救世主体質

すずらん

読切(脚本)

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〇マンション前の大通り
少年「ひったくりだ!待て!」
  早朝の町に叫び声が響く。
ひったくり犯「できるもんなら捕まえてみろよ!」
  ひったくり犯は叫び声にも動じず、余裕の表情で逃げてゆく。
  ――――そのとき。
  ゴンッ!
ひったくり犯「!?」
  突然頭上に降ってきた植木鉢が直撃し、男は倒れた。
ノゾミ「あっ、すみません!」
  マンションのベランダから少女が顔を出している。
少年「ありがとうございます!助かりました!」
ノゾミ「え・・・ええっと・・・」
  ノゾミの秘密。それは救世主体質だということだ。
  やたらと他人のピンチに遭遇し、そのたびに偶然助けてしまうのである。
ノゾミ「人の役に立てるのはいいけど、毎回びっくりするのよね・・・」

〇通学路
ノゾミ「いってきまーす」
子供「ありがとうございました!」
男の人「ありがとうございました!」
  いつもの通学路。
  その途中誘拐されかけた女の子をたまたま助けたり、偶然強盗犯を足止めしたりしたが、概ねいつも通りの朝だった。

〇ハイテクな学校
ノゾミ「ようやく学校に着いたわね」
  ノゾミが校門をくぐろうとしたとき。
怪しい男1「やっと見つけたぞ」
ノゾミ「!?」
  バタン。
  ノゾミはいきなり車の中に引きずり込まれた。そのまま車は走り出す。

〇車内
ノゾミ「何なんですか?!」
怪しい男1「お前だな?いつも仲間の邪魔をしてるガキってのは」
ノゾミ「え!?」
怪しい男1「とぼけても無駄だ。誘拐も、強盗も、あと一歩ってとこでいつもお前のせいで台無しだ!どう落とし前つけてくれるんだよ!」
ノゾミ「ひいっ・・・!」
  どうやら救世主体質が災いして、わざと邪魔をしていると勘違いされてしまったらしい。
ノゾミ(なんでこんなことに? 私は誰かの救世主にはなれても、私の救世主はいないの?)
ノゾミ(誰か、助けて・・・!)
  ノゾミが身を縮こませながら、祈るように目を瞑ったとき。
  ゴンッ
怪しい男1「何の音だ」
怪しい男2「それが・・・誰かが飛び出してきて、車で跳ねちゃったみたいで・・・」
怪しい男1「はあ?何やってるんだよ」
  男たちが車を降りていく。

〇川に架かる橋
怪しい男2「オイ!急に飛び出してんじゃねーよ!」
  そう怒鳴られ、猫を抱いた傷だらけの少年がゆっくりと起き上がった。
少年「イテテ・・・すみません。猫が轢かれそうだったので・・・」
怪しい男1「はあ?猫だぁ?」
猫「にゃーん」

〇車内
ノゾミ(もしかして、今が逃げるチャンス?)
  ノゾミは意を決して車から降りると一目散に走り出した。

〇川に架かる橋
怪しい男1「あ!こら、待て!」
ノゾミ「嫌・・・!」
  男が追ってくる気配がする。
  ノゾミはただひたすら走り続けた。
怪しい男1「くそ、逃げんじゃねえ!」
  男は側にあった石を掴むとノゾミに向かって投げた。
ノゾミ「きゃっ・・・!?」
  ゴツン!
ノゾミ「・・・!?」
怪しい男1「なんでお前が当たってるんだよ」
  頭から血を流しながら少年はへらへらと笑う。
少年「あはは、すみません・・・」
  そのとき、パトカーの到着を告げるサイレンが鳴り響く。
怪しい男1「やべえ、逃げねえと!」
  男たちは慌てて車に乗り込むと逃げ出した。
  パトカーもそれを追いかけてゆく。
  サイレンの音は遠のき、やがて辺りには静寂が訪れた。
ノゾミ「あの、大丈夫ですか?怪我だらけですけど・・・」
少年「はい、慣れてるんで。それより今朝はありがとうございました」
ノゾミ「えっ?」
  よく見ると、その人は今朝ひったくりに遭っていた少年だった。
ノゾミ「あっ、いいえ」
少年「これは秘密なんですけど、僕って不幸体質なんです。なんだか他人の不運を全部吸っちゃうみたいで」
少年「あなたみたいに格好よく人助けなんてできそうにないですね。はは・・・」
ノゾミ「そんなことないです」
少年「え」
ノゾミ「あなたは、私の救世主です」
少年「!」
少年「えっと・・・そんなこと言われるのはじめてで、なんだか照れるなあ」
猫「にゃーん」
  そこに猫が近づいてきて、少年に体をすり寄せた。
少年「あはは・・・」
  自分を救えない救世主の少女と、不幸を吸い寄せる少年。
  凹凸な二人の出会いは、もしかしたらお互いにとって大きな救いとなるのかもしれない。
  この先の物語は、彼ら次第だ。

コメント

  • すごいおもしろかったです。
    救世主体質って、良さげに見えてたしかに「邪魔をしている」と思われても仕方ないですよね。
    でも、不幸体質の彼に救われて、お互い相性が良さそうですね。

  • 救世主体質と不幸体質、本当に相性がいいのかもしれませんね。現実でもファンタジーでも皆のためのヒーロー/ヒロインは存在しますが、誰が彼/彼女を助けているのかと考えさせられますね。

  • ヒーローは皆を助けてくれるけど、ヒーローを助けるのは誰かという問題に対し、ヒーローのピンチに居合わせる事ができるのは不運な人間であるという答えにハットしました。目の付け所が面白いです。

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