お狐様の村祭り(脚本)
〇田舎の駅
〇田舎駅の待合室
〇田舎のバス停
〇村の眺望
桜「うわぁ。こんなに田舎だったっけ」
桜「えーと、おばあちゃんの家は──」
〇平屋の一戸建て
〇ボロい家の玄関
おばあちゃん「いらっしゃい、桜ちゃん」
おばあちゃん「見ない間に大きくなったねぇ」
桜「お久しぶりです、おばあちゃん」
桜「ひと夏の間、よろしくお願いします」
おばあちゃん「いいよぉ、そんなにかしこまらなくて」
おばあちゃん「さ、中にお入り。暑かったろう」
〇実家の居間
おばあちゃん「また顔を見られて嬉しいよ」
おばあちゃん「七回忌のとき以来だねぇ」
桜「ううん、最後に来たのはお祭りの日だったよ」
おばあちゃん「あら、そうだったかしら」
おばあちゃん「この村も今年で最後だから、しっかり目に焼き付けておいてね」
桜「おばあちゃんはいつまでいるの?」
おばあちゃん「工事が始まる日までよ」
おばあちゃん「本当は村と一緒に沈みたいけど・・・」
桜「そんなこと言わないで」
桜「都会もきっと悪くないよ」
おばあちゃん「そうね」
おばあちゃん「こっちは退屈かもしれないけど、自分の家だと思ってくつろいでおいき」
桜「ありがと。私、ちょっと散歩してくる」
おばあちゃん「暗くなるまでには帰るんだよ」
おばあちゃん「それから、祭囃子(まつりばやし)が聞こえるところには近づかないこと」
おばあちゃん「――お狐様に連れて行かれるからね」
桜「・・・うん、わかった」
〇田園風景
この村はもうすぐ、ダムの底に沈む。
その前に、どうしても確かめたい。
7年前の、不思議な出来事について──
〇山道
桜(覚えてる。この道だ──)
〇神社の出店
7年前、私は村の夜祭で迷子になった。
桜「お父さん、どこ?」
ひとりで彷徨ううちに、道をはずれて──
〇山道
桜「お父さーん!」
〇廃列車
桜「お父さん・・・」
桜(こっちに来ないで・・・)
???「やめなさい」
桜「誰!?」
狐の少女「あなた、迷子ね?」
桜「うん。お姉ちゃんは?」
狐の少女「・・・」
狐の少女「ついておいで」
狐の少女「人のいるところまで送ってあげる」
〇山道
狐の少女「どこから来たの?」
桜「おばあちゃんち」
桜「お祭りに来たら、お父さんとはぐれちゃった」
狐の少女「お祭り・・・?」
〇神社の出店
「・・・」
桜「誰も、いない・・・」
狐の少女「泣かないの。おうちに帰してあげるから」
桜「・・・うん」
桜「手、つないでいい?」
狐の少女「ええ、いいわよ」
〇神社の石段
桜「帰れなかったらどうしよう・・・」
狐の少女「大丈夫、大丈夫」
狐の少女「──まだ間に合うよ」
〇村の眺望
狐の少女「ほら、ついた」
狐の少女「ここからはひとりで行けるでしょう?」
桜「お姉ちゃんは?」
狐の少女「ここでお別れ」
桜「一緒に帰ろうよ」
狐の少女「私は行けないの。ほら、早く行って」
桜「やだ! お姉ちゃんと一緒にいる!」
狐の少女「ダメよ」
狐の少女「怖い思い出は、全部忘れてしまいなさい」
〇黒
全部、忘れて生きなさい──
〇廃列車
桜(あの人は、まだここにいるのかな?)
桜(何もいない)
桜(ただの夢だった?)
桜(それなら、いいけど・・・)
〇平屋の一戸建て
〇実家の居間
桜「おばあちゃん、お狐様って何者なの?」
おばあちゃん「怖い怖い、神様よ」
桜「連れて行かれると、どうなるの?」
おばあちゃん「人ではないものになってしまう」
おばあちゃん「昔はよく、そうして子どもがいなくなったの」
桜「ほんとに・・・」
桜「ねぇ、もし──」
桜「もしもの話。お狐様に会いたかったら、どうすればいい?」
おばあちゃん「そうねぇ」
おばあちゃん「神社の裏手ある、御神体のところに行けば会えるかしらね」
桜「御神体──」
桜「それもダムに沈んじゃう?」
おばあちゃん「動かせないから、仕方がないわ」
おばあちゃん「触ると出られなくなってしまうもの」
桜「・・・」
〇古風な和室
???「私を探しに来たの?」
桜「そこにいるの!?」
???「・・・」
桜「私、ずっとあなたにお礼を言いたかった」
桜「あのとき、助けてくれてありがとう」
狐の少女「別に」
狐の少女「小さな子どもが食べられるのを見たくなかっただけよ」
桜「食べられる・・・」
狐の少女「あの山には、悪いものがいる」
狐の少女「――水底に沈んで当然だわ」
桜「ダムのこと、知ってるの!?」
桜「じゃあ、一緒にここを出ようよ」
狐の少女「私は行けないわ。御神体がここにあるもの」
桜「私が運ぶ!」
狐の少女「大岩よ。できるの?」
桜「う・・・」
桜「ごめん。何もできなくて・・・」
狐の少女「そうよ。あなたには何もできない」
狐の少女「だから、すぐにこの村から出て行きなさい」
狐の少女「今ならまだ間に合うから──」
〇黒
全部忘れて、幸せに生きなさい
〇古風な和室
桜「夢・・・」
桜「じゃ、ないよね」
〇実家の居間
桜「おばあちゃん、おはよう」
・・・
桜「おばあちゃん?」
・・・
〇田園風景
桜(人がいない。どこにも・・・)
桜「誰かいませんか!?」
・・・
桜(そうだ、お狐様なら──)
〇神社の石段
〇古びた神社
〇村に続くトンネル
桜「これだ──」
触ると出られなくなってしまうもの
桜「重い・・・」
桜「あっ。欠け──」
〇水中
あれ?
