白衣のサンタクロース

てててーん

白衣のサンタクロース(脚本)

白衣のサンタクロース

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〇クリスマスツリーのある広場
ユメト「わー!!お兄ちゃん!ほら、広場に見たこともないような大きなクリスマスツリー!」
クロト「こら、走るなよ。転んじゃうぞ」
ユメト「あ!ねえ、ほら!」
ユメト「サンタさん!サンタさんのちっちゃい 人形だー!」
クロト「あぁ・・・」
  聖夜。世界中が浮き足立つこの夜。
  僕──クロトは弟のユメトとイルミネーションが眩い街を歩いていた。
  弟は小さな人形や星のかたちの飾りでキラキラと飾り立てられたツリーに見入っている。
ユメト「ねえ、お兄ちゃん。今年はうちにもサンタさんくる?」
クロト「・・・どうだろうな」
ユメト「ボク、いい子にしてたもん。きっと来るよね」
クロト(ごめんな。本当は来ないかもしれない。 今年もお父さんは仕事でいないんだ。お母さんも・・・)
クロト「・・・ユメト。行こう」
  薄く雪の積もる街に踵を返す。
  華やかな街のざわめきに胸が痛む。足取りは酷く重かった。

〇一戸建て
ユメト「あれ?」
ユメト「・・・・・・誰だろう、あの女の人」
  ふと、玄関の前に見知らぬ人影を見つける。
  僕らが近づくと、その人は振り向いた。長い銀髪が揺れ、冷たい眼差しが向けられる。
ユメト「お姉さん、だあれ?」
謎の女「・・・そうね。今日は聖夜だし・・・サンタクロース、とでも名乗っておこうかしら」
ユメト「サンタさんって女の人もいるんだ!」
クロト「・・・ユメト、こっち」
  弟は無邪気に笑っている。
  僕は肩を掴んで抱き寄せた。
ユメト「お兄ちゃん?い、痛いよ・・・引っ張らないで・・・」
クロト(誰?お父さんの仕事の関係の人かな・・・ でも、何の連絡もなかったし・・・)
謎の女「ねぇ、坊やたち。お母さんはいないの?」
クロト「かあ・・・さん・・・?」
ユメト「・・・!」
ユメト「・・・ぐすっ」
  不意に弟が俯いて、甘えるように肩に顔を埋める。
  ・・・震えている。
謎の女「あぁ、お母さん、死んじゃったんだっけね」
クロト(この人・・・一体・・・?)

〇狭い畳部屋
  脳裏にあの時の光景が浮かぶ。
  「あなた達、日に日に父さんに似てくる・・・」
  「私、怖いわ」
  「お父さんは・・・・・・素晴らしい化学者なの。でも、恐ろしい実験を・・・。」
  「あなた達は血は繋がってなくても私の可愛い子供よ。覚えておいて・・・」
  「どうして。ねぇ、どうして・・・」
  母さん・・・

〇一戸建て
クロト「──か、帰ってください!」
  僕は弟を後ろに庇って叫んだ。
謎の女「帰らないわ。サンタクロースにはやることがあるの」
クロト「サンタクロースなんて・・・そんなの・・・」
  ますます恐ろしくなって、泣きそうになる。
  その時、後ろにいた弟が声を上げた。
ユメト「サンタさん、もしかしてプレゼントくれるの?」
クロト「・・・!!」
  それは緊張した場にそぐわない、子供らしい好奇心からの言葉。
  だが、いくらか彼女の顔つきは優しいものに変わった。
謎の女「ええ、プレゼントをあげるわ。おいで」
  弟が大はしゃぎしているその横で、僕は呆気に取られていた。
ユメト「ほんとー!?」
  女の人は弟に向かって一歩近づき、しゃがみ込んだ。
  両手でそっと優しく頬を挟む。
  それから額と額をこつんと合わせた。
ユメト「?・・・サンタさん?」
ユメト「な、なに・・・」
  一瞬の出来事だった。トンっと小さい体が押されたかと思うと血飛沫が舞った。
  鮮血が噴き出した。
  弟は驚いたような顔をしていた。
  ただでさえ小さな弟の身体は倒れゆく中でさらに小さく見えた。
クロト「・・・な!?」
クロト「ユメト!?・・・ユメト!?」
  雪の中に倒れた弟の瞳は虚空を見つめている。
「・・・な、なにを・・・」
謎の女「マッドサイエンティストドクターのパーフェクトクローン」
謎の女「クロトとユメト」
謎の女「特に兄のあなた─クロト。すっかり成長して、ドクターに瓜二つだわ」
クロト「・・・・・・」
謎の女「あなたの父親は多くの罪のない子供たちを身勝手な実験の贄にして殺したの」
謎の女「死んで行った子供たちのためにも、まだ死ねずに苦しんでいる子供たちのためにも・・・」
謎の女「恐ろしい科学者のクローンであるあなた達にはここで、消えてもらう」
クロト「・・・!」
  僕は目を閉じた。弟と一緒に逝けるなら、それでもいいと思った。
  きゃーー!!
おばさん「誰か!!助けて!子供が!」
  僕の悲鳴を聞き付けた、近所のおばさんが雪の上に倒れた弟をみつけ、悲鳴をあげた。
  ガヤガヤ・・・
謎の女「──これでいい・・・」
  覚悟を決めて瞳を閉じていた僕の耳元で、彼女は優しい声で囁く。
  ──え?
謎の女「大丈夫、弟君は血はたくさん出てるけど軽症よ」
  地面に倒れた小さい体をかつぎあげる。そして、僕に目を向けた。
  冷たい、凍るような視線。でも・・・不思議と恐ろしさはなかった。
謎の女「・・・。着いてきて」

〇廃ビルのフロア
  彼女に連れられて、僕と弟は今までの人生を捨て、新たな人生を送ることとなった。
  彼女は僕たちと同じ、父のクローンの・・・失敗作だと名乗った。
  そして、僕達を・・・世界中から狙われ始めている僕たちの命を救いに来たと。
謎の女「メリークリスマス。あなた達には今夜、新しい人生をプレゼントするわ」
謎の女「まずは名前ね」
  いい?これからのあなたの人生にぴったりの名前を、自分で考えるの。
  さあなんて名前にする?
  僕は・・・答えた。

〇ホテルのレストラン
  ・・・・・・ね、つまらなかっただろ。僕の昔話なんて。
  忘れていいよ。大したことじゃないんだ、昔のことさ。
  それより今夜を楽しもう。
  やっと仕事もひと段落ついて、何とかクリスマス休暇をもぎ取ったんだ。
  しかも・・・君を誘えて最高の気分さ。
  メリークリスマス!
  ・・・え、弟?
  いるよ。成長して、今ではそっくりの顔さ。
  会わせてあげるよ。
  ・・・今度、ね。

コメント

  • 白衣のサンタクロースは悪魔だった、と一瞬思わせてからのやはり救世主だった、という二段構えの構成と展開が巧みでした。二人の兄弟はこのサンタから「アイデンティティと新しい人生」という最高のクリスマスプレゼントをもらったというわけですね。

  • 冒頭部からは想像できない壮大なストーリー展開に驚いてしまいました。と同時に、途中の若干の違和感も後半で見事なまでに回収ですね。中身の充実した読み応えのある物語ですね

  • 兄弟の仲の良さや彼らの持つ感受性から、現実味のあるお話に感じました。成長した兄のクロトが新しい人生を全うしていることが、負の部分を100セント払拭してくれていい読後感です。

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