月へ帰りたいルル

草加奈呼

ウサギ少女ルル(脚本)

月へ帰りたいルル

草加奈呼

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〇荒野
  ─ 惑星サード ─
ラシャ「はい、キリク! 今日の分よ」
キリク「ありがとう、いつもすまないな」
ラシャ「私たちは採掘、あなたは研究。 持ちつ持たれつよ」
ラシャ「でも、本当にこんなので地球から 移住できるのかしらねぇ?」
キリク「・・・これは、 この星の唯一の天然エネルギーだ」
キリク「これが枯渇しない、多量に採れる、 エネルギーの熱量・・・」
キリク「これらすべて解決しない限り、 無理だろうな」
ラシャ「今の所、結構採れてるけど、肝心のエネルギー熱量・・・? は、どうなの?」
キリク「鉱石一個当たりで・・・」
キリク「1人1日分くらいのエネルギーだ」

〇魔法陣のある研究室
後輩「先輩、おつッスー」
キリク「ああ、ありがとう」
後輩「あ〜。地球のコーヒーが恋しいっス」
後輩「スタボのコーヒー飲みてぇ〜」
キリク「言うな。こっちが不味くなる」
後輩「はぁ〜。いつまでこの調査続くんスかね?」
キリク「そりゃ、移住の見込みが立つまでだろ」
後輩「身も蓋もねぇっス」
後輩「俺、地球に彼女残してきてるんスよ」
キリク「それはもう、何度も聞いた」
後輩「片道3年っスよ? LIMEも使えないし」
キリク「それも何度も聞いた」
後輩「通信メールでも何時間もかかるし、「おやすみ」ってメールしたら、次俺が寝る頃に「おはよう」って返ってくるんスよ?」
キリク「それは、時間差を考えてメールしろ」
キリク「うーん・・・なんか、捗らん」
キリク「少し、休憩してくる」
後輩「うぃっス」

〇荒野
キリク「はぁ・・・」
キリク「まぁ、あいつがグチを言う気持ちも わからなくはないがな」
キリク「・・・ん?」
キリク(今、向こうで何かが動いたような・・・)
キリク「誰だ!?」
ルル「・・・」
(ウサギ・・・?)
(人間、じゃないな・・・)
(もしかして、 この惑星に先住民がいたのか・・・?)
キリク「おまえは誰だ?」
ルル「*×△◇⌘※∮?」
キリク「言葉が通じないのか・・・」
キリク「翻訳機オープン」
  候補が見つかりません
キリク「参ったな・・・」
キリク「俺は、キリクだ」
キリク「キ リ ク わかるか?」
  俺は、自分を指差して言った。
  今度は少女を指差し──
キリク「おまえは?」
キリク「キ リ ク」
  自分を指差し、少女を指差し、繰り返した。
ルル「・・・キリク!」
キリク「そうだ、俺はキリクだ!」
ルル「ルル!」
キリク「ルルか! いい名前だな!」
キリク「ルルは、ここで何をしてるんだ?」
キリク「・・・って、通じないか」
キリク「もしかして、腹減ってるのか?」
キリク「お、そうだ。 たしかポケットに・・・」
ルル「〜〜♪〜〜⭐︎〜〜♪♡♡♡」
  ガリッ
キリク「それは、噛むんじゃないぞ!?」
キリク(うまく、食べられたようだ・・・)
キリク「ん・・・それは?」
キリク「おおっ? おまえたちも、こんな技術が 発展してるのか!」
キリク「ここは・・・この惑星の反対側だな」
キリク「・・・ん? もしかして、ここへ行きたいのか!?」
ルル「ココ、ココ」
キリク「マジか・・・バギーを使っても1ヶ月は かかるし、問題はバギー用のエネルギーだ」
キリク(鉱石1個で、100kmが関の山だ・・・ ここまでの距離が約2万kmだとして・・・)
キリク(エネルギーは、 すべて政府に管理されているし・・・)
キリク(これは・・・ 途方もない計画になるぞ・・・)
キリク(諦めてもらうしか・・・)
キリク「なあ、ルル。 ここへ行くには、ものすごく時間がかかるし、エネルギーも必要なんだ」
キリク「でも、おまえに あげられるエネルギーはなくてな」
キリク「な、泣くな! しょうがないだろう!」
キリク(通じたのか!?)
キリク「おおっ、すごい筆捌きだ!」
キリク「そうか、言葉は通じなくても、 絵ならわかるか」
キリク(筆捌きは凄かったが、 絵はそうでもないようだ・・・)
キリク「・・・もしかして、何らかの手伝いをするからエネルギーがほしいって事か?」
キリク「いやいや、それは間に合ってるし、それに 報酬でもエネルギーはあげられないんだ」
  首を横に振ると、ルルはぎゅーっと抱きついてきた。
キリク「うおっ!?」
ルル「キリク、キリク」
キリク「参ったな・・・」
キリク「よし、じゃあこうしよう!」
キリク「本当はダメなんだが、俺自身が生活に 使っていいエネルギーから、少しずつ ルルにやる!」
キリク「そのかわり、ルルは俺の仕事を手伝う!」
ルル「キリク!」
キリク「お、通じたか?」
キリク「しかし、言葉は覚えてもらうぞ。いつまでも、キリクしか言えないのはな・・・」
ルル「エネルギー!」
キリク「おっ、そうだ! ルルに必要なのは、エネルギーだ」