私、どうして・・・
誰・・・?
〇魔物の巣窟
桜「ゴホッ」
狐の少女「気がついた?」
桜「ここは・・・」
狐の少女「御神体の中よ」
狐の少女「どうして戻ってきたの?」
桜「ごめん、でも・・・」
狐の少女「逃げなさい。私があれの気を引くから」
桜「そんな! 一緒に逃げようよ!」
狐の少女「私はもう逃げられない」
狐の少女「だから、あなただけでも・・・」
桜「どうしてそこまでして助けてくれるの!?」
狐の少女「――桜、大好きよ」
桜「!!」
〇実家の居間
おばあちゃん「七回忌のとき以来だねぇ」
桜「ううん、最後に来たのはお祭りの日だったよ」
違う──
私が間違ってた
〇神社の出店
あの日、お祭りなんてなかったんだ。
──七回忌だった。
物心つく前にいなくなった、お姉ちゃんの。
お祭りで迷子になったのは、私じゃなくて・・・
お姉ちゃん──
〇魔物の巣窟
桜「・・・全部、思い出した」
桜「椿(つばき)お姉ちゃん」
椿「忘れなさいって、言ったのに・・・」
桜「忘れたくなかった!」
桜「私、お姉ちゃんのことを思い出すために戻ってきたんだよ!」
椿「ダメよ」
椿「私はもう、人ではないのだから・・・」
桜「──家族だよ」
桜「人じゃなくてもいい!」
桜「お姉ちゃんは、私のお姉ちゃんだよ!」
椿「桜・・・」
桜「私、いつまでも小さな子どもじゃない」
桜「今度は私がお姉ちゃんの手を引くよ」
桜「だから──」
桜「帰ろう!」
〇山道
〇平屋の一戸建て
おばあちゃん 「桜ちゃん、ついに戻ってこなかったわね」
おばあちゃん 「もう二度と会えないなんて」
おばあちゃん 「寂しいねぇ」
おばあちゃん 「悲しいねぇ」
おばあちゃん 「そればかりか」
おばあちゃん 「椿まで連れて行ってしまうなんて──」
〇田舎の駅
桜「駅だ!」
椿「どうして?」
椿「私は村の外に出られないはずなのに・・・」
桜「ニヒヒ」
桜「持ってきちゃった」
椿「うそ・・・」
桜「家族だよ。人じゃなくても──」
桜「椿お姉ちゃん!」
椿「・・・」
椿「桜──」
〇綺麗な一戸建て
〇おしゃれなリビングダイニング
〇名門の学校
桜「お姉ちゃん。早く、こっち」
桜「ほら、笑って!」
いつまでも、一緒だよ
椿お姉ちゃん!
凄いお話でした!
まさにダークファンタジーという感じで、一夏の濃密な経験を、主人公の桜と一緒に体験した気持ちになりました。
おばあちゃんの温かさと、そのあとの寂しいねぇと言った後の怖いスチルの対比が凄くて、水中のエフェクトと効果音も色々と想像力を掻き立てられて、凄かったです。
桜は椿のことを本能のうちにお姉ちゃんと覚えていたから、最初から懐いていたのですね。思わず2回読みました!
ホラーは苦手なのですが、この作品は好きだなあと感じました。演出も効果的で、これぞTapNovelといった印象を受けました。流石です!
おぉ…ダムに沈む村とか幻の祭囃子とか大好きですー!✨TapNovelの美しい背景や環境音で、田舎の雰囲気をたっぷり堪能させてもらいました☺️
お狐様に「忘れなさい」と言われてる割に忘れないな…と思っていたら、そういう事だったんですね!いい感じに裏をかかれました😆
ゾッとするおばちゃんのスチルからのお姉ちゃんとの帰還……振り幅の大きい展開で、満足感十分でした!