〇開けた高速道路
　　これは
　　三太郎とニワトリが
　　無人島に漂着する
　　すこし前のお話──

〇トラックのシート
三太郎「珍しいじゃないか」
三太郎「君が旅行に誘うなんて」
磯貝「まぁね」
磯貝「お互い忙しい身だから、息抜きさ」
磯貝「たまには研究棟から外に出ないと」
磯貝「ビタミンDが不足しちゃうぜ」
磯貝「君、ずっと籠りっぱなしだっただろ」
三太郎「まぁ...そうだな」
三太郎「助かったよ」
磯貝「あはは、どういたしまして」
三太郎「それはそうと」
三太郎「なんで行き先は長野県なの？」
三太郎「近場の観光地は他にもあっただろう」
磯貝「僕は、海洋生物学が専門だから」
磯貝「フィールドワークは海沿いの県ばかりでね」
磯貝「海の無い、山に囲まれた場...」
磯貝「そういう場所こそ、僕にとって最高の息抜きになるのさ」
三太郎「まるで職業病だな...」
磯貝「ニワトリに目がない君に、言われたくはないね」
三太郎「...」
三太郎（まぁ...その通りなんだけど）
磯貝「それよりも長野といえば」
磯貝「君の大好きな、鶏肉料理が名物だろう？」
三太郎「名物...？」
三太郎「...」
三太郎「あっ」
磯貝「ふっふっふ、気づいたかい？」
三太郎「もしかして...」
三太郎「行き先は松本市？」
磯貝「大正解！」
磯貝「さぁ、食べに行こうか...」

〇開けた高速道路
　　山賊焼き!!!!

〇居酒屋の座敷席
店員「おまたせしました、山賊焼きです」
三太郎「きたきた〜〜!!!!」
三太郎「でっか！うまそ〜〜〜!!!!」
磯貝「醤油ダレが香るね」
三太郎「では、さっそく...」
「いただきます!!」
「ん〜〜〜〜〜〜!!」
「うまい!!!!」
三太郎「唐揚げとはちょっと違うサクサク感！」
磯貝「普通の唐揚げと、食感が違うね！」
三太郎「山賊焼きは小麦粉じゃなくて、片栗粉だったな」
磯貝「なるほど...」
磯貝「片栗粉で衣を付けるだけで、こんなにも食感が変わるのか...」
三太郎「なんというか」
三太郎「唐揚げより、若干ヘルシー感があるよね」
磯貝「わかる、共感しかない」
三太郎「無限に食べられると錯覚してしまう...!!」
三太郎「恐ろしい料理だ...」
磯貝「...」
磯貝「相変わらず、食べる時だけ饒舌になるなぁ」
三太郎「余計なお世話だよ」
三太郎「ところで磯貝さ」
三太郎「なんで「山賊焼き」って呼ばれてるか、知ってる？」
磯貝「由来...？」
磯貝「なんだろう...？」
三太郎「じゃあここでクイズ！」
三太郎「山賊焼きの名前の由来」
三太郎「ちょっと考えてみておくれよ」
磯貝「そうだなぁ...」

〇村の眺望
　　あくまで僕の想像だけど...
　　この周辺は、昔から養鶏が栄えていて
　　貴重なニワトリを放し飼いしてたら
　　山賊によく盗まれてたから！
三太郎「......」
三太郎「残念、違います！」

〇林道
　　山賊...山賊...
　　あ、わかった
　　山賊は盗みが生業だから
　　いわゆる追い剥ぎ...
　　唐揚げも、鶏肉の皮を取って調理してたのかも
　　ニワトリの皮を剥いで、揚げる...
　　皮を剥ぐから、山賊焼き！
三太郎「......」
三太郎「うーん、惜しい！」

〇居酒屋の座敷席
磯貝「うーん...わからないな」
磯貝「正解は？」
三太郎「正解は...」
三太郎「山賊の生業は、泥棒」
三太郎「泥棒は、モノを取り上げる」
三太郎「鶏、揚げる...」
「...」
磯貝「ダジャレかよ!!!!」

〇田舎駅の駐車場
三太郎「食べた食べた！満足！」
三太郎（腹ごしらえも済んだし）
三太郎（久しぶりの温泉、楽しみだ...!!）
三太郎（温泉上がりにビールを飲みたいなぁ...）
磯貝「さて、チキンくん」
磯貝「帰るぞ」
三太郎「よしきた！」
三太郎「...」
三太郎「って、あれ？」
三太郎「...帰る？」
三太郎「どこへ？」
磯貝「どこって...」
磯貝「研究室に決まってるだろ」
三太郎「は!?!?」
三太郎「いやいやいやいや」
三太郎「まだ昼過ぎだぞ!?」
三太郎「え...ってか日帰り!?」
磯貝「息抜きって言っただろう？」
磯貝「美味しいごはんも食べたし！」
磯貝「戻って研究、頑張ろうぜ！」
三太郎（冗談だろ...）
磯貝「さ、乗った乗った！」
三太郎（...忘れてた）

〇空
　　磯貝は研究熱心で
　　ちょっと変わったヤツだったこと──