〇魔法陣のある研究室
キリク「そういうわけで・・・」
キリク「おまえたち、協力頼むわ」
後輩「マジすか」
ラシャ「ちょっとキリク、何考えてるの!? バレたら減給どころじゃ済まないわよ!?」
キリク「だけど、放ってもおけないだろう・・・」
後輩「うっ、笑顔が眩しい・・・」
ラシャ「かわいい〜♪」
ラシャ「しょうがないなぁ。 じゃあ、お姉さんが一緒に寝てあげよう♪」
ラシャ「随分と懐かれてるじゃない、キリク」
キリク「そ、そのようだな・・・」
後輩「まさか、先輩ロ────」
ラシャ「何も聞こえなかったわよ」
後輩「ひどいっス、ラシャさん・・・」

〇荒野
  ルルは5年の間に言葉も覚え──
  そして、ついにエネルギーが貯まった。

〇荒地
  ルルと俺は今、例の目的地に立っている。
  未開の地で、何もない。
キリク(これは・・・なんの装置だ?)
ルル「ピピン!」
ルル「ピピン、仲間!」
キリク「そうか、良かったな」
ルル「キリク、ありがとう。 ルル、これで月へ帰れる」
キリク「え? 月って、あの月・・・?」
ルル「そう。ルル、迷子になってたの。 ピピンとはぐれて」
ルル「でも、この転送装置乗れば、月へ帰れる」
キリク「ルル・・・行ってしまうのか」
キリク(目的を果たしたんだから、 しょうがないよな・・・)
キリク(でも・・・)
キリク(寂しいな、やっぱり)
ルル「キリク・・・。キリク〜〜」
  ぎゅー
キリク「おおおおい、鼻水を拭くな!」
ルル「えへへ・・・」
ルル「キリク」
ルル「月にも遊びに来てね。絶対だよ」
キリク「ああ、遊びに行くよ」
  絶対なんて、約束はできない距離だけど。
  それでも。
  ルルが笑顔でいてくれるなら──。
ルル「ばいばい。またね──」

〇荒地
  またな、ルル──

コメント

  • 一部始終ルルに癒されてました☺️
    言葉が通じないから名前を教え合ったり、飴玉を噛んじゃったり、キリクの後ろに隠れたり、そしてお別れの時に抱きついて涙ぐしぐし……最高です👍✨
    SFならではの時差設定も凝っていて、宇宙の行き来の大変さを思い知らされてしまいました🤔
    いつの日か移動が改善され、いつでもルルとピピンに会えるようになれたらいいなぁと、心が温まりました☺️

  • 夢で見た話というだけで、既にすごい。話自体もsoキュートで、月に連れて行かれました。絵も綺麗でした。感謝。

  • ルルの生き生きとした表情変化が可愛い~✨キリクの陰に隠れるスチルもビビッと電気が走るくらい可愛いかったです!笑 最後のスチルも気合い入ってますね👍
    SF設定も凝っていて、通信メールで時差が発生してしまうくだりなど面白かったです
    脇役のラシャもいい仕事してましたね(主に人間関係で
    言葉が通じないところから始まって、二人の絆と別れまで2000字で描いたのはお見事でした👏

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