった方ね。皇帝らしくない」
カイン「素直なお方なんだ」
カイン「誤解されやすいが・・・俺は素晴らしい方だと思っている」
ティナ「ふうん?」
ティナ「そのくせ、私みたいなのを妃に仕立てようとするなんて」
ティナ「大した忠誠心ね」
カイン「・・・」
カイン「とにかく、今日お前は妃候補の2人と、その一族に目をつけられた」
カイン「気をつけろよ」
ティナ「あ・・・」
ティナ「言われなくても・・・そのつもりよ」
ティナ「もう後戻りはできない」
〇養護施設の庭
ノルド令嬢──
ゆうべは楽しいひとときをありがとう
お礼に庭園でお茶をご馳走します
貴女の友人 アーサーより
ティナ(・・・皇帝って暇なのかしら?)
ティナ(それともまさか、何かの罠・・・)
アンナ「あら、ノルド令嬢」
ティナ「・・・ベルーナ令嬢」
アンナ「アンナでいいわよ」
アンナ「あなた『も』お茶会へ?」
ティナ「・・・ええ、あなた『も』ですの?」
アンナ「私たちだけじゃないわ」
リリア「・・・ごきげんよう」
ティナ「まあ、ストラ侯爵令嬢まで」
「・・・」
アンナ「驚くのは早いわよ」
ティナ「え?」
アーサー「ムニャ・・・」
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ティナの行動力や聡明さ、そしてちょっと危なっかしいところに感情移入しちゃいます。前作のゆらちゃん同様、読み手を作中世界に惹きつける魅力的な主人公ですね